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3. 何でもかんでもオプション塗れにしたら本来の良さは消えてなくなると思ってる

 朝。散歩の次いでの索敵。舌は異常を示さず、赤城は今日も帰りにコンビニに寄る。

 田舎の、スピード感の無いこのだらけた空気。

 本当になーんで、俺はこんな事になっちまったんだか。

 緊張を完全には解けないこの状況が、如何にもこの雰囲気とミスマッチしている。

「もう数日は平和ですかね!」

「どーだろうなー。人を集めてる最中かもしれないし」

 そう言いながらも、 俺も少しだけ気を緩めて、赤城が買ってきた肉まんを口に運んだ。

「単純に見失っているともそこまで信じられねえんだけど、一週間も来なかったらまたお前の隠れ家にでも顔を出すか?」

「蒼樹さんの隠れ家に行きたいですねえ!」

「俺の、っていうか俺達の隠れ家は大半が一族共通だしなあ。

 個人のもある事は否定しねえが、一族の誰かにばれてる事も否定出来ねえ」

「それは残念です……そういえば、一族の中に犯罪者が居る、とかは無いですよね?」

「……否定出来ねえんだな、これが。

 ま、そん時は俺が責任を持って確実に殺すよ」

 妙に引かれた。


 ご飯とは別に、大きめの丼を用意して貰っている赤城。

 コンビニで買ってきた三パックの納豆と、朝飯で出てきた納豆の計四パックをそこに流し込む。

 ねっちゃねっちゃ。

 コンビニで買った薬味セットを入れた。

 ねっちゃねっちゃ。

 同じくコンビニで買った冷凍オクラ、梅干し。

「あ、オクラ少しくれ」

「どうぞ!」

「どうも」

 ねっちゃねっちゃ。

 同じく温泉卵。

 ねっちゃねっちゃ。

 タレ。そしてからしは放置してチューブのわさびをにゅるにゅるにゅるにゅる。

 ねっちゃねっちゃ、ねっちゃねっちゃ。

 だばー。

「頂きます!」

 宿屋の夫婦も見慣れたもので、特に何も言う事はなく。

 俺は静かにタレとからしだけで頂く。

 狼のクセに妙に臭いの強いもんだったりが好きなんだから。こういうの見る度に、こいつはどっかズレてるって思うんだよなあ。

 俺も人の事言えねえんだろうけどさ。

 がつがつと食べてからご飯をおかわりした赤城は、ねばねばがたっぷりついた丼にそれを入れて綺麗にしながら食べていた。


*


 その夕方。

 この数日よりやけに静かな事に気付いた。下に降りてみれば、宿屋の夫婦もどこかに消えていた。

 そういや、先ほど車で出掛ける音が聞こえてたっけな。

 平日だからか俺達以外の客も居ないのもあって、少しばかり気付くのが遅れてしまった。

 台所に邪魔してみれば、研いだだけの米とか、下処理をしていた野菜やらが。

「飯の支度も中途半端って事は、俺達がここに潜んでるって事を上が掴んだのはそんな来てすぐって訳じゃなさそうだな」

「私達の所持する物に発信機のようなものは無いようですね!」

「使い捨てに出来る人材を集めるのに時間が掛かっただけかもしれないけどな」

 窓を開けて、外の空気を入れる。緊張している臭いが少し。

「赤城。お前は何か感じるか?」

「……囚人の、規則正しい生活を送らされている臭いが所々からしてますね!」

「少しは予想してたけどな、マジにそんな事やってくるかー」

 住民を避難させるのにどんな言葉を使ったんだか。

「それでは打ち合わせた通りに、でしょうか?」

「そうだな。さっさと始めちまおう」

 部屋に戻る。隠していたホームセンター製の暗器や防具を身につける。

 赤城も銃器と、それから手製のボウガンを。銃弾はもう余り手に入らないものとして可能ならば節約する方向だ。

 さっと支度をし終えて、外を覗くと。

「……あー、俺の事を少しは知ってる奴が居るか、これ?」

 至る所で煙が焚かれ始めていた。

 少しばかり窓を開けてみれば、案の定変な臭いが舌に届いてくる。

