輪投げ2
店主「よし、1遊戯終了だ。
フウリちゃんは5点,5点,6点で16点。
躊躇い半端に らないで、
6点をもっと狙って、
1回くらい8点も狙わないのかい?
ミアちゃんも同じく16点で合計32点。
16ptの景品は髪用弾性輪だ」
私「2遊戯目からは本気だすから」
最初の遊戯はただの練習だ。
今からあの現代絵画を狙う。
まだ2回目だけど、トバしていこう。
狙うは8点の棒。
8点の棒は格段に難しい。
他の棒を入れる時とは、
かなり勝手が違うのだ。
スーッ...緊張して、
手の感覚がわかんなくなる。
壁に垂直に立っている、
8点の棒に入れる為には、
輪っかが棒の所に行った時、
輪っかは地面と垂直に近くなきゃ、
斜めを向いていなきゃいけない。
だから、輪っかは、
斜め上を向いたまま、
山なりに飛ぶのが理想。
それが今、私が考えてる最善の攻略法だ。
8点の棒をじっくり見つめて、
どう投げるかを、何度も想像する。
そして...投げる。
ビュン
スー...速すぎたかな。
歯と歯の隙間から息を吐く。
緊張して、つい力が入っちゃった。
輪っかは斜め上に飛び、
その向きを維持しながら、
落ちていく。
輪っかの向きは大丈夫だ。
けど...ドンッ
輪っかが棒の上の壁に当たる。
やっぱり、力を入れ過ぎた。
私「うー」
上手くいかない。
そんな私を横目で見ながら、
ミアは無言で、
また6点の棒に輪っかを入れる。
悔しい...6点の棒なんて、
私だって、入らない事あるのに、
安定して入らないのに。
負けたくない。
店主「あれー?
このままだと、フウリは、
ミアに負けちゃうよ?」
店主が私をイラッとさせる事を言う。
ミア「勝負じゃなくて、
共闘してるんですよ」
もっかい輪っかを投げる。
力加減をきちんと意識して投げる。
カンッ
私「うー」
今度は輪っかの向きがダメだった。
輪っかが地面と平行の向きに
なってたせいで、
輪っかが棒にぶつかって跳ね返った。
そして、それとほぼ同時に、
ミアがいつの間にか投げた輪っかが
6点の棒に入る。
ミア「惜しいねー」
ミアが私を慰める。
絶好調のミアに慰められるのは、
なんかあまり嬉しくない。
ふと気付く。
ミアは6点ずつ入れていて今は12点。
1人でする時、現代絵画が
貰える得点は20点だから、
ここでミアが8点の棒に、
輪っかを入れたなら、
私と一緒にしていない時なら、
あの現代絵画が貰えた事になる。
ミア「私も8点の棒、やってみよっかな」
やめて欲しい。
ここでミアが8点の棒に輪っかを入れたら、
私は悔しくて、
まともじゃいられなくなっちゃう。
いや、大丈夫だ。
さすがに、1発であの8点の棒に
入れられる訳がない。
ミアが私とは違う、
輪っかの持ち方をする。
体を正面に向けて、
腕をダランと垂らして、
手のひらが前を向く形で
輪っかを握ってる。
普通、輪っかを投げる時は、
体を斜めに傾けて、
刀を抜く様に投げるけど。
そして、ミアが放る様に、
輪っかを投げる。
すると、その輪っかはゆっくりと、
クルクル前後に回りながら、
ゆったりと山なりに飛んで行く。
前後に回転してると、
棒に入りずらそうだ。
普通の投げ方なら、
左右に回転するから大丈夫だけど。
...カンッ。弾かれた。
私「あー、惜しい」
輪っかの向きさえ良ければ絶対に入ってた。
店主「惜しいねー。
ミアちゃんって、垂直な棒には、
放り投げするんだね。珍しいよ。
大抵の人はフウリちゃんみたいな、
抜刀投げをするんだ。
抜刀投げは、
手のひらを上に向ける形で輪っかを握る。
そして、そのまま体を横に向けて、
刀を抜く様に、
前腕と手首を動かして投げるんだ」
店主は輪投げに詳しい。なんたって、
フニニャマ村の輪投げ大会で1位、
ミャラリ市の輪投げ大会で
3位を取るくらいの、輪投げ競技者だ。
ミア「放り投げと抜刀投げは
どんな違いがあるんですか?」
店主「まず、放り投げは
体の向きに真っすぐ飛ぶね。
抜刀投げは体の向きとは別に、
左右で投げる向きを変えられるんだけど、
逆に言うと、左右にぶれるんだよ。
放り投げは振り子みたいに、
腕を前後に振って投げるから、
安定した向きで投げられる。
ただ、上下に力を加える投げ方だから、
輪っかが上下に回転して、
時間位置によっては
棒に当たっちゃう。
上下の回転はゆるやかだけど、
回転する数を予測して投げるのは、
上級者でも難しい。
運次第だ。
それと、速度が遅くて、
飛距離が短い事も欠点だね。
でも、こんな珍しい投げ方をするなんて、
中々、見込みがあると思うよ」
私って輪投げの才能ないのかな。
ミアが店主に褒められてるのが、
なんか悔しい。
投げ方を変えてみようかな。
抜刀投げは、真っすぐ投げるのが難しいけど、
どうすれば、真っすぐ投げれるのかな。
体を正面に向けたら、
真っすぐ飛びそうな気がする。
後はどう腕を動かすか。
ミアの放り投げをそのまま、
真似するのは嫌だし...
