4. 生まれ育った故郷ではお月見焼と呼んでいた
パシャッ。
「あああああ!? 目がぁ、目がああああああっ!! うあっ、くそっ、ばれたっ、何も見えねえっ、畜生畜生畜生畜生何で俺がこんな事にっ、ああっ、あああっ、目がっ、俺の目がっ!!
あっ、ああっ。くそっ、銃はどこだっ、あったっ、くそっ、来るなら来いっ!」
「望みの通りに」
耳に囁かれた。
「えっ?」
首に手が回る。顎が持ち上げられる。冷たくて熱い感覚が首をなぞった。
運が良かったのか、試しに撮った位置に丁度狙撃者が居た。
狙撃銃の弾を抜き取って赤城に渡す。
「そのカメラ、後何回位使えそうだ?」
「体感だと少なくとも二回は使えるかと! 危なくなり始めたら焦げた嫌な臭いがし始めますので!」
体感……、まあ趣味でこういう事もやってるんだろうな。
「ああ、分かった。同じ手は通じないだろうが、ばれたとしても夜目が効く相手なら外を続けて見る勇気も無いはずだ。
少しは動き易くなる」
「積極的に仕掛けていきますか!?」
「いや、俺達の位置もばれただろうからな。ちょっと移動して来るのを迎え撃とう」
「了解です!」
早速遠くから何者かが動いて来る音が聞こえてきた。
*
複数人が各方向から狭まって来る。
相手に犬人やらがまだ居たようで、位置をずらしても結構正確に迫って来るのが感じられた。
「煙も少なくなってきましたしね!」
「訓練を積んでない奴等だから、音とかもな。
森で一人で、何も持ってない時は五感全てで気を付けてねえと最悪、獣に生きたまま食われるんだぞ」
「えっと……そうやって亡くなった親族でも居るのですか?」
「いや、親父に脅されただけ。少なくとも俺の知る範囲では居ない。
ほら、そろそろ来る。……訓練してないなりにタイミング合わせて来るみたいだな。
狙撃手はまだ居るかもしれねえから、窓際には出るならフラッシュ焚いてからにしろよ。タイミングずらすのも忘れずにな」
「はい!」
その直後。
ぱりんっ!
窓ガラスの割れる音と共に転がってきた手榴弾。
「こんなもんまで持ってたか」
備えておいて良かった。
テーブルを盾にして身を隠す。
バンッ!!
すかさず仕留めようと素早い犬人と山羊人が割れた窓から入ってきた。目の前に居た犬人が鉈を振り被る、のを抑えながら首を切り裂き、離れて銃を構えた山羊人に対して、尾の鉄球を外し飛ばして顔面にぶち当てる。
ぐぢゃっ。
「げぶっ」
思わず銃を落として顔を抑える山羊人を仕留める……前に、もう一度手榴弾が転がってきた。赤城はそのまま隠れ直し、俺は山羊人の背中に回り込んで、暗器で胸を突き上げながら盾にする。
爆音、次に入ってきたのは大柄な猪人と熊人。しかも道中で色々取ってきたらしく、鉄板やらを身につけ、更に散弾銃と斧まで。
「わお」
パワーで負けている事は言わずもがな。だが、それ以上に嗅覚が狼人と同じ位に鋭い。
そして、顔は覆っていなかった。マスクの類はなかったのだろう。
ここで俺も赤城も考えた事は一緒で。
パイプ爆弾を手に取る。ただ、それの中身は火薬と釘やらではなく、火薬と、唐辛子を詰め込まれた辛いソース……を更に煮詰めて凝縮したデスソース。
赤城もそれを投げつけた。
「効くかよぉ!」
向けられた散弾銃。山羊人を再び盾に。頭を更に防具で固めている腕で守る。
爆音が三つ同時に鳴り響いた。
「うがああああ!?」
「いぎゃああああああ!!!!」
薄目を開けてみれば、熊人と猪人は武器も落としてのたうち回るばかり。そしてテーブルを真っ二つにした斧のすぐ隣で、両手で鼻を守っている赤城。
俺の鼻にも痛みが飛んでくるが、舌に来なきゃ俺は耐えられる。
「効いたな。
ほら、赤城。片手出せ。離れるぞ」
「は、はい!」
二階に上がる前に、パイプ爆弾をのたうち回るばかりの二人に置き土産。
熊人は死ぬか分からないが、五感の一つや二つは潰れてくれるだろう。
外には出ず、二階に上がる。
「……もうそろそろ大丈夫だぞ」
「やっぱりこれ、ただの爆弾より私にとっては危険物です……」
鼻をピスピス言わせながら赤城が言う。
俺も丹念に目と口周りを布で拭ってから開く。
「だからこそ作ったんだろうが」
二階から窓をそっと開けて、暫く臭いを嗅ぐ。
……ここからでも少しピリっとするな。デスソースの量、流石に多過ぎたか?