「蒼樹さん……大丈夫なんですか、この臭い?」

 思わず赤城が不安そうに聞いてくる。

 俺は溜め息を吐いた。

「俺を鍛え上げた親父が言うにはさ、第六感っていうのは実在するんだと」

「?」

「ただ、それは全ての五感を徹底的に鍛え上げた上で実在するものなんだとさ。

 視覚を失った人が、聴覚をより発達させるように。

 聴覚を失った人が、体の仕草とかだけで何を考えているか分かるように」

「……」

「要するに俺の殺気を感じ取れる舌の嗅覚は、無くても問題ない。

 他の感覚で代用出来るように、そういう訓練をされてきた。

 ただ……余裕はなくなる。

 プラン変更だ。俺に付いて来るだけで良い」

「分かり、ました」

 意気消沈した声。やっぱり足手纏いなのか、って自覚し直したような。

「ま、貴重な経験だと思えよ。この平和な日元っていう国で、蒼龍の名を引き継ぐ戦闘能力を100%出すような場所、早々無えんだからな」

 それに、俺があの家で送ったクソみてえな日々で得たものに、そう簡単に並ばれて溜まるかっての。


 外に出る前に、中から出来るだけ外の雰囲気を伺う。

「……今回は狙撃も一人二人は居るっぽい雰囲気だな」

「向かいの民家ですか? 狙撃銃の何かでも見えましたか?」

「いや。屋根の上の瓦が少しズレてるだろ?」

「目を凝らさなければ分からない位ですが……、元からの可能性は?」

「ここらって台風とか良く来るか?」

「少なくともここ数年は大きなものは来てないかと」

「なら、二割位だな。最初はあそこに煙幕を投げて始めようか」

「早速この投槍器の出番なんですね!」

 原始的な代物だが、スペースを取らない上に、持ってればただ投げるよりかなり遠くまで物を投げる事が出来て何かと役に立つ事が多い代物。

「そうだな。じゃあ……準備はいいか? 投げたら、まずあの民家に飛び入る。本当に狙撃手が居たら、狙撃銃も貰っちまおう」

「分かりました! 私は、本当に付いていくだけで?」

「無理なく倒せる敵が居たら倒すくらいは」

「それでは!」

 投槍器に煙幕の爆弾をセット。火をつける。

「さて……行きますかあ!」

 赤城がガラスを破ると同時に、煙幕が飛んでいき、そして民家の向こうへと落ちていく。

 そして飛び出した。

 ボンッ!

「うわっ!?」

「本当に居ましたね!」

「下に居ろ!」

「へ!?」

 塀に足を掛けてそのまま跳躍、そのまま雨樋に手と足、尻尾を掛ける。雨樋が千切れる前に体を上らせて、煙幕の中に身を突っ込めば、今更逃げようと身を翻した猫人の狙撃手が。

 顎を掴んで首を裂く、と同時に体を沈める。

 パンッ、パンッ! 風切り音が頭上を飛び抜けていく。

 音からしてそう強くない拳銃だ。距離も当たっても目玉を貫かないと死なない程度だ。

 手から溢れ落ちた狙撃銃を手に取り、中身を確認する。

「弾は……四、五発くらいか。赤城に渡しておくか」

 下に降りて赤城と合流。

「銃を撃ってきた奴を倒す。後これは適宜使え。少なくとも四発はあるはずだ」

「え、あ、はい!」


 再び塀を飛び越える。距離を取って銃を構えている図体のでかい鰐人。

 蜥蜴人と比べて鱗も硬いわ、パワーも桁が違うわ、それでいて意外とスピードもあるわで大体上位互換みたいなところがあるが、ルール無用で殺すだけなら別に大して障害じゃない。

 構える顔に表情が表れ過ぎている。嗅覚に頼らずとも撃つタイミングで体を翻しながら暗器を投げつけた。

「ぐっ!」

 太い腕で阻まれる。距離を詰めようとすれば、相手は銃も刺さった暗器も投げ捨てた。

 格闘技でもやってた奴なんだろう。俺が銃を持ってないと思ってか向かって来るそいつ、多少の傷は耐えるつもりだ。

 持ってるんだがな、使う必要がないってだけだ。

 そのまま走る。掴みかかって来るデカい手を身を翻しながら避けて。

 ばぎぃっ!

