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新しい出会い


 会話の後、二人は「時間になるまでこの部屋で待機」と言って退出していった。


 手持ち無沙汰だったので机に置かれた資料に目を通す。パラパラと紙に触れる作業は、無駄に速くなる鼓動を落ち着けるにも丁度良かった。


 指先に引っかかる繊維をほとんど感じない。とても質のいい紙に、人数分刷られている資料。

 お金があるところにはあるんだなあと感心していると、補佐官が「後で回収するから、折らないでくださいね!」と隣室から顔を出した。

 なるほど。と苦笑していると、ちらほら同期と思わしき人たちが集まりだす。


 その出立(いでた)ちから貴族だろうと当たりをつけ、とりあえず会釈した。


「一番のりだと思ったのにな」

「アルバス、お前が寝汚(いぎたな)いからだろうが」

「はは、おはよう! 同期だよね、よろしく」

「おはようございます」

「俺はアルバス・フォン・モスタナ」


 私は席を立った。彼らと目線を合わせた後、再度頭を下げる。


「……ご丁寧にありがとうございます。アリアです。性はありません」

「やだな、顔上げてよ。同期なんだから」

「お前が馴れ馴れしすぎるんだよ。ガラント・ヅィー・ワイオナだ。よろしく頼む」


 やっぱり貴族だった。「お心遣い感謝致します」とにっこり笑って、しらっと席を移動する。前世では、ずっと座ったままだと冷ややかな目線を返された。

 まだ判断材料が乏(とぼ)しいから、人となりがわかるまで一般的な対応をしておこう。


 襟足にびしびしと視線を感じるが、手元に集中しているふりをした。


 資料には、第二師団に特化した配属後の心得が記されていた。王子殿下達に関する事項は記載がない。情報の流出を防ぐためだろう。回収されるとの事なので、覚えられるように繰り返し頭に叩き込む。


 入隊試験の為に必死に試験勉強をしたスラムの過去を思い出して、小さく笑った。

 教会の奥、シスターに辞書を借りながら、眠い目を擦りこすり机に向かった十四の秋。僅かな稼ぎを得つつ勉強も鍛錬もこなすのは、少々堪えた。


 四十代と思われるシスターは元の素性を明かさなかったけれど、きっと元々貴族なのだろう。

 小さい頃から読み書きを教えてくれた。そして私が騎士を目指すと決めたときから「貴族と接する機会も出てくるでしょう」と言ってある程度のマナーを教わった。

 それは騎士向けではなかったし、少しばかり古いものだったけれど、習っておいて良かったと、今更ながら感謝した。


 そうして時間を潰しているうちに席が埋まり、隣には平民の出らしい男が黙って座った。


 ちらりと目が合う。


「ベン・カーペンターだ」

「アリア。よろしく」


 それで終わりだ。

 お互いに平民の出だとわかったらしい。

 早々にそれぞれの思う通りに過ごし、こちらのほうが正直なところ気が楽でいいなと、ゆっくり肩を下ろした。




「さて、改めて入団おめでとう。諸君」


 私を含め、総勢二十四名の新兵が席に着いていた。

 一人一人の顔をしっかりと見つめるダグラス隊長。先ほど中尉と呼ばれていたから、隊長呼びは間違っていたのだな。と、ひとり恥じた。


「私が小隊長のダグラス・フォン・エドモンテだ。ダグラスでいい。しばらく指導官を務める。君たちを六班に分け、昨年度の入団員を指導員として一人ずつ付ける。戦場では互いの命綱になる輩(ともがら)だ。如何なる理由があろうと相手を損なうことは許さん。切磋琢磨し、王国の清廉なる剣となるよう期待する!」


「ハッ!!」


 ダグラス中尉の激励に、全員が立ち上がる。

 彼の視線は向かなかったけれど、私にも充分配慮してくれていることがわかった。

 形だけでなく、心からの敬礼をダグラス中尉へと贈った。


 ダグラス中尉の号令でなおると、指導員が六名前に並び、紹介された。

 私は六班。指導員はカルロスという平民からの先輩騎士だ。先ほどのアルバスとガラント、それからベンが同班になる。


「お! さっきぶりだね。よろしく」

「モスタナ卿、光栄です」

「呼びにくいでしょ。アルバスでいいよ」

「アルバス様」

「うっ、んん。いいね」


 若干頬を赤らめるアルバス。微妙な空気になる前に、ガラントが彼の頭を盛大に叩いた。


「あだっ」

「いいね! じゃない。職場でナンパするな」

「誤解だ!」

「ワイオナ卿」

「俺もガラントでいい。敬語もやめろ。戦場でまどろっこしいのは命取りだろ。そこのでかいのもだ」

「ベン・カーペンターです」

「ベンな。いいか、二人とも普通に話せよ」


 並び立つベンを見上げる。ベンも私を見ていた。


「では、遠慮なく」

「ああ」

「よろしく~」


 こうして、新しい所属が決まった。

 回帰前との差に何度も驚いたが、正直ずっと過ごしやすかった。




読んでくださりありがとうございます、

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