総務宮1
生産院に着いた。
4つある入口の1つに入り、
生物保管室、品物保管室を通って、
車庫に入る。
車庫は既に私以外にも、
10人くらいの人が集まっている。
仕事前と仕事終わりには、
生産院で働く人が車庫に
集まる事になっているのだ。
仕事前と仕事終わりに集まる理由は、
生産院長から知らせを受けたり、
全員が出勤しているかを確認する為である。
集まる場所が車庫なのは、
車庫の上部には中枢五角形と呼ばれる、
生産院における労働の、
中心となる場所があるからだ。
生産院は物を保管する部屋がとても広く、
物を保管する部屋でない、中枢五角形は
生産院の面積の0.75%しか占めていない。
5時になった。
生産院長が中枢五角形から出て来る。
始業時刻は5時なので、おそらく車庫には、
生産院で働く人が全員,集まっているだろう。
生産院長「点呼を取ります...
ラナティス・ワトルプ...
ケヤン・ロトドロ...
~ペナザティクス・レンヒネス」
私「はい」
~生産院長「全員の出勤が...
確認できました。
今日は連絡事項が...1つあります。
ペナザティクス・レンヒネスは,,,
今日から、総務宮の管理職員に...異動です。
...なので、レンヒネスは...
総務宮に今から...向かってください」
私「...はい。皆さん、
今まで...ありがとうございました」
他の職員に向かって、
頭を下げる。
異動か...12年もここで働いていたし、
そろそろなんじゃないかとは思っていた。
生産院長「...また...レンヒネスと
働ける事を楽しみにしています」
私「では、また今度」
車庫から立ち去る。
車庫に集まった人の中に、
授業職員として働いてた人がいたが、
あれが新しく私の代わりに入った人か。
騙幸界で働く職員は1~15年ごとに
別の職業に異動する。
私は12歳からこの学区で働き始めて、
ずっと総務宮の監視職員として、
生産院で働いていた。
監視職員、それも愚働監視職員だ。
愚働監視職員は自身が
そうである事を隠して、
他の人と同様に各施設で働く。
そして、同じ施設で働く愚働人が、
規則を破ったりしていないか監視し、
規則の違反者を貸されている携帯電話で
管理職員に報告するのだ。
騙幸人に対して何か施しをしたり、
語ってはならない事を語る。
そういった事が騙幸界で働く愚働人は
禁じられている。
また、愚働監視職員が
規則違反者を見逃す罪は
単なる規則違反よりも遥かに罰が重く、
一家死刑という罰で、
違反者とその家族全員が死刑になる。
ここまで罪が重いのは、
職員の監視は愚働人がしているので、
愚働人が規則違反を見逃しても、
中々、発覚しないからだ。
また、愚働監視職員を監視する、
愚働監視職員も1人いて、
隣の学区ではある愚働監視職員が
規則違反を見逃し、
更にそれを知っていた、
愚働監視職員を監視する愚働監視職員も、
それを見逃し、数珠繋ぎ的に、
2家族が死刑になったらしい。
生産院を出た。総務宮が目に入る。
生産院に比べると総務宮はとても小さい。
総務宮は円錐を少し、
変形した形をしていて底面は円だ。
その壁の色は綺麗に塗りつぶされた、
色の濃さに偏りのない、
滑らかな純白で、
「宮」と付く理由がわかる。
灰色の建材でできた学校とは対比的だ。
総務宮は2階建てで1階には管理職員、
2階には管轄者という愚富人がいる。
総務宮の、愚働人の職員は
監視職員と管理職員の2種類だが、
監視職員は研修を受ける時,以外、
総務宮に来る事はない。
総務宮の前に着いた。
久し振りに入るから緊張する。
前に入ったのは12年前、
監視職員として働く事を指令され、
監視職員の研修を受けた時,以来だ。
総務宮の壁を通り抜ける。
総務宮は特定方向力学的透過性物体(SDMTO)という
物体でできていて、この物体は、
特定の方向からの接触を
回避する性質がある。
例えば、この総務宮の壁は、
前後左右から物体が当たると、
その物体を避ける様に形が変わる。
このSDMTOは縦に伸びた線が、
面を成す様に並んでいて、
物体が接触した線の部分は外れて、
隣の線に付着する。
物体の接触が終わると、
外れた線は元の位置に戻る事で
元通りになるのだ。
その線の移動はとても速いので、
