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6. こってりがあってこそ、あっさりが輝く

 盗んだ車は駅前に置いていき、電車と新幹線を乗り継いで帰る。

 お上の人達が今頃、あの場所の修復とか頑張ってる……少なくとも補填はしているだろうし、この車もきっと返してくれるだろう。

 新幹線の切符を買って、少しばかりの空き時間。行きの新幹線の時のようにポケット越しにでも暗殺して来ようとする奴が居るかと思ったが、一度防いだからか流石に二度目は無さそうだった。

「そのオプシディアンまで、ここからどの位だ?」

「多分15時とかになりますね!」

「パンでも買っておいて欲しいな」

「何がお望みでしょう!?」

「うーん。あったらうぐいすあんぱんか、クリームパンとかそこあたり。何にせよ、舌に残らないようなくどくないヤツで頼む」

「分かりました!」

「俺は外で敵が居ないか確認してるからさ」

 パン屋まで行って赤城が中に入る。トレーとトングを取って、自分の買う分も迷いながら、トングをカチカチしている光景をガラス越しに眺める。

 それにしてもカチカチし過ぎじゃねえか? 一秒に何回やってるよアイツ。

 そう思いながら俺は体を横にずらした。後ろからゆらりとナイフでも突き刺そうとしてきた奴に、足を引っ掛けて転ばせる。

「きゃっ!」

 可愛らしい声を出しながら、がづ、と俺に突き刺そうとした物がそのまま地面に硬質な音を立てた。

「はぁ……」

『勝手に試されるっていうのはとてもイライラしますね!』

 その通りだなあ。

 ガラスを叩く。赤城がこっちを向いて、気付いたかのように目で了解、と伝えてきた。

 その蜥蜴人の女を起き上がらせて、小声で言う。

「じゃ、行こうか。何、命までは取らない。少し楽しませて貰うだけだ」

 昨晩抜いたばっかりだけど、数日抜いてなかったからな。まだまだ元気なんだ、俺の雄は。


*


 戻って来ると、壁に背を付けていた赤城がほっとした顔をした。

 そういや、一人にするのは少し危なかったか。俺みたいに、この雑踏の中で暗殺して来るような奴を見分けられるような五感は持っていないんだし。

「随分すっきりしたようですね!」

 パンの袋を渡してきた。

「いや、すまん。心細かったか?」

「はい! 私は流石に蒼樹さんのように、ばれずに始末するような技量は持ってませんから!」

「すまんすまん。ま、後は帰るだけだ。帰りも通路側に座ってるからよ、お前は窓側でゆっくり寝ていてもいいぞ」

 何だかんだで戦闘以外は大体赤城に任せていたからな。金も赤城のものだったし。

「流石にそこまでは……、いえ、言葉に甘えさせて貰います。戻ってからも何もないとは限らないですし!」

「やだなー、それは」

 パンの袋を開くと希望通りのクリームパンと、どうやらベリー系を練り込んであるスコーンと、ハムサンド。

 うぐいすあんぱんは無かったようだった。

 俺は普通のあんぱんより好きなんだけどなあ。

「足りますか?」

「15時までなら十分だな。それで、そろそろ時間だろ? 行こうか」

「はい!」


 新幹線に乗りこんでも刺客は居らず、赤城は窓際に座って列車が動き始めると、パンを一つ一つ食べ始める。

 最初にカレーパン。次に粉砂糖とチョコレートがたっぷり掛かったドーナツ。最後にタンドリーチキンの分厚いサンドイッチ。

 カロリーの高いもんを選んだんだろうが、それは即ち俺が道中控えている味の濃いものであって。

「俺も帰ったら油ギットギトのカレーパン食いてえなー」

「淡白なものが好みじゃなかったんですっけ?」

「ギットギトのものが食えてこそ、淡白なものが好きなの、俺は。

 ドロッドロのラーメンとか食って、やっぱシンプルな醤油ラーメンが良いなって再認識するタイプなんだよ」

「意外と面倒臭いタイプなんですね!」

「……何か、お前にだけは言われたくない台詞を言われた気分だ」

「……まあ、オプシディアンで食べられますよ。彼、独身貴族の趣味は大体網羅してますので、カレー作りからパン作りからパスタ作りまでやっているんですよ」

「味は?」

「どれも普通です」

 そう、つまらなく言った。

「…………」

 なんっつーのか堅物だけど、意外と残念っぽいんだろうな、黒岩って。

 けれど茶化すと洒落にならない位に怒るから、そこあたりでつまらない認定されてるとか、そんなイメージが湧いて来る。

 赤城は茶をごくごくと飲み干すと、程なくして眠り始めた。

 どう見ても熟睡していて、突いても起きなさそうな雰囲気。

 機動隊的な事も経験があるって言ってたが、デスクワークメインで体力は意外とそこまでないのか、それとも昨日の戦闘が想像以上に響いているのか。

 どちらかと言えば後者だろうな。最初こそ威勢を張っていたが多分アレは本当に捨て身で開き直っていたからこそであって、そこまでする必要が無い、ある程度想定済みと理解してからは、落ち着きつつも臨機応変に対応する必要が出てきた、と。

