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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
覇者の曙光
19/99

水雷強襲艦1

水雷強襲艦1


水雷強襲艦、この耳慣れない艦種は日本海軍の対米戦術の大変革に伴って生み出され、その後日本海軍が航空主兵に転じていく中でその存在意義を無くしていった、いわば大艦巨砲主義から空母機動部隊戦術への変遷の中で産み落とされた鬼子のような存在だった。

 強大な水雷打撃力と駆逐艦を凌駕する高機動、中小口径砲による阻止砲火に耐え得る重防御、その代償として捨てられたものは汎用性、ただ一つの目的である敵戦艦の撃破を果たすべく水雷強襲艦は生み出された。

 4,000キロしかない航続力は、その劣悪な居住性と共に船団護衛など長距離の航海には使いようがない。

 それどころか対潜兵装さえこの艦にはろくに用意されていなかった。

 圧倒的な破壊力を持つ巨大な魚雷によって敵戦艦を撃破するために必要なもの以外は全て切り捨てられ、水雷強襲艦への燃料補給と偵察上空援護任務の為に建造された高崎・剣崎と戦隊指揮用の巡洋艦以外のいかなる艦艇との艦隊行動も考慮の外となっていた。


 水雷強襲艦はロンドン軍縮条約枠外で計画建造された基準排水量3,000tの呉型輸送特務艦(特型機動輸送艦)を改造し、それぞれ98式84センチ酸素魚雷一本を収めた単装発射管8基を積む、巨大な魚雷艇のような艦容をしていた。

 艦前半部に分厚い防御装甲を貼り付け、機関部を出力80,000馬力の機関缶室に換装し最大速力は40ノットを発揮する。

 主兵器である98式84センチ酸素魚雷は雷速40ノットで最大射程40キロ、雷速55ノットで最大射程15キロ、炸薬量最大1.8t、当時存在したあらゆる戦艦を一撃で大破させることが可能と考えられていた。

 備砲は艦首に50口径14センチ砲2門と、弱点である側方後方からの駆逐艦等の攻撃への反撃にも有効な対空兵装の40口径7.5センチ連装両用砲2基、35ミリ連装対空機銃4基を搭載していた。

 兵装配置は単装魚雷発射管を艦中央部から後部にかけて両舷に4基づつ艦中心線に平行に搭載、発射時は舷側から舷外に45度の角度まで射角を採れるようになっていた。

 14センチ砲は防御装甲を施された艦橋の前端の瘤状の部分に2門が突き出し、それぞれが独立して操砲できる。

 射角は限定されており前方の敵に対しての砲撃以外には使えないが、発射速度は高く1分間に10発以上を発砲することが可能だった。

 7.5センチ連装両用砲は艦後部に背負い式に2基、35ミリ連装機銃は艦橋後方と後楼付近にそれぞれ両舷に一基づつという配置で装備された。


 水雷強襲艦を特徴付けるのはその雷撃力・高速のほかに、艦正面の防御は限定的ではあるが重巡洋艦に匹敵する重防御が施されていた。

 ゆるやかに傾斜している主砲室から艦橋にかけての装甲は、高い避弾経始を持ち装甲の厚さととあいまって水平に近い入射角度なら20センチ砲弾の直撃に抗することが可能だった。

 また弾薬庫も20㎝砲弾の直撃に耐える装甲を与えられていたほか、艦前半部の主要箇所には対12cm砲弾防御が施されていた。


 戦闘時には艦橋要員は全員後ろ向きに配置され、その背中を支えるように緩衝材が巻かれた前後に伸退して衝撃を吸収する支柱が立っていた。

 操舵は潜望鏡のような前方偵察装置を覗きながら行われた。

 艦橋前面に直撃弾を受けたときための衝撃対策である。


 艦中央部から後部にかけてはほとんど装甲が無いが、魚雷発射管だけは直接舷外にむき出しになっている側面と弾頭部に機関砲や至近弾程度では貫通しない装甲がされていた。

 水雷強襲艦が持てる攻撃力を最大に発揮する為には、援護する艦艇によって強襲艦の弱点の側面や後方からの攻撃を排除する必要があった。


 水雷強襲艦を対戦艦主戦力とする戦術構想、それは艦隊決戦主義によって作り上げられた日本海軍の戦術を更に先鋭化したものだった。

 従来の潜水艦、航空機、水雷戦隊による夜間襲撃等の後に主力艦による艦隊決戦に臨む漸減作戦に代わり、戦闘予定海域まで米軍を引き込み圧倒的な水雷打撃力で一気に米主力艦を撃滅する。

 その戦術の前提は、多数の水雷強襲艦を予定戦場に送り込むまで対策を採られないようにその存在を隠し通すことにあった。

 条約が明けても訓練用の僅かな艦以外水雷強襲艦が直接建造されることは無く、改造前の姿である呉型機動輸送艦の建造が続けられた。

 実戦に向けたテスト運用と訓練のため4隻だけ建造された水雷強襲艦も、その存在は極秘のものとされたうえ発射管と艦前面の装甲の実装は省かれており、その重量分のバラストが元の重量バランスに応じて積まれていた。

 魚雷発射訓練は主に陸上にある施設で行われ、洋上では秘匿体制を敷いたうえで4隻で編成された強襲隊での襲撃運動の訓練が実施された。

 



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