あの始まりに繋がる物語1
バン! バン! バン!
卓に置いてある
電話が着信音を鳴らす。
いつ聞いてもけたたましい音だ。
別にもっと小さな音量でも
気付くと思うが。
そんな事を思いながら電話に出る。
私「はい」
「.........えっと、私は...
下級院所属騙幸監視職員の......
ネカニデース・ドッピウです」
緊張した声で彼は喋る。
どうしたんだろうか。
まさか、現行動的非常識者、
1級非常識者が現れたのだろうか。
いや、それにしては切迫した様子じゃない。
現行動的非常識者とは
自身が所属する学区から脱走したり、
今まさに脱走しようとしていて、
私達の管理から外れようと
している者を指す。
1級非常識者と呼ばれるだけあって
処分は重く、学区において
最上位の立場である管轄者が
すぐさま出向いて、
直接,殺処分しに行く。
私「......何がありました?
...非常識者の発見...ですか?」
ドッピウ「...いえ...違います」
意外な答えが返って来る。
ドッピウ「...私は今日...
死生院労働の担当...だったのですが.........」
ドッピウが言葉を詰まらせる。
ドッピウ「...人間不全者が...
生まれたのですか?」
人間不全者とは身体や精神に
異常を抱えた者を言う。
人間としての本来の姿を
損なっているから人間不全と呼ばれ、
程度によっては殺処分となる。
ドッピウ「......それに近いですが...
違うと思います。これは...おそらく...
獣耳を持つ...あの人類種との......
混血児だと...思います」
...言葉を失う。
獣耳を持つあの人類種。
噂に聞いた事があるだけで、
詳しくは知らされてない、
あの人類種との混血。
それがこの学区で生まれた。
前代未聞だ。そんな話は聞いた事がない。
それをどう扱えばいいか、
私は教えられてない。
私「.........その赤子は...
どういった...見た目を...
しているんですか?」
ドッピウ「...獣耳が生えてます...
体毛のない...ツルツルの...獣耳が」
私「...わかりました。とりあえず...
その子は乳幼院に...預けてください...
どうするかは...後で決めます......
ドッピウさんは...その子を
産んだ母親が...起きたら、
獣耳を持った人と...
関わらなかったか...
聞いてみて...ください」
管轄者に判断を仰ぐしかないか。
でも...大丈夫だろうか。
殺処分にならないと良いが。
乳幼児は殺処分されやすい。
その騙幸人に掛けた資源が少ないからだ。
例えば、10歳まで育てた
騙幸人を殺処分すれば、
10年間,世話した労力や
食事に使った食料などが全て無駄になる。
本来は11歳から労働をして、
掛けた資源,以上の資源を生み出す筈が。
だが、乳幼児ならそもそも、
掛けた労力や資源が少ないから、
簡単に殺処分されてしまう。
レンヒネス「管轄者を...呼びますか?」
レンヒネスが自分に問い掛ける。
私「......あぁ、そうしよう」
立ち上がって左に進み、壁に付いてる
突出度切り替え機を押す。
この突出度切り替え機は管轄者を呼ぶ
突出度切り替え機だ。
管轄者は2階にいるが、
管轄者のいる部屋は
入ってはいけない事になっている。
ドン!
管轄者が天井から1階に落ちる。
エグザ「なんだ?」
エグザは低い声で言う。
レンヒネス「死生院で今日,
生まれた赤子なのですが、
えっと、獣耳が生えていたみたいで...
それで、どうすればよろしいかと...」
レンヒネスは早口で、
愚富人にとっては普通の速度で喋る。
エグザ「獣耳が生えていた?」
エウザは胸に響く、低く大きな声で言う。
驚いているみたいだ。
エグザ「...そうか、あの猫共が
学区までやってきたのか」
獣耳が生えている
あの人類種はどうやら、
猫と呼ばれているみたいだ。
エグザ「とりあえず殺処分だな。
次の死生院担当に奴に
殺すよう連絡しとけ」
私「...え!?そんな、何故ですか?」
思わず口に出る。しまった。
血の気が引く。
エグザ「なんだ?俺の指示が不満か?」
エグザが自分を見つめる。
レンヒネス「......理由が知りたいです」
レンヒネスが小さい声で言う。
エグザ「...理由は単純だ。
混成は容姿が普通の奴とは
大きく異なる。何との混成なのかなんて、
教える訳にはいかんし、
その混成の姿は
世界観に、洗脳の内容に罅を入れる。
かと言って、辻褄,合わせに、
今更、洗脳の内容を変えたり、
追加しても不自然だ。
その混成を見るのは、
同じ学級の奴だけじゃない。
登下校の時に、11歳から43歳までの、
この学区にいる騙幸人,全員が見るから、
全員に新しい話をするハメになる」
私「......本当に姿が大きく異なるのですか?
もしかしたら、顔つきや容姿は
全部,騙幸人の方に似て、
性格だけもう片方に」
エグザ「くどいぞ!!」
エグザが割り込む様に怒鳴る。
体がビクッと震える。
エグザ「そんな期待、保証がないだろ!
生まれたばっかなんだから、
少しでも面倒な事があるなら、
さっさと殺処分すればいい。
大して資源を掛けた訳でもない」
レンヒネス「......わかりました。
余計な事を言ってしまい、
申し訳ありませんでした」
レンヒネスが土下座をする。
...ダメか。
私「エグザ様の仰られた事、
全て承知いたしました。
重ね重ねの不躾な発言、
申し訳ございません」
ダメだ。逆らってはいけない。
私は子供を養う役目がある。
反抗的な事をしたら処罰され、
給料が大きく減ったり、
職を失うかもしれない。
これからも管理職員を続けるなら、
これから何度も、
何人も殺処分を決め、
死生院担当の者に通達する。
キリがない。
だから...仕方ない。
エグザ「次はないぞ。
お前らはまだ初めてだからな。
つい、感情を抑えられなかったんだろう。
だが、お前はこれから、
たくさんの騙幸人を殺すんだ。
たった1人の騙幸人の命に
気を違わすなよ。
事によってはお前だけでなく、
お前の家族も処分されるからな」




