ルリの告白
お風呂から上がり、居間に行く。
居間の時計は20時半を指している。
今はゴロゴロ、本を読みたい気分だ。
居間ではニアが木琴を弾いてて、
それをミアが子供を抱きかかえて
座りながら聞く。
私「ニアの木琴すごいね」
ミアの隣に座って話しかける。
ミアの抱きかかえる赤ちゃんが
私に手を伸ばしてきたから、
そっと手を握る。
赤ちゃんの手は小さいから、
握るというかつまむだけど。
ミア「ニアはすごいんだよ。
私はあんなに上手くは弾けない」
ミアもまぁまぁ上手かったと思うけど。
ニアは2つの棒で、木琴を叩いてる。
かなり速い律動で、
BPMは288くらいありそうだ。
棒は振動してるみたいに、
高速で木琴を叩く。
私「ミアはこの曲,弾けるの?」
ミア「弾ける訳ないじゃん。
追いつかないよ」
私「ミアでもそうなんだ」
ミア「ニアは子供の頃からずっと、
木琴だけしてるんだよ。
私とは比べ物にならないくらい、上手いよ」
私「それもそっか」
木琴を全然した事がない私からしたら、
ミアの演奏とニアの演奏も、
あまり違いがわからない。
わかるのは速さくらいだ。
ミア「私は飽き性だからさ、
1つの事だけ毎日ずっとするのは苦手なの。
絵を描く日、木琴をする日、
服を縫う日、毎日、
別の事をしなきゃ退屈しちゃう」
私「私はそんなにたくさん、
色んな事に挑戦できる、
ミアが羨ましいよ」
何か初めての事をするというのは、
心的障壁が高い。
ミア「退屈が嫌なだけだよ。
ニアは大会で上位にいて、
有名になったりしてるけど、
私は平凡だから」
私「そっかなー。
そう言えば、木琴の大会って、
木琴の何を競ってるの?」
音楽で競うというのが、
よくわからない。
ミア「音楽の大会で、
大抵、競われるのは精度だよ。
どれだけ正確な律動で叩けてるか。
正確な律動から0.04秒以上、
外れた音が何個あったかで測ってる」
私「0.04秒の違いって、
わかるもんなの?」
ミア「私はわからないよ。
それを判定する専門の人がわかるだけ。
目盛りが0.001秒単位で付いてる、
高級な時計を見ながら、
4人くらいで判定する音を分けて、
ようやく、判定できるんだよ。
だから、音楽の大会を開くには、
色々と費用が掛かっちゃうから、
村や市では大会がなくて、
県とか区で大会がある」
私「そんなに大変なんだ」
0.04秒のズレを意識して、
完璧な演奏をする。
私の性に合わなそうだ。
大体で良いと思っちゃう。
私「ねぇ、ミア。
あの木琴に合わせて、
何か歌ってくれない?
ミアの歌,聞きたい」
ミアの声は猫みたいに可愛い。
ミア「えー、居間で歌うの、
ちょっと、恥ずかしいんだよね」
私「お願い!」
ミア「わかったよ。この曲、終わったらね」
ミアが少し困った感じで了承する。
私「ありがと」
私はミアの歌が1番,好きだ。
子供の頃からずっと聞いてる。
ミア「フウリはほんと、
私の歌,好きだよねー」
フウリ「うん。
ミアの声は可愛いもん。
ミアみたいな可愛い声、
ミア以外の人で聞いたことないよ」
ミア「そうなの?
でも、この子の声も可愛いよ」
ミアがゆったりと、
赤ちゃんを左右に揺らす。
すると、赤ちゃんが可愛い笑い声を出す。
私「そうだね。
この声も可愛いよ。
なんたって、ミアの子供だし」
ミア「赤ちゃんはみんな可愛いよ」
私「そうだねぇ」
可愛いけど、欲しいかと言われれば、
微妙なところかな。
弱々しくて、簡単に壊れちゃいそうで、
自分の手に余る気がする。
私「あ、木琴,終わったみたい」
ミア「じゃあ、赤ちゃん,預かって」
両腕を前に出すと、
そこにミアが赤ちゃんを乗っける。
フウリ「うん」
赤ちゃんは結構,重い。
この子は9kgくらいだろうけど、
ずっと持ってたら疲れそうだ。
太ももの上に赤ちゃんを乗せて、
前から腕を通す。
よく考えたら、この子、
ミラは1歳になるんだっけ。
もう、赤ちゃんじゃないかも。
ミア「ニア、なんか、歌を弾いて」
歌とは歌詞がある楽曲。
曲とは歌詞がない楽曲と区別されてる。
ニア「なんか...
