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1. 地下へと伸びる長いエレベーターを抜けると裸にされていた

 何が待ち受けているか、微塵も見当がつかない。

 そんな場所に赴く事になった俺達は結局のところ、一週間の猶予が与えられたにせよ、体の調子を万全にしておくくらいしかやる事もない。そして、そんな場所に赴かせるのだから好きな事を好きなだけすれば良いと金もたんまりと渡されたり、都合の付く事なら国家権力を使ってでも色々優遇するとか言われたけど、まるで戦争末期の某敗戦国で特攻隊の前夜に豪勢な飯があてがわれただとか、宗教家の始祖が処刑される前日に哀れんだ天使達と共に宴を開いただとか、そんな感じで利用する気も起きなかった……が。

「利用出来るものは利用しちゃいましょうよ! それに私、こういうの利用しないと、ムカッ腹が収まりそうにありません!」

「……じゃあ、何をしたいんだ?」

 赤城の事だから、きっと碌な事じゃねえだろうなーって思っていると。

「戦闘機に乗ってみたいんです!」

「あ、それは俺もやっときたいな」

 赤城は盛大に吐いた。あれ程尻尾がしなしなな赤城は初めて見たかもしれない。

 俺も……二度は御免だった。


 ロケットランチャーや機関銃を撃ちたい。

 まあ、俺の仕事で必要になる事は無いだろうなあと思いながら、その破壊力を実感した。

「私の隠れ家も没収されてしまいましたからねー……」

「そういや、あのアパートってもしかして上に知られてたんじゃねえの?」

「記憶処理を受けさせられる時は意識が曖昧になるようでして、その時にぼそっと漏らしてたようです。そこから洗いざらい私のこれまでを見直されて、全部没収されてしまいましたよ!

