戯れ
アリシアが人永時真伝を読み終え、
顔を上げて、自分の目を見る。
アリシア「......トウァは信じてくれる?」
アリシアの声は不安げだ。
不安にならなくてもいいのに。
トウァ「信じるよ。
この世界の事はずっと疑ってきたし」
アリシアが安心するように、
明るい声で断言する。
アリシア「そっか、良かった。
ずっと前に見せた友達が...
親友が1人いたんだけど、
すっごく怒っちゃってさ...
嘘だ...って」
アリシアが安心した様な
笑みを浮かべた後、
一転、悲しげな表情を見せる。
アリシア「だから、良かった。
トウァが信じてくれて。
トウァがいてくれたら、
私は1人じゃないから。
......ねぇ、トウァ。
旅に出ない?
ここじゃない何処かに、
ここじゃない世界に。
この世界が何処までも、
無限に続いている訳じゃないと思うから、
きっと、ずっとずっと、
遠くに行けば、
この世界じゃない何処かが、
自由で幸せな世界があると思うの。
だから、まず、
その為の知識を得るために...
私と...公域SLに、
行ってくれない?」
アリシアはゆっくりとした口調で、
笑顔で言う。
先人、ロメス・ヘルムが埋めた、
大量の書物。
それを探しにアリシアと2人っきりで、
公域SLに旅をするのは
どれだけ幸せな事だろう。
今までの何もない、
ただ、同じ日が続くだけの、
時間が流れない日々に比べたら、
どれだけ刺激的で楽しい日々なんだろう。
自分はずっとここじゃない
何処かに行きたかった。
今の退屈な日々を捨てたかった。
それが叶うなら何だっていい。
それに、アリシアと、
何者にも阻まれず、
ただ2人で過ごせたら、
そんな事ができる世界に行けたら、
どれだけ幸せか、想像もできない。
トウァ「うん、いいよ。
一緒に公域SLに行こ。
アリシアと旅に出るのは、
きっと楽しいと思うよ」
アリシア「...そっか。
トウァ...ありがとね。
トウァを選んで、
ほんとうによかったよ」
その言葉が嬉しい。
アリシアが自分を
必要としてくれてるのが、
自分で良かったと、
思ってくれてるのが嬉しい。
自分は...アリシアにとって、
掛け替えのない特別な存在になりたい。
トウァ「自分もアリシアと
出会えてすっごく幸せだよ。
ありがとうね、自分を選んでくれて。
この世界の事を教えてくれて」
アリシアは夢見心地で、
幸せそうな表情をしている。
自分も同じ様な表情をしている気がする。
アリシアと一緒にいられるなら、
何があっても幸せだろう。
トウァ「公域SLってさ、
ここからどれくらい離れてたっけ?」
早速、どうやって行くか考えよう。
アリシア「ここから、
2662kmくらいだよ。
詳しい道順は人永時真伝に書いてる。
きっと、着くまで何ヵ月もかかるから、
ごはんとかたくさん持って、
行かなきゃいけないと思うんだよね」
ごはん,自分で用意するのか。
新鮮だ。ワクワクする。
トウァ「2662kmかぁ。
自分の家から学校まで、
1kmあるかないかくらいで、
いつも歩いて11分くらいで
着いてるんだよね。
だから、2662kmなら、
29282分で着く」
アリシア「29282/55...
(2/5)×1331。
...0.4×1331。
532.4...時間」
アリシアははっきりとした声で
数式を呟く。
口を半開きにして、
目だけで上を見て、
計算をするアリシアが可愛い。
アリシア「532÷24...
2....2...1、22.1日だね。
1日の半分を歩くとしたら44日。
1/3なら66日」
トウァ「そっかー。
44日にでも、66日でも、結構,長いね。
だって、44日前とか66日前って
ずっと前な気がしない?