「があっ!?」

 尻尾に嵌めた棘付きの鉄球、遠心力も伴って相手の脛を砕く。

 鰐人の身が崩れて、目の前に胸が落ちてくるのに暗器を突き立てた。

「あ、が……」

 倒れる鰐人。

 拳銃を拾う。遅れてやってきた赤城に渡そうとしたが、複数の足音。渡す前にパイプ爆弾の複数に火を付けて道路の方に投げた。

「爆弾だっ!」

 遅れて爆発音。何人か巻き込めたようで、呻き声が聞こえてくる。

「一気に仕留めたいが、もう何人か居るような狙撃者がどこに居るかまだ分かってないからな」

 家の陰に一度身を寄せている内に、赤城が俺の落とした拳銃を拾う。

「多分風下の方かと!」

「臭いか?」

「はい。煙に紛れてますが、風上から流れてくる屋根の上からは囚人の臭いは感じられなかったので!」

「よし、信じようか」

 罠を仕掛けながら、広い場所を避けながら風下へと移動していく。

「狙撃の腕は?」

 後ろから罠に引っかかった爆発音。

「並よりはあります! 蒼樹さんは?」

「微妙。動き続けてるのが性に合ってるからなー。

 じゃ、詰める前に見つけたら、俺が距離詰める援護くらいは頼もうかね」

「はい!」


 狙撃者は中々見つからないまま、見つけた敵を倒していく。

 中には犬人も居たが、後から追って来る気配はどうにも感じない。

 爆弾で数人巻き込んだのを考えると、八人から十人くらいは殺したから、恐れているんだろう。

「夜になる前に狙撃者は倒しておきたかったけどな。夜目の効く奴が持ってたら厄介だ」

 一人だけと考えるには流石に楽観的過ぎる。それにその一人も夜目の効く猫人だったしなあ。

「私は効きますので! それに、蒼樹さんは大丈夫では?」

「まーな。ただ嗅覚と視覚の二つも封じられると、流石に少し困る。煙は多少なりとも落ち着いてきたみたいだけどな」

「どうします?」

「どうしようかねえ」

 数は多いし、散弾銃や短機関銃を持っている奴も居たにせよ、連携もほぼほぼ出来ていない有象無象を倒すのにはそんな苦労しなかった。

 ただ、隠れてひたすらに狙撃を狙っている奴が居るとそれだけでかなり厄介だ。家の中に篭られたら嗅覚も意味ないだろうし。

「……寝るかあ?」

「へぇ!?」

「相手が素人でも、狙撃銃を持ってる相手を無理に誘き寄せようとするより、隠れて朝になるのを待つ方が良いだろ。こっちの場所もばれてねえしな」

「それは……そうですね」

「何かより良い案があったら教えてくれ」

「……そうですねぇ。夜目が効く相手なら、カメラでもあれば目潰しが出来るんですけどね!」

「あんな弱い光で目潰し出来るのか?」

「過去にフラッシュ付きのカメラが世に流通した当初は、夜にフラッシュを何度も浴びて失明した人がかなりいましたので、今のカメラのフラッシュはかなり弱くなっているんですよね! でも古いものだと強い光を出せるのはそのままだったりするので、少し弄れば一発で失明するような強い光を出す事も出来ます!」

「おおう……。じゃあ、頼もうか。少し戻れば、罠に引っかかった奴でガラスが割れた家があるはずだ。そこなら音を立てずに中を物色出来るだろうしな」

「はいっ!」

蒼樹:

能力:

△舌の嗅覚で殺気を感じ取れる

○全身の五感を鋭くするように訓練を受けているので、嗅覚が封じられても大した問題ではない


中華まんの中では肉まんが好き。

納豆は薬味はあっても1~2種類でシンプルに頂きたい。


赤城:

中華まんの中ではピザまんが好き。

納豆はあるもの全てをぶっかけてかっこむのが流儀。後、からしじゃなくてわさび。


鰐人:

体格: 大

筋力: ☆☆☆☆☆

脚力: ☆☆

瞬発力: ☆☆☆

備考: 寒暖差に弱い。鱗が硬く防御力に優れる。噛む力は随一。

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