 そこに、きっと経験した事のないゲリラ戦。

 顔や雰囲気には出していなかったが、意外と精神的にはギリギリだったのかもしれない。

 要するに、赤城って奴は普段はサイコパスっぽい雰囲気を出しているが頭のネジは精々緩んでいる程度で意外と常識的な所も残っていたりして、そしてキレると何しでかすか分からないタイプ。

「こいつと俺はこれから何をさせられるのかねえ?」

 赤城の買ったパンは、妙に甘さがきついクリームパンと、ボロボロと崩れるスコーンと、意外とカラシが強く効いているハムサンドと、どれも喉が渇く代物だった。

「……俺も寝てえなあ」

 なーんにも気にせず、昼過ぎまでふかふかのベッドでだらだらしてえなー。


*


 首都にまで戻ってくると、人の多さに少しの懐かしさと鬱陶しさを覚える。窓から見える刑務所も通り過ぎ、けれどその前後でも特に何事も起こる事はなかった。

 新幹線から降りて、適当に電車を乗り継いで最寄駅まで着くと、丁度15時だった。

 そこは都会ならではの、何と言うのか、きちんと人生に成功しているような人ばかりが住んでいるような住宅街。

 理路整然とした街並み。チェーン店は駅前くらいにしかなく、少し路地に入れば小洒落た店ばっかりが並んでいる。

 少しムズムズする。

「面倒くせー旅だったなー」

「二度は御免ですが、私は少し楽しかったですね!」

「そっかー……」

 やっぱこいつの頭のネジ、外れてるんじゃねえかな。

 欠伸をする。

 殺意は全く感じなかった。ムズムズするものの、平穏そのものな街並みの中を歩いていく。エステの店。花屋。本場で修行してきたような雰囲気を見せているパン屋。意識高そうなラーメン屋。あ、これは入りてえな……いや、それより今はギットギトのラーメン食いてえ。

 曲がり角を右に曲がって。

「あ」

「おっ」

 ばったり出くわした狐人に、赤城は言った。

「結局、部署全体で私を騙してたんですか?」

「そうだよー。あのサーバーも僕が頑張って色々作ったのー」

 赤城の直属の上司の、灰塚だった。赤城や俺より二周り位小さく可愛らしい見た目をしている狐人のくせに、どうしてか全身から毒が漏れているようなイメージが湧いて出てくる奴。

「殴りたいですけどねえ! ……一番聞きたいのは、何でこんな事を?」

「それはオプシディアンに行ってから話すよー。あ、パン食べる? 買いに出てきたんだ」

「じゃあ、カレーパン」

「私もそれで」

「黒岩がムスっとしそうだなー」


 closedと出ているそのオプシディアンの扉を潜ると、赤城の同僚達と、そして俺の親父が……。

「親父までグルだったのかよ!?」

「久しいな空海。去年の夏振りだな」

 俺も頭を振って、どかっと近くの椅子に座って聞いた。

「それで? 俺達に何でこんな事を? 赤城と組ませて何をさせるつもりだったんだ?」

 コポコポと手間の掛かるような器具を使って、(それでもきっと並の味であろう)コーヒーを淹れていたドデカい図体の黒岩が呟いた。

「赤城は気付いてるんじゃないか?」

「推測ですけど……旧人類の遺産でも見つかったんです?」

「旧人類?」

 そういや、赤城はそんな事を言っていたような。

 あー……? 世紀末ショックで旧人類なんて話、出てなかったよな?

 そんな事聞いた事がねえし、本にも書かれてなかった。

「匣。結局それの中身も、未だ俺達の科学力では解明出来ていない。

 何故、俺達二足で歩く生き物だけに、肉体に新たな機能を付け加えるような代物がどこかから湧いて出てくるのか。

 何故、俺達のDNAは他の生き物と乖離した、生き物の進化に関連しない組成をしているのか。

 それがつい最近、分かった。

 俺達のDNAの一部は、暗号になっていた。その解読が出来たんだ」

 コーヒーがテーブルに置かれる。

 きっと、俺達は合格なんだろう。その上で、俺が想像していたよりスケールが違うような事が話されようとしていた。

蒼樹:

あっさりしたものが好きだけど、こってりしたものも時々食べたい。


赤木:

味の濃いのが好き。


牛人:

体格: 大

筋力: ☆☆☆☆☆

脚力: ☆☆☆

瞬発力: ☆☆

備考: 頭からでっかい角が生えてる。


狐人:

体格: 小~中

筋力: ☆☆☆

脚力: ☆☆☆

瞬発力: ☆☆☆☆

備考: 鼻が良い

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