日常の終わり
~...起きた。
まだ、朝,早い気がする。
昨日は酔ってすぐに寝たんだっけ。
いつ自分の部屋に戻ったのか、記憶がない。
ぼんやり、お布団でヌクヌクする。
寝れるならたくさん寝た方が良い。
眠らないにしても、
お布団で横になってるだけで幸せだ。
婚姻の儀式の翌日くらい、
休日にしちゃえばいいのに。
今日の朝ごはんはなんだろ。
昨日のご飯が残ってたら、
美味しい朝ごはんだ。
昨日の晩飯...美味しかったなぁ。
結婚したら、また食べられるのかな。
次、私の大家族で結婚するのは誰だろ。
変わり者の、ミアのになりと、ニアかな?
私より歳上だし。
でも、あの娘、人に興味なさそう。
タニシは...まだ先な気がする。
すると、残るのは私?
いや、そしたら、妹のフウミの方が先かも。
しばらく、婚姻の儀式はなさそうだ。
そう言えば、晩飯を食べながら、
家族迎えの儀式もしたな。
大家族の人数が2人,増えて27人だ。
...2度寝しよ。
~♪
起床時間を知らせる音楽が鳴る。
目を瞑ったまま立ち上がり、
誰かに操られてるみたいに、
体が機械的に川へと向かう。
顔に川の水を浴びて目が覚める。
なんか、クラクラする。
たくさん寝たからかな。
居間に行こう。朝食が楽しみだ。
昨日、あんなにたくさん食べたのに、
お腹が空いてる。
居間に着き、椅子に座る。
フウミ「あ、お姉ちゃん。おはよ」
私「おはよ」
フウミ「昨日、お姉ちゃん。
居間で寝ちゃったんだよ。
私がおぶって、部屋に運んだの」
私「あれ、そだったの?ありがと」
フウミ「ルリもツミキも、
お酒,飲み過ぎて寝ちゃってたよ。
普段,お酒飲まないミアさんも、
ルリに飲まされて、
酔い潰れちゃったし。
みんなで部屋に運んだの」
私「そだったんだ。
よく覚えてないや」
ミアも酔い潰れたんだ。
酔ったミア、見たかったな。
そんな事を思ってたら、
ノソノソ、ミアが居間に入って来た。
ミア「頭,痛い」
ミアが元気のない声で言う。
私「2日酔い?」
ミア「そう...みたい。
初めてだからよくわかんないけど」
私「ルリにお酒,たくさん飲まされたの?」
ミア「うん。なんか、体も触ってきた。
胸...揉まれた」
私「え、そんな事されたの」
誰にでも手出すじゃん。
ミア「酔ったら、性的になるんだって。ルリ」
私「そなんだ」
ルリが机に突っ伏す。私も寝過ぎて、
頭がクラクラするから真似する。
~かしら「おーい。顔、上げろ。
朝ごはんの時間だ」
顔を上げる。私とミア以外の人も、
同じ様に顔を上げる。
みんな、昨日、ハメを外したんだ。
かるら「初夜が明けました。
子供が宿る事を期待して、
トウモロコシを食べましょう」
一応、結婚するまでは
性的な事はしないのが
普通って建前があるから、
子供がまだできてない事を前提に
かるらは発言する。
かるら「テラシナ、ユアタカ、
ムツナカの三神による、
毎日の幸せに感謝し、
今日も人の為が自分の為で、
自分の為が人の為である様な
労働をする事を誓って、
三神から賜られた
食物を頂きます」
自分達「誓って、頂きます」
~ご飯を食べ終わった。
昨日のご馳走の残り物の
お肉が美味しくて、
まだ1日が始まったばかりなのに、
幸せな気分だ。
さて、仕事に行こう。
働いて、大家族の役に立つ事で
大家族の一員と言える。
私はフニニャマ大家族が好きだ。
居心地が良い。
ここが私の居場所だ。
いつまでも一緒にいたい。
大家族から離脱して、
1人で生きる自由人になんか、
私は絶対,なれっこないし、
結婚して別の大家族に
移籍するのも無理だ。
私は1人の人とじゃなくて、
たくさんの人と一緒にいたい。
玄関に着き、黄色の革靴を履く。
トウモロコシと同じ黄色だ。
成人の儀式の時に貰った、大切な革靴。