じゃあ、腕を下に垂らすんじゃなくて、
上に向けよっかな。
店主「さぁ、投げな」
ふと、店主が言う。
私が何か新しい事を考えて、
今、その思考が完了したのを知った顔だ。
私「うん」
初めての投げ方だから、
どんな軌道を描くのか、
あまりわからない。
腕を地面と垂直に立て、
手のひらを前に向ける形で、
肘を90°に曲げる。
肘の高さはできるだけ高く、
鼻くらいの高さまで上げる。
輪っかは握らず、
指に引っ掛けるだけだ。
そして、前腕を自分に傾けてから、
一気に前に振る。
すると、指から外れた輪っかが、
勢いよく前に飛んで行く。
抜刀投げよりも速い。
それに放り投げよりも、
激しく縦に回転してる。
輪っかは放りなげみたいに、
真っすぐな軌道で飛び、
見る見る、8点の棒に吸い込まれて行く。
カン!
甲高い音が鳴って、輪っかが
8点の棒に入り、
棒に輪っかがぶら下がる。
私「入った」
入るとはあんまり思ってなかった。
店主「投石投げか。
投石投げは放り投げと同じく、
真っすぐ飛ぶし、
放り投げよりも速く、遠くまで飛ぶ」
ミア「って事は、放り投げより、
投石投げの方が良いんですか?」
店主「いや、投石投げより
放り投げの方が狙いやすいし、
疲れにくいから、一長一短だろう。
さて、ミアちゃんは
6点、6点、0点で12点。
フウリちゃんは0点、0点、8点で8点。
合計20点で景品はなしだね。
じゃあ、3遊戯目をやるんだ」
さっきと同じだ。
さっきと同じ様に投げれば入る。
同じ事を繰り返すだけだ。
無意識に身を委ねて投げる。
カン
あっさりと入った。
私「これなら、余裕で、
あの現代絵画、取れそう!」
まだ取ってないのに安心しちゃう。
喜んじゃう。
店主「1度、安定した投げ方を知ったら、
簡単に入れられる様になるのが、
輪投げだからな」
それなら、最初から、
この投げ方を教えてくれればいいのに。
まぁ、それだと儲からないか。
ミア「私、絶対に間違いしない様にしよ。
フウリが上手くやってくれたのに、
私が下手なせいであの現代絵画、
取れなかったりしたら嫌だし。
これってさー...フウリが全部、
8点入れて24点,取っても、
私が5点を毎回、入れたら15点で
合わせて39点なんだよねー。
あの景品の点数は40点だから、
6点は必ず1回取んなきゃ。
5点なら、まだ安定して
入れられそうなのに...」
ミアがちょっと、緊張した様子で言う。
ミアなら6点でも、
3回に2回くらいは入りそうだけど。
謙遜しがちで自身がないのかな?