 全く、本当に腹が立ちます! 黒岩のうんこたれ!」

 ……意外と赤城って、人を憎んだりした事が少なさそうだな。


 麻薬を一度で少量でいいからやってみたい。

 流石に却下された。

「今の医学もまだ依存性のない麻薬は作れないんですねー!」

「お前、そういう代物も持ってるイメージあるんだけど」

「銃より手にいれるの意外と難しいんですよ!」

「……あっそう」

 ただ、地下に入る時には持たせてくれるらしい。

 自決用として。


 人肉を食べたい。

 死刑囚は全て俺が殺してしまって、全て火葬済みとの事。

「食べときゃ良かったとか思ってる?」

「そうですねー……そんな余裕、私にはありませんでしたけど。

 どこかに捕えたら死刑確定な人居ませんかねー?」

 ……物騒な銃器やらをたっぷり隠していたお前が結構近いと思うんだが。

 そんな目線が察せられたのか。

「あ、私はこれでもきちんと色々成果挙げているんですよ!? 蒼樹さんに依頼した暗殺も幾つかは私が手づから居場所を突き止めたものが多いんですからね!」

「銃器を隠していたのとトントンくらいか?」

「結局使ったのは死刑囚殺しただけなんですから、トントンも何もないと思うんですけどねぇ!」

 そういう事じゃねえと思うんだけどな。


 そんな事でいろんな所を俺も一緒に連れ回されていれば、あっという間に一週間は過ぎ去っていく。

 三日前には再び精密検査を受け、それからどれも役に立つかまーったく分からないものの、装備を整えた。

 武器から各種調査用アイテムとして小型のドローンだったり、ガスマスクだったり、非常食だったり。

「なんかなー、こういうの揃えたら揃えただけ、それに相応するような試練が待ち受けているような気がするんだが?」

 そんな文句を言うと、揃えてきた黒岩が不満げに言った。

「じゃあ、無手で行くか?」

「そこまで開き直れる程、無謀でもねえなー」

「ゲームとかでは、時折プレイヤーのステータスを参照して強さを確定するボスとかが居たりするものですけどね!」

 黒岩が鼻で笑って言う。

「ゲームじゃねえぞ?」

「人生はゲームですよ! でも、それだと断じれる要素が無いままに無謀しようとは思いませんね!」

 ゲームなぁ。やった事はあんまり無えし、俺はあんまりハマる事も無かったんだが。

「そーいや、クリアしたら褒美でも貰えんのか?」

「戦利品次第だな」

 ぱっと出てきた戦利品という言葉に、少し疑問符が付く。

「彼、対戦ゲームもやってますけど、ずーっと最上位には行けてないんです」

「うるさい」

「……あんたら、実は仲良しとか無いよな?」

「んな気持ち悪い事言わないでくれ」

「そんな気持ち悪い事言わないでくださいよ!」

「…………」


 二日前。赤城の両親をひっそりと呼び寄せたとかで、赤城はそれに会いに行った。

「赤城自身はカルトって言ってたが、そこまでではないのか?」

 灰塚に聞けば。

「カルトよりヒッピーって感じだったし、酷い目に遭ってきた少数人族とかの逃げ場所になっていた部分もあるから、こっちとしては助かる部分もあった位だね。

 でも、紅葉の父親はそれを上手く纏め上げると同時に、甘い汁もたっぷり吸っていたから、うん。プラマイゼロって感じ。

 崩壊した時の事は、僕がまだここに来る前だったけど、記録を見る限り後始末に色々てんやわんやだったみたい」

「赤城自身もそういう結末をその内迎えそうな気がするんだが」

「そうだとしても、紅葉はヘラヘラ笑っていると思うよー」

「『私が好きなようにやった結果なのですから、後悔などするはずないじゃ無いですか!』とでも言いそうだな」

「うーん、『ここまで計画してたに決まっているでしょう! 見てくださいよこの爆発っぷりを、壮観でしょう!』とか?」

「アイツ、意外と常識的なところも残ってるから、切羽詰まらないと流石に一般人巻き込んでドッカンまではしない気がするんだけどな」

「不治の病とかに罹ったら巻き込みそうじゃない?」

「……否定できねえ」

 やっぱ赤城は首輪を付けておかないとまずいんだろうな。


 一日前。

 相応に準備をされると、こっちとしても気楽に臨むつもりだったのが緊張してきてしまう。

「久々の親父さんとの会話はどうだったんだ?」

「毎年絵葉書で写真は見ていたのですが、実際に会うとなると……やっぱり少し緊張するものがありましたね!」

 やっぱりこいつ、根っこからのサイコパスじゃねえんだよな。

「でも、話してみれば一瞬で打ち解けました! やっぱり私、この人の子供なんだなあって実感しましたねー……」

 赤城みてぇのがもう一人……。

「その父親は、その後どうしたんだ?」

「母と共にまた海外へ旅立って行きましたよ! きっと恨む人は今でも恨んでいるでしょうからね!」

 赤城が二人になったなんて、うん……ぞっとするからな。それが良い。うん。

「それと……会話していて感じたんですけど、やっぱり父は母が暴露した事まで織り込み済みなんじゃないかって思うんですよね」

「別にお前の父親なら驚かねえなあ」

「うーん……。思うのは、最初から織り込み済みだったら、どうして私は両親と共に海外へと飛ばなかったんでしょう?」

「意外と人並みな悩みを考えるんだな、お前」

「私を何だと思ってるんですか!?」

「意外と常識的なサイコパス」

「快楽主義者って言われる方が好きですねー!」

「……お前のツボがどこにあるのか分からん。

 それと、うーん、お前が着いていったら、結局お前も親父の宗教の一員として扱われてたんじゃねえの? 小さい頃だったから、まだお前はそういうしがらみから離れられたんだろ」

「だったら、そういう事を察せられるような書き置きでもあって良かったと思うんですけど」

「そん時まだお前は幼かったんだろ? どういう経緯でお前の父親の宗教が瓦解したのか知らんが、外的要因があって遠からずそうなるかもしれなかったとか考えたら、お前に何か残すというような危険な真似も出来なかったとか、色々考えられるだろ」

「そんな感じで少しこじつければ説明はつくんですけど、どうにも納得出来ないんですよねー」

「……ま、事が終わったらまた呼び寄せるか、そっちに向かって聞きに行けば良いだろ」

「それもそうですね!」

 一日前となると、もう流石に自由はない。持っていく装備やらの最終調整をしていると、黒岩が何か聞きづらそうな事を聞きたいような雰囲気を醸し出していた。

「何か言いたい事でも?」

「……万一があった時の為の言伝などは必要ないか?」

「そういうの、死亡フラグって言うんじゃねえの? まあ、俺は要らんよ。毎回の仕事の時もんなもん用意してねえし。

 それに俺はこんなガッチガチに装備を整えて行くつもりはなかったんだけどな。いつも通りに臨むつもりだったんだよ」

「……すまんな。ただ、地下にあるものに関してはそれだけ期待が寄せられているって事だ」

「これから百人単位で人を殺そうと画策するようなテロリストを仕留めたり、危険な連続殺人犯を捕えたりするより?

 死刑に満たないような奴を駆り出してまで、俺の武に赤城が付いて行けるか確認したい程に?」

「そうだな。そうでなければ、あんな審査などするものか。それ程に……石器時代の人が今の技術を手に入れられようとする程に、地下に潜んでいるものは価値があると思っても良い」

「…………ひとまずは、納得した」

「助かる」


 明日を踏まえた普通の飯。早めに就寝するように言いつけられる。同じ部屋で寝る事になったが、別にそういう事をする気分にはならない。

 事を終えた後ならする気になるが。

「何だかんだで明日ですね!」

 赤城が尻尾をブンブンと振り回している。

「ピクニックにでも行くみてえな気分か?」

「こんな時代に未開の地に行けるだなんて、ワクワクしない訳がないでしょう!」

「そりゃそうだわな」

 色々と大袈裟に準備やらさせられて、その雰囲気にやられていた所もあるが、そんな大航海時代みたいな未知の世界を目指して進んでいくという事が出来るとは。

「そう言えば、まだまだ未知の場所ってのは結構あるんですよ? 例えば、入った人達が原因不明な呪いとしか言いようのない事象に突き当たって、調査すらされてない曰く付きの場所ってのは今でも結構ありますし。

 他にも深海の奥底だったり、濃い有毒ガスの充満する活火山の洞窟とか」

「曰く付きの場所は置いておいて、そう言うのは専門の学者でもねえと行こうと思わなくないか?」

「その曰く付きの場所はどうでしょう?」

「……一人では行きたくねえな」

「私とだったらどうです?」

「……何だかんだ成果を出して楽しんで帰って来れる予感がする」

 そうなんだよな。赤城とは何だかんだ馬が合うし、相乗効果みたいな事もあるだろうなって思うんだよな。……少し否定したい気持ちも無くはないが。

「じゃあ、終わったら行きますか?」

「すまんな、先約があるんだ。俺、弟と一緒に南米旅行に行くのさ」

「それも面白そうですね!」

「いや、流石に家族旅行にまで付いて来んなよ」

「残念ですねぇ」

 日が変わる頃までダラダラ喋った後に普通に寝た。


 そして翌日。

 まだ夜の更けない早朝に起きて、飯を食い、便を出し。そして頑丈な車に乗ってどこか遠くへと走っていく。

 高速道路に乗り、数時間乗って降り、そこから山奥へと。

 大規模な工事機械を送り込んだ痕跡の残る、急拵えのガタガタな道を更に進んでいく。

『少なくともエレベーターが発明された時代より数千年前から、このエレベーターが発掘された地層はそのまま、人の手に触れる事はなかったと断言出来ている』

『無人機を送り込んだエレベーターの中からは、匣が数多に返ってきた。人に新たな機能を与えるという、遥か太古からあり、そして数多の研究者がその謎の解明に取り組んだが、未だ再現はおろか、謎ばかりが残るそれ。更に未だどこでも確認出来た事のないような機能を付け加える代物ばかりだった』