にゃーにゃーにゃーで良い?」
ミア「うん。いいよ」
にゃーにゃーにゃーという歌は
ミアが良く歌ってる歌で、
猫を題材にしてる。
ニア「3、2、1」
ニアが数降下読みをし、
1と言った後、木琴が4回,叩かれる。
ミア「ねこ!ねこ!パヤ!パヤ!
ねこ!ねこ!うそ!うそ!
かわいいの?かーわいいの?
ねこねこだいすき、にゃーにゃーにゃー!
にゃーにゃーにゃーにゃー、
にゃにゃ、にゃーにゃーにゃーにゃ、
にゃにゃ」
にゃーにゃー言ってる
ミアが可愛いくて、ニマニマしちゃう。
猫みたいに可愛いミアが
にゃーにゃー鳴いてるのは最高だ。
~ミア「はぁー」
ミアが私の左に座る。
ミア「やっぱり、ちょっと、
恥ずかしかったよ」
フウリ「でも、可愛かったよ。
ドキドキしちゃった」
すると、ミアが私の耳に口元を近付ける。
ミア「可愛かった?」
その囁き声で私は悶えた。
居間でミアとしばらく談笑した後、
本棚から「ケモミミ戦記」を取って、
居間から出て廊下を歩く。
後は本でも読んで寝よう。
いい感じにぼんやりしてる。
もう11時だし。
ビク!
突然、左の扉が開き、
ルリが出てくる。
ルリ「...フウリ、ちょっと、話,良い?」
私「うん」
心臓がバクバクする。気まずい。
やっぱり、私はこういう雰囲気が苦手だ。
ルリ「外で話そ」
ルリが私の前を歩く。
居間と廊下は扉なしで繋がってるから、
ミアとか居間にいる人達に
見えてるだろうな。
昼間の件もあるし、
ルリと関わってる所を人に見られたくない。
ルリが家の扉を開けて外に出る。
ルリ「フウリは、ツミキと...
仲が良かったんだよね?今も好き?」
ルリが前を見ながら言う。
私「好き...」
好きってどういう好きの事だろ。
私「まぁ、好きだよ。
友達として、知り合いとして、
あと、同じ大家族の一員として」
ルリはどういう意図で
そんな事を私に聞いてるんだろ。
ルリ「......」
ルリが少し黙る。
なにか緊張してる様子だ。
私に何か伝えたいけど、
でも、言い辛くて言えない感じに見える。
私「言いたい事があるなら早く言ってよ。
早く部屋に戻りたい」
ルリ「好き...」
突然、私の目を見てポツリと言う。
私「へ?ツミキが?知ってるよ」
何を今更。
明日、婚姻の儀式だってするのに。
ルリ「フウリが...好き...」
ルリは小さい声でかぼそく、
「好き」と言う。
私「好き...好き?」
言ってる意味がわからない。
私「え?友達になりたいって事?」
そう言えば、今日の朝、
私と一緒に話したいとか、
ツミキの事とか2人で
話したかったって言ってたっけ。
ルリ「違う...私と華絡して欲しいの。
私とツミキとフウリ...
3人で一緒になろ?
三角婚...知ってるでしょ?」
ルリが悲しそうな顔で、
訴えかける様に言う。
まるで、最初から断られると
思った上で言ってるみたいに。
私「ハ...はぁ!?」
びっくりして大きな声が出る。
私「いや、なに言ってるの!?」
なに言ってるんだこの娘。
三角婚って、私がルリと結ばれた上に、
私がツミキと結ばれるって事?