でも、確実に1回は入れなきゃって
考えたら緊張しちゃうか。
3回なんてあっと言う間だし。
私「大丈夫だよ。
さっき、6点、入れれてたじゃん」
ミア「...うん」
そう言って、ミアが投げる。
6点の棒に投げたみたいだ。
カランッ
私「ほら、入った。」
棒にも当たってない綺麗な入り方だ。
ミア「うーん。まだ、不安」
私「そー?」
そう言いながら、輪っかを投げる。
もう、8点の棒に、
輪っかを入れる感覚が
根付いているから簡単だ。
カンッ
やっぱり、入る。
あんなに難しかった8点の棒が、
嘘みたいに簡単に入る。
私の輪っかが入った直後、
再びミアが輪っかを投げ、
そして、やっぱり入る。
今度は5点の棒だ。
ミア「うー、緊張するー」
私「そんな事、言ってさー、
全然、余裕で入ってるじゃん」
緊張なんかしなくてもいいのに。
ミア「緊張するよぉ...」
ミアは珍しく弱気だ。
いつも明るく元気な感じだから、
不和を感じる。
私「ねぇ、最後は同時に入れよ?
ミアは5点,入れて、私は8点,入れる」
ミア「うん。わかった」
私「じゃあ、行くよ。
いっせーのっせ」
カララン
私の投げた輪っかと、
ミアの投げた輪っかが、
棒に入る音がダブって聞こえた。
私「やったー!」
思わず大きな声を出してしまう。
これで、あの、
可愛い可愛い獣耳の現代絵画を貰えるんだ。
ミア「はぁぁ、良かった。
ちゃんと入ってくれて」
ミアは緊張してたのか、
一気に息を吐く。
アリシア「じゃあ、ください」
店主に体を向けて言う。
店主「仕方ないね。
この絵は結構、高いから、
ほんとは渡したくないけど、あげるよ」
店主は素直じゃない笑みを浮かべて、
椅子から立ち上がり、
後ろを向いて、壁に掛かってた、
待望の現代絵画を両手で取る。
店主「はいよ」
店主が両手で持った、
現代絵画を自分に差し出す。
こうして見ると、
この絵画は結構、大きい。
縦の長さは、
肘から指先までの長さと同じくらいだ。
そっと両手でその絵画を持つ。
頬がニマニマしてきた。
ミア「じゃあ、約束、
守ってもらおっかな?」
ふと、ミアが自分の目をじぃっと見て言う。
私「あー、どら焼きだっけ?
じゃあ、どら焼き屋さんに行こっか」
そう言えば、ここに来る前に話してた。
現代絵画を取れたら、
どら焼きを奢るって。
ミア「うん。じゃあ、失礼しまーす」
私「楽しかったでーす」
軽く挨拶して、店を出る。
店主「あ、少し待て。いい話がある」
私「あ、はい」
半身だけ出た体を店に戻す。
なんだろう。
男性店主「2人は次の休日、暇かい?」
次の休日は来週の月曜日だ。
休日は2週間に1回ある。
私「まぁ、特に予定はないです」
男性店主「なら、中央市中央村にある、
輪投げ店に行かないか?
次の休日にそこで、
輪投げ大会が開かれるんだ。
上級者、初級者問わず、
輪投げが好きな人が集まって賑やかだぞ。
祭りでもあるからな」
店主は楽しそうに話す。
店とは「~屋さん」といった、
屋台よりも大きな店舗の事で
1つの県に1つある中央市や、
1つの市に1つある中央村とかにある。
そして、中央市に1つある中央村、
中央市かつ中央村の、
中央市中央村は栄えてて、
大きな店がたくさんあるのだ。
ミア「んー、どっしよっかな。
子供...ニトラに任しちゃおっかな」
そう言えば、ミアは3ヶ月くらい前に、
赤ちゃんを産んでた。
...ルリがツミキとの子を産んだ、
2週間後くらいだったっけか。
フウリ「任しちゃえば?
いつも子育て頑張ってるでしょ、ミアは。
たまにはニトラにやらせちゃいなよ」
ミアは赤ちゃんを部屋からあまり出さない。
だから、ミアが子育てしてるところは、
あんまり見た事ないけど、
優しくて人の為にあれこれ頑張る、
ミアの事だから、
多分、頑張ってるんだろう。
ミア「でも、ニトラ、子育て、
全然できないんだよ。
赤ちゃんが泣いてる時、
ニトラがいくらあやしても、
泣き止まないもん」
まぁ、確かにそんな気する。
ニトラは寡黙で無表情だから、
子供が苦手そうだ。
まぁ、そもそも赤ちゃんは
お父さんよりお母さんが好きで、
お母さんが赤ちゃんの世話をした方が、
赤ちゃんにとっても良いだろうし。
私「でも、お母さんとかいるでしょ?」
幼い子供がいる人は、
よく、自分のお母さんに
赤ちