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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

薔薇二輪

作者: 桐原まどか
掲載日:2023/09/24



―まさか、こんな事が起きるなんて…。

女は茫然自失となっていた。


第三次世界大戦。北の国同士が手に手を取り合い、世界一とも呼ばれる国にミサイルを撃ち込んだ。

開戦。

その国に近かった、この国は酷い目に遭った。

北の大地が焦土と化し、国内の食料自給率が一気にダウン。

もともと、輸入に頼りきりだった面もあるが、痛手だった。

それでも、しばらくの間は、人々はそれなりに平和だった。

だが…。


―まさか、こんな事が起きるなんて…。

女は焼け野原になった都会の街をフラフラと歩んだ。

人類史上最悪の兵器が落とされたのだ。

あちこちから響く、呻き声、水をくれ、という声、焼け焦げた―最早、人とは思えぬ、原型を留めぬ死体…。

衝撃が強すぎて、頭がぐわんぐわんした。


と。

「そこの方…」

弱々しい声が聞こえた。

目をやると、そこには高齢の男性が倒れ込んでいた。―左脚がなくなっていた。

女は駆け寄った。

「あぁ、女性か…目がよく見えなくなってしまってね」

どうやら、爆風で痛めてしまったらしい。

「まことに図々しいんですがね…お願いがあるんですよ…」

鞄の中に…と言う。

女は鞄を開けた。よくぞ、無事だったものだ。その中には赤い薔薇が二輪とその他雑多な物が入っていた。

男性は続けた。

「どうか、お嬢さん、お願いします…その薔薇二輪を、私の代わりに墓に供えて貰えませんか…?」

男性は墓の名前を言った。

「お願いします…私は多分、もう駄目だと思うので…」

女は迷った。

恐らく、病院も何も駄目だろう。

スマホだって使えなくなっているくらいだ。

「わかりました」

女の言葉に男性は、ありがとう、と答え、目を瞑った。


歩いて歩いて、辿り着いた。

小高い丘の上にある墓地は、爆風の影響だろう、何基か倒れているものの、大半が無事だった。

探し始める。

そんなに時間がかからずに見つける事が出来た。

刻まれているのは、女性の名前のみ。かなり珍しい名前なので、間違いないだろう。

失礼ながら生没年を見ると、二十歳の若さで亡くなっている。

この女性は…と女は思いを巡らした。あの男性の想い人だったのだろうか?

薔薇二輪の、花言葉は〈この世界はふたりだけ〉…。

女の頬に涙が伝っていた。

自然とおなかを押さえる。

赤ちゃん。あの人との…。

―この世界はふたりだけ

…この世界はふたりだけ…。


静かに手を合わせ、立ち上がった。

きっと、どこかにまだ生き残っている人達がいるはず。

避難所があればいいけど…。

スマホを取り出して確認してみた。

某呟きSNSを開いてみると、…繋がった…!

ここからそう遠くない場所に避難所がある…!

もう夕暮れだ。急ごう。

歩みだした足を、止め、女は振り返った。

もし〈あの世〉とやらがあるのなら…あの男性とこの墓地の女性が再会出来るといいな…と願った。

そうして、もう振り返る事なく、歩んでいった。


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