『外の世界を数多に掘り返して、数多の生命を顕微鏡ですら役不足なレベルで覗く眺め回して俺達のルーツを調べた結果は、この星に住むどの生命とも繋がりを持たないという事だった。

 俺達には、他のどの生命も持つような先祖が見つからなかった』

 俺達のルーツに関わる存在。それはもしかしたら万年単位でも足りない程の時間を待ち続けていた。

 待っているのは十中八九、俺達を作った何者かそのものではないだろうと思うがSFの世界ではコールドスリープというものがあるとも聞く。

「もし創造主様そのものに会えたら何か言う事でも考えるか?」

「少し考えたりしたんですけど、何だかんだで『ありがとうございます』になりそうですねー!」

「……なーんか、すげぇ意外に思えるんだが」

「私は生まれてきて良かったって思えていますからね! 親に言うのと同じ感覚ですよ!」

「そう考えると俺も同じになるのかね」

「……是非そうしてくれ」

 助手席に座っている黒岩が、胃が痛くなっているような声で返してきた。


 すり鉢状に掘り進められた山の中腹。

 その縁の部分で降りる。

 こんな地震やら台風やらたっぷりな国でも万という年数の単位で安定であった場所。

 掘り進められた中心に、遠くからは無機質な箱にも見える、そのエレベーターがあった。

「……そういやさ、こういう発見された場所って多分、ここだけじゃねえよな?」

 黒岩に聞いてみると、頷かれた。

「俺達のDNAに共通して刻まれていた全ての暗号が解けた訳じゃない。

 それに解読したチームに依ると、きっと、それぞれの地域で解けやすいような暗号に仕立て上げられている、との事だ。

 こんな島国だからこそ生まれた宗教、文化。そういう代物から自ずと解く事が出来るように導かれたようだった、と言っていた」

「じゃあ、もう他の国の人達はその創造主の遺産やらを手に入れているかもしれないって訳か」

「幸いにも今の所目立った動きは無いけどな」

「へいへい」

 降りていく最中、作業員に見せかけた軍人達が今も作業をしている。鍛えられた肉体や、所作がまんまそれだ。

 そして銃器もこっそりそこらに隠されている。

 道中にもぼちぼち隠れているのが見えてたし。

「流石に厳戒態勢ですか」

「お前達をここに入れる為の厳戒態勢なんだぞ」

「へいへい」

 やけに赤城が静かだなと思えば、その尻尾は堪えきれないようにブンブンと振られていて、エレベーターを食い入るように見つめていた。

「転ぶなよ?」

「…………」

 こりゃダメだ。


 そして、エレベーターの前にまでとうとう辿り着く。

 装備をさっくり整えて、最終確認。銃を含む武器、食料、各種調査用具、そして最後に自決用の毒入り麻薬。

 チェックリストと二度照らし合わせて、欠けがない事を確認し終える。

「こんなごっつい装備で仕事に臨んだ事、これが初めてだなー」

「軍隊は大体いつもこんなものですね!」

「ま、そもそも俺の仕事は戦闘じゃねえからな」

 緊張感のない会話をしていると、黒岩が聞いてくる。

「……準備は良いと見做していいのか?」

「はい!」

「モチのロンですな」

 そして赤城が何の躊躇いもなく、エレベーターのボタンを押した。

「あっ」

 周りの軍人やらが呆気に取られる中、ヴゥンと音が鳴って扉が開く。

「じゃ、行ってくるわ」

「楽しみに待っていてくださいね!」

「……お、おう」

 呆気に取られたままの黒岩達の顔を見届けて扉が閉まり。


 気付いたら、赤城と共に素っ裸にされていた。

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