44日前とか66日前から、
ずっと歩いてたらって考えたら、
気が遠くなっちゃう」
アリシア「そうだね。
長い旅になりそうだね」
まぁ、それも悪くないか。
トウァ「てかさ、暗算,得意なの?」
アリシア「うん。そうだよ」
トウァ「そうなんだ。話,変わるけどさ、
人永時真伝にはアリシアの獣耳の事、
書いてなかったよね」
人永時真伝で紹介された、
どの人類種にも獣耳が
付いてるとは書いてなかった。
アリシア「んー、そうだね」
瞳の色は違うけど、髪の色は黒だから、
1番,当てはまるのは
やっぱり、騙幸人かな。
身長体重も騙幸人と同じっぽいし。
アリシア「これ何なんだろね。
埋めたっていう、箱の中の書物には、
書いてると良いんだけど」
アリシアは「これ」と言いながら
獣耳をピョコピョコ動かす。
可愛い獣耳が
ピョコピョコ動く様子を見ると、
意識が全部、獣耳に奪われて、
その獣耳を触りたくて仕方なくなる。
トウァ「ねぇ、それ触りたい」
つい言っちゃう。
ワナワナと衝動がこみ上げる。
あの獣耳をこの手で触りたい。
アリシア「えぇ。これ、
こちょばしそうなんだよね、
触られるの。触られた事ないんだけど」
アリシアは困った感じの様子で言う。
トウァ「ピョコピョコ動いてるの
見ると可愛くてさ...
すっごく触りたくなる」
声の調子を落として言う。
アリシア「う、うん」
アリシアは少し恥ずかしそうにして、
軽く横を向いて自分から目を逸らす。
アリシア「そういえば、トウァって、
私に「可愛い」って言うんだね。
人に「可愛い」って言う人、
初めて見たよ。
普通,「可愛い」って、
柱肉蟲とか、動物に言うじゃん。
今日,公域で会った時、
じっと見つめてくるなぁって、
不思議に思ってたら、
突然「可愛い」って言いだしたから、
びっくりしたんだよ......可愛いの?」
アリシアは少し顔を赤くして、
嬉しそうに聞いてくる。
アリシアは可愛いって言われるのが
好きなのかもしれない。
トウァ「うん、可愛いよ」
でも、改めて聞かれると、
こっちも恥ずかしくなるな。
アリシア「耳...触りたい?」
アリシアは挑発的な笑みを浮かべて言う。
ほんとは触って欲しいのかもしれない。
トウァ「うん。触らせて」
アリシアは恥ずかしそうに、
落ち着かない様子で
キョロキョロしている。
アリシア「...そっとだよ?
あと耳の内側は本当にこちょばしいから、
触ったらダメだからね?」
トウァ「うん。わかった」
膝立ちで歩いて、
アリシアに向かい合う形で近づく。
距離が近いとちょっと緊張する。
アリシアの獣耳の表面は、
サラサラとした綺麗で短い毛に覆われてて、
耳の内側は長い毛がフサフサと生えている。
トウァ「触るね」
アリシア「うん」
アリシアは下を向いて、
獣耳を自分の方に向ける。
そして、その姿勢のまま、
アリシアはじっと自分を見つめる。
上目遣いで、緊張した表情だ。
そんな風に見つめられると緊張しちゃう。
ゆっくりと、
アリシアの獣耳に手を伸ばす。
指先でそっと、アリシアの耳の、
とがっている部分に、先っぽに触れる。
トウァ「大丈夫そう?」
アリシアは獣耳の先っぽを
触られても特に反応をしない。
アリシア「うん」
そのまま、指をスーッと後ろ側の、
耳の下に下していく。
アリシア「ん...んん」
アリシアは口をキッと閉じて、
目をギュッと瞑って、
体を小刻みに震わせている。
耳の付け根まで指を下ろした時、
アリシアが言う。
アリシア「あ...トウァ。
耳の付け根の所はこちょばしいの」
アリシアは顔を赤くして、
弱々しい声を出す。
そんなアリシアを見てると
嗜虐心(悪戯心)が湧いてきた。
トウァ「ここがこちょばしいの?」
アリシアの耳の付け根あたりを
横にソッと撫でる。
アリシア「んんっ!
