薔薇二輪
―まさか、こんな事が起きるなんて…。
女は茫然自失となっていた。
第三次世界大戦。北の国同士が手に手を取り合い、世界一とも呼ばれる国にミサイルを撃ち込んだ。
開戦。
その国に近かった、この国は酷い目に遭った。
北の大地が焦土と化し、国内の食料自給率が一気にダウン。
もともと、輸入に頼りきりだった面もあるが、痛手だった。
それでも、しばらくの間は、人々はそれなりに平和だった。
だが…。
―まさか、こんな事が起きるなんて…。
女は焼け野原になった都会の街をフラフラと歩んだ。
人類史上最悪の兵器が落とされたのだ。
あちこちから響く、呻き声、水をくれ、という声、焼け焦げた―最早、人とは思えぬ、原型を留めぬ死体…。
衝撃が強すぎて、頭がぐわんぐわんした。
と。
「そこの方…」
弱々しい声が聞こえた。
目をやると、そこには高齢の男性が倒れ込んでいた。―左脚がなくなっていた。
女は駆け寄った。
「あぁ、女性か…目がよく見えなくなってしまってね」
どうやら、爆風で痛めてしまったらしい。
「まことに図々しいんですがね…お願いがあるんですよ…」
鞄の中に…と言う。
女は鞄を開けた。よくぞ、無事だったものだ。その中には赤い薔薇が二輪とその他雑多な物が入っていた。
男性は続けた。
「どうか、お嬢さん、お願いします…その薔薇二輪を、私の代わりに墓に供えて貰えませんか…?」
男性は墓の名前を言った。
「お願いします…私は多分、もう駄目だと思うので…」
女は迷った。
恐らく、病院も何も駄目だろう。
スマホだって使えなくなっているくらいだ。
「わかりました」
女の言葉に男性は、ありがとう、と答え、目を瞑った。
歩いて歩いて、辿り着いた。
小高い丘の上にある墓地は、爆風の影響だろう、何基か倒れているものの、大半が無事だった。
探し始める。
そんなに時間がかからずに見つける事が出来た。
刻まれているのは、女性の名前のみ。かなり珍しい名前なので、間違いないだろう。
失礼ながら生没年を見ると、二十歳の若さで亡くなっている。
この女性は…と女は思いを巡らした。あの男性の想い人だったのだろうか?
薔薇二輪の、花言葉は〈この世界はふたりだけ〉…。
女の頬に涙が伝っていた。
自然とおなかを押さえる。
赤ちゃん。あの人との…。
―この世界はふたりだけ
…この世界はふたりだけ…。
静かに手を合わせ、立ち上がった。
きっと、どこかにまだ生き残っている人達がいるはず。
避難所があればいいけど…。
スマホを取り出して確認してみた。
某呟きSNSを開いてみると、…繋がった…!
ここからそう遠くない場所に避難所がある…!
もう夕暮れだ。急ごう。
歩みだした足を、止め、女は振り返った。
もし〈あの世〉とやらがあるのなら…あの男性とこの墓地の女性が再会出来るといいな…と願った。
そうして、もう振り返る事なく、歩んでいった。