フニニャマ大家族の一員である事を示す
印が入ってる。
家の外に出て、動物広場に隣接してる、
畑へと向かう。
今日の仕事はなんだろ。
最近は収穫が多かったし、
そろそろ種植えとかかな。
~私「おはようございます」
ハタモチ「おはよう。
今日は収穫が終わって、
何も植えられてない、
小麦の畑に石灰を撒いてくれ」
ハタモチの前には、
石灰が入ってる箱が乗った台車があり、
その上に巨大尖り匙が2つある。
この巨大尖り匙で、石灰を掬って、
土に振り撒くという事だろう。
私「わかりました」
台車を押して畑に近付ける。
巨大尖り匙を石灰に差し込み、
掬って、畑に振り撒く。
石灰は灰色だから、
何処にどれくらい撒いたかが
一目瞭然だ。
できるだけ均等に撒こう。
何回か撒いて、台車の近くを撒き終わったら、
台車を進めて、更に先の畑に、
石灰を振り撒く。
この灰色の粉から、
黄色い小麦ができるのは不思議だ。
タニシ「おはよ」
私「おはよう」
タニシが来た。
タニシ「寝たいなぁ...」
タニシは会って早々、私に愚痴を言う。
私「なんでさ」
タニシ「二日酔い」
私「タニシって酒,飲むんだ」
あまり飲む印象はない。
タニシ「自棄酒」
私「自棄酒?」
タニシ「自分より歳下の人が、
自分の前であんな接吻をして、
悔しくなった自棄酒」
そんなのを正直に、
私に言うのも自棄だと思う。
私「素直に祝福してあげなよ。
ツミキとは仲良かったんでしょ?」
タニシ「そうだよ。慕ってくれる。
そんなツミキに嫉妬した自棄酒」
私「嫉妬しちゃうの?」
タニシ「うん。自分には何もないから」
タニシが暗い顔で言う。
私「ちょっと、どうしたのさ。
そんなに衝撃だったの?
ツミキとルリが結婚した事」
タニシ「かもねぇ...」
タニシはたまにめっちゃ落ち込む。
繊細で弱々しい男だ。
私「かもねって何さ。
自分の事は自分がよくわかってるでしょ?」
タニシ「嫉妬とか悔しさとか言うより、
嫉妬したり悔しく感じる自分が嫌い」
私「私も嫉妬する時あるよ。
ツミキと仲良かったのに、
ルリに盗られて悔しかったもん」
タニシ「...あとさ、ツミキとルリが
接吻してるの見て、羨ましく思った。
ツミキの嫁なのに、
ルリの事、欲しくなった。
4歳も歳下なのに、
なんか、寝盗りたくなった」
私「......」
タニシが自分に振り向く。
タニシ「誰の前でも自分は、
良い所だけ見せてて、
本音を隠してて、
できた友達は自分じゃなくて、
自分が作った虚像を見てる。
それが嫌で、
こうやって、本音を言えば、
引かれ、嫌われる。嫌われる」
私「別に嫌ってないよ。馬鹿」
タニシ「...そう?」
私「タニシは普通だよ。
ありふれてる。平凡。
悪い所が多いけど、
本当に悪い人でもなくて、
微妙で半端。
タニシがさっき言った事と
同じ様な事を思った人なんて、
探せばいくらでもいるし、
それでクヨクヨ悩むタニシは
やっぱり、普通の人だよ」
タニシ「そっ...か」
私「どうせ、みんなタニシに
期待してないよ。
ツミキだって、タニシが
そういう奴だったわかった上で
慕ってるんだよ」
タニシ「...うん...ってあれ?」
私「ん?」
タニシが顔を上げて遠くを見てる。
私も同じ所を見る。
私「え?」
この村は壁沿いの村。
そして、この畑は壁沿いの畑。
シラハミ市を囲う壁がここから見える。
タニシ「人...白い...耳が...」
そう、壁の上に人が座ってる。
猫が座ってる時みたいに、
膝を立て、足の裏を下に着け、
両手を足と足の間に置いてる。
その、人は白髪で白い服を着てて、
そして、白い獣耳が生えてる。
その、人が口を大きく開ける。
そして、1秒。
「にゃおおおおーーーーーーん」
その遠くまで響く1声で
私達の日常は終わり、非日常が始まった。