...だ、駄目だってば」
アリシアは聞いた事のない声を出す。
その声が喘ぎ声みたいで、
ドキッとする。
なにか不味い事でも
しちゃった気分になる。
警告を無視して触ったからか、
アリシアはちょっと怒った感じの
目つきで自分をジトっと見つめる。
そんな目で見つめられると、
余計,いじめたくなるな。
両手で獣耳の後ろ側に掌を当てる。
獣耳はしっとりしていてひんやりだ。
手を上下に動かして、
アリシアの獣耳を撫でる。
しっとりさらさらしていて、
手が気持ちいい。
アリシアはそれに唇をキッと結んで
プルプルと震えながら耐える。
アリシア「ねぇ...もう,満足したでしょ?」
獣耳を撫でる手を止めると
アリシアが疲れた様子で聞いてくる。
トウァ「んー、じゃあ、最後にさぁ...」
実はさっき良い事を思いついたのだ。
口を開けて、そっと優しくハムっと...
アリシアの獣耳を唇で挟んでみた。
アリシア「んー!?
だめぇ、ほんとにだめ!
ちょっと...だめ...」
アリシアは獣耳を咥えられながら、
獣耳をパタパタさせるから、
口の中で、アリシアの獣耳が
暴れて面白い。
アリシアは抗議のつもりなのか、
こちょばしいのに耐える為か、
自分の肩に手を当てて、
強く握っている。
アリシア「ダメ...だってば
......ん......はぁ」
だんだん慣れてきたのか、
アリシアは息をはぁはぁしながらも
落ち着いてきた。
でも、顔は真っ赤で
弱々しげな表情をしている。
もうちょっと奥まで
口の中に入れてみよう。
口を大きく開けて、
ハムッと更に奥まで、
獣耳を口の中に入れる。
アリシア「ちょっ!...ダメ...だから、
......いい加減にしないと怒るよ。」
アリシアが怒ってる声で言う。
でも、この獣耳をいじくれば、
その怒った声も弱々しい声に
なっちゃうのだ。
獣耳を口に入れたまま、
小さく舌を繰り返し動かす。
舌を動かすとアリシアは、
声を出すのを我慢できず、
「あぅ」って喘ぎ声みたいな、
変な声を部屋に響かせる。
その声を聞いていると、
ダメな事をしている気がして
変な気分になる。ドキドキする。
しばらく、舐めた後、
舌を動かすのをやめて、
アリシアの獣耳から口を離すと、
アリシアはハァハァ、
大きく息をしながら、
悔しそうな、泣きそうな様子で
自分を見つめてきた。
これ以上したら、
本当にアリシアは泣くかもしれない。
アリシア「...もう一生、触らせないから!」
アリシアは小さく、
泣きそうな声で言う。
トウァ「怒ってる?」
ちょっと気まずい。
アリシア「酷いよ。
触りたいって言うから、
トウァの事、
信用して触らせてあげたのに。
もう、触らせてあげないからね」
トウァ「...ごめん」
アリシアの獣耳は自分の唾液で
濡れちゃってる。
アリシア「はぁー、私の獣耳、
トウァのよだれで濡れちゃったじゃん...」
アリシアは自分の獣耳を
触りながら愚痴る。
アリシア「なんか疲れちゃったよ。
それに、もう寝る時間じゃん。
私、もう寝るから。おやすみ」
アリシアは突然,そそくさと
冷たくそう言って、
寝床の上で横になった。
こっちに背を向けて。
どっしよ。暇だ。
そーっとアリシアの獣耳を
指先で触ってみる。
アリシア「ねぇ...本当に怒るよ」
アリシアが低い声で言う。
それに体がビクッとなる。
低い声で言われると
なんだか怖い。
これ以上したら、嫌われる。
その声で確信した。
トウァ「...ごめん。
怒んないで、もうしないから」