唐突,過ぎて意味が分からない。
私とルリが結ばれるの部分も
私がツミキと結ばれるの部分も
唐突で、全てが唐突だ。
私「ルリにはツミキがいるでしょ。
ツミキだってルリが好きでしょ」
早口で言う。
ルリ「ツミキは好きだよ!
でも...フウリも...好きだよ?
ツミキもきっと、
フウリが来たら喜んでくれるよ。
...よくね、フウリの話するんだよ。
フウリとの思い出、
色々、私に話してくれるんだよ。
楽しそうにさ。
でも、その度にちょっと、
悲しそうにするの。
...寂しいんだよ、きっと。
フウリと遊ぶ機会がなくなってさ。
私が毎日しつこく遊びに誘って、
独占しちゃったせいなんだけどね。
だから、ツミキもフウリと
一緒に暮らしたいと思ってるよ?きっと」
ツミキ...私の話とかするんだ。
寂しがってる...
でも、ツミキだって私と
結婚したいだなんて思ってない筈だ。
ツミキはルリの事が好きな筈だ。
私に浮気しようとしないで欲しい。
ツミキを大切にして欲しい。
私「私は...ツミキと
そういう関係じゃないよ。
ただの友達...それだけだよ。
第1、ツミキにその話したの?
ツミキにまず聞きなよ」
ルリ「ツミキが良いって
言ったらしてくれるの?
私とツミキとフウリで三角婚してくれる?」
私「......」
答えられない。
そう言えば、ソナにも
同じ事,聞かれて答えられなかったっけ。
三角婚したら、ツミキとまた一緒になれる。
それに、ずっと結婚しないまま、
歳を取る心配もなくなる。
私はあんまり男性との交流が少ないし、
恋愛への興味が薄いから、
早いうちに結婚しとくと安心だ。
...でも、1度,結婚したら、
後から「やっぱなしで」とはできない。
ツミキは可愛いだけだ。
あくまで、友達だ。
もしかしたら、いつか、
本気で男性を好きになるかもしれない。
でも、恋愛目線では好きじゃない、
ツミキとルリがいたら、
その人とはどうにもならない。
そもそも、恋愛目線で好きじゃないのに、
結婚する方がおかしい。
私はルリの事,好きじゃないし。
私「...ダメだよ。
私はツミキの事、
恋愛目線で好きな訳じゃないし。
別にルリとそんな仲良い訳じゃないじゃん」
ルリ「私と仲良くなってくれないの?」
ルリが私の左手を両手で握って言う。
逆になんで、仲良くなってくれると
思ってるんだろう。
ルリは身勝手で自己中だ。
この世界はルリを中心に周ってないし、
この世界の登場人物は
ルリを幸せにする為にあるんじゃない。
私「...今日、なんで、
勝手に接吻したの?」
ルリ「......好きだったから」
そんなの言い訳だ。
私「好きってなにさ!
私、ほんとに、
恥ずかしかったんだよ!?
私にひどい事しといて、
好きってなに?
ほんとに好きなら、
思いやる筈でしょ。
ルリが好きなのは自分だよ!
勝手に接吻してくる様な人と、
仲良くなりたいなんて思う訳ないじゃん!」
声が大きくなる。
ルリは自分勝手だ。
私の事も、ツミキの事も考えちゃいない。
ルリ「そんな...つい、
ノリでしちゃっただけだよ。
女子同士なんだから、
接吻くらいいいじゃん。
恥ずかしがり過ぎなんだよ、フウリは」
ルリが涙を流す。
ルリが悲しそうに私を見つめる。
私「普通、女子とはしないよ!
付き合ってもないのにしないから!
私、した事なかったのに、
なんで、ルリとなんか
しなきゃなんないの!?
あれ、初めてだったんだよ?
もう、私に話しかけないで!」
早口でまくしたてる。
次々と色んな感情が湧き出てくる。
私の言葉と共に、
ルリの表情がどんどん崩れる。
もう、ここにいたくない。
部屋に戻りたい。
私の手を握ってる、
ルリの手を振り払って家に入る。
早歩きで部屋に戻り、
布団に倒れ込む。
私「はぁ...」
疲れた。
にゃーにゃーにゃー 立秋
https://youtu.be/CrzoRFWQDa4?si=EdaQGmBYy5cYnDAm