「殺気は感じねえなー。終わりか?」
「私の鼻にはもう暫く期待しないで下さい……」
「へいへい。
後は狙撃銃持ってる奴が居るかどうかなんだが……。ここは風下の方だし、お前の鼻が復活次第、もう終わりにしてここから去っても別に良いだろ。
俺達のどういう事を試してるのか知らんが、大半は倒したし、相手が専門職でないにせよ、銃持った奴等にここまで無傷で居られる奴、早々居ねえだろうしな」
装備が潤沢にあれば、って言う条件を付ければ優秀な軍人でも行けるかもしれないが、そういや、銃は赤城も含めて一発も使ってねえな。
拳銃の弾も結構補充出来たし、散弾銃から狙撃銃まで手に入れちゃったし。
暗器の血を、水も使って拭い落として臭いを……デスソース爆弾使ってしまったから、全身洗わねえと意味ねえな。
鞄から鉄球とパイプ爆弾を鞄から取り出す。鉄球は尾に嵌め直して、パイプ爆弾はポケットに仕舞い込む。それだけで手持ち無沙汰になって、そのホームセンター製の暗器をくるくると回す。
「少しだけ、こういう代物を使う時、罪悪感が後からいつも湧いて来るんだよなー」
「何故です?」
「人がより良く生きる為に使う道具で人を殺してるって罪悪感」
「意外と真面目なんですね!」
「おめーが不真面目なんじゃねーの?」
「否定はしませんね!」
その位じゃねえと、国の裏方なんて出来ないのかもしれないけど。
赤城の鼻が回復してから一階に戻る。動脈でも切っていたのか、血の池を作って僅かに体を動かすばかりの熊人を介錯して、機構が壊れた散弾銃から残りの弾を回収する。
そして一度赤城だけ二階に戻り、外に向けてカメラだけを出してフラッシュ。
「ぎゃああああああ!!」
正確に狙いを定めようとしていたのか、より近くにと移動しようとしているのが、赤城の鼻と俺の舌が嗅ぎつけていた。
俺が飛び出して仕留めれば、それで最後だった。
*
民家でシャワーを借りて、デスソースと血を洗い流す。
先に赤城。全身の毛皮をびしょ濡れにした後に拝借したタオルを何枚も贅沢に使いながら乾かしていく。
次に俺。さっと洗ってさっと拭うだけ。鱗だとこう言う時便利だ。……裸でも寒さに耐えられる方が便利だとは思うが。
それから車も拝借して、この集落を後にする。
閉まって暗くなっているコンビニを通り過ぎ、程なくして公道へと出れば、他の車を見かけた。
遠くから国のお偉いさんとかが俺達の戦い振りを観察していたのかもしれないが、赤城の鼻でも嗅ぎつけられなきゃ、見つける事はどだい無理な話だ。
それに試されているのは確実で、だから見つけたところで大して状況も変わらねえだろうし。
スピードを上げて、取り敢えず市街地へと向かう。
「んむんむ。後どの位殺せば良いんでしょうねー?」
「……ごくっ。さあなー。ただ、こんな生活、ずっと続けるなんてしたくねえなー」
同じく民家から拝借した、チンしたお月見焼を食べながら、少しばかり緊張を解して駄弁る。
「このベイクドペイポン、中々美味しいですね!」
「ああ、量販店で売ってるような冷凍ものとは…………え? ベイクドペイポン!?」
「ちょっと前ですかね! 噴火で灰の海に沈んだペイポンの古代遺跡から、この甘乙女を焼く金型にそっくりなものが見つかったって事で、一部でその呼び方が流行ってるんです!」
「へー、そりゃ知らんかった」
「ただ、粒餡だったらもっと良かったんですけど」
「俺はそこまで餡子の食感には拘らねえなー。羊羹は漉餡が良いけど」
二つ目のお月見焼を手に取る。
ふと、窓から空を見上げると、月がまん丸と輝いていた。
……何かムラムラしてきたな。
「なあ、赤城ー」
「何でしょう!?」
「今日の宿はラブホで良いか? 後、俺の尻貸すからお前の尻貸してくれ」
「蜥蜴人の女でなければ嫌だったのでは?」
「流石に三日もじっとしてたからなー、何でも良いから抜いときてえわ」
「分かりました。ただ私、流石に疲れてますので、寝ても勘弁してくださいね!」
「へーい」
車の通りが多くなってきて、ラジオを付ける。
『本日は歴史の授業です。
さて我々人類の遺伝子が、他の生き物と強い関わりを持っていないというのは周知の事実ですが』
「…………ほぇ?」
ポンペイからたこ焼き機が発見されたってヤツ。
蒼樹:
装備:
・ホームセンター製のボディアーマー
・ホームセンター製の暗器
・ホームセンター製のパイプ爆弾
・ホームセンター製のデスソース爆弾
・ホームセンター製のトラップ素材
・ホームセンター製の尾に嵌める鉄球
・投槍器
・予備の暗器やら鉄球やら爆弾やらが入っている鞄
・拳銃
例のアレはお月見焼と呼ぶ。
つぶあんかこしあんかは気にしない。
赤城:
装備:
・ホームセンター製のボディアーマー
・ホームセンター製のボウガン
・拳銃
・散弾銃
・狙撃銃
・短機関銃
・パイプ爆弾
・デスソース爆弾
・フラッシュを改造したカメラ
・金
例のアレは甘乙女と呼ぶ場所で生まれ育ったけど、気分で色んな名称で呼ぶ。
つぶあん派。
山羊人:
体格: 平均的
筋力: ☆☆☆☆
脚力: ☆☆☆
瞬発力: ☆☆☆
備考: 持久力に長けている。指の力が強い。頭からでかい角が生えてる。
猪人:
体格: やや大きめ
筋力: ☆☆☆☆
脚力: ☆☆☆☆
瞬発力: ☆☆☆
備考: 鼻が良い。
熊人:
体格: 大
筋力: ☆☆☆☆☆
脚力: ☆☆☆☆
瞬発力: ☆☆☆
備考: 種族としてかなり強い。鼻が良い。冬眠出来る。