壁に向かって歩いたとしたら、
そのまま通り抜けるし、
当たる感触はとても柔らかい。
SDMTOは密度が低い事も相まって、
SDMTOを通り抜ける時は、
風が吹いた様な感触がするだけだ。
中に入ると眩しい照明の光が目を焼いた。
この建物の壁の色と同じ白色の光だ。
「来たか。レンヒネス」
低い声がする。
騙幸人よりも低い愚働人よりも
更に低い声だ。
ゆっくりと瞼を開けて応える。
「お久し振りです。
ドグマグラ・エグザ様」
片膝を地面に着けて、下を向く。
愚富人に会った時にする愚働人の挨拶だ。
この姿勢で目を合わせると、
愚富人は怒りという
不快な感情が生じるので
気を付けなければいけない。
エグザ様は中央にある円形の卓を
挟んで向かいにいて、
左にはレンヒネスという名の
愚働人がいる。
エグザ「今回、管理職人は2人とも、
入れ替える事にした。
1人は病気で退職、もう1人は異動でな。
これからはレンヒネスと
リベラクルの2人で、
管理職員として働け」
私,リベラクル「畏まりました」
愚富人は騙幸人同様、
早口なので読解が忙しい。
音は簡単にわかれても、
意味は簡単にわかれない。
エグザ「レンヒネス、
監視職員用の電話を返せ。
眼球に埋め込まれた人工視覚機は
終業時刻後、愚富界で回収する」
エグザに携帯電話を手渡す。
エグザはそれを無言で受け取り、
壁の所に垂れている綱を掴むと、
2階に上がって行った。
リベラクル「...では、仕事を...始めますか。
...改めて名乗りますが...
私の名前は...アラロシア・リベラクルです。
...数年か、十数年か...わかりませんが...
これから...よろしくお願いします」
私「...私は、
ペナザティクス・レンヒネスです。
...これからよろしく...お願いします」
リベラクル「...まず、今年度の...
必要出生数を...求めて欲しいです...
まだしていない...そうなので。
私は前日が...1日目の勤務...だったので...
乳幼院,幼育院...学校の職員から...
騙幸人の人数を...聞いて、
卓の上に...置いてある...
その紙に書いて...ます。
...私は溜まっている...出生届を処理します」
私「...わかりました」
円形の卓の前に置いてある椅子に座る。
卓は直径1mで、
椅子は正三角形を成す様に配置してある。
そして、椅子も卓も
純白でツルツルしている。
愚富人は白さにこだわるのだ。
愚富人の肌は白い。
愚働人の肌は茶色で、
騙幸人は愚働人と愚富人の中間、
白茶といった感じだ。
椅子に座り、卓の上に
置いてある紙を見る。
[乳幼院 0~3歳 179人
幼育院 4~10歳 301人
学校 11~43歳 1331人
11~21歳 494人
22~32歳 486人
33~43歳 468人]
まず、これを11歳ごとにまとめよう。
卓の中央にある、
白紙と筆で計算をする。
[0~10歳 480人
11~21歳 494人
22~32歳 486人
33~43歳 468人
計1928人]
上限人口は1929人だから、
ギリギリだな。
特に成人人口が重要だがそれはどうか。
[0~10歳 480人
11~43歳 1448人]
成人人口の上限は1464人。
18人分の余裕か。
騙幸人の人口調節は、
成人人口の調節が重要だ。
何故なら、畑と家の数は
簡単には変えられないからだ。
さて、今年の必要出生数を求めよう。
0~10歳の世代の人口、
11~21歳の世代の人口、
そして、ー1~ー11歳の世代の人口の和が
成人人口の上限に収まる様に、
ー1~ー11歳の世代の人口を
予定すればいいのだ。
[x+480+494=1464
x=490
x/11=44.54...]
小数点以下を切り捨てて、
今年は44人。
多胎児が偶然、
生まれる可能性を考えて、
40人の計画が良いだろう。
双生児は100人に1人、
生まれる確率らしいから、
50人くらいの子供を産む計画だと、
1/4の確率で52人が産まれてしまう。
更に多胎妊娠の内、5人に1人は
3つ子の妊娠となる。
だから、4人くらいの余裕は必要だ。
バン! バン! バン!
突然、卓の右端に置いてあった、
電話が着信音を鳴らす。
監視職員からの電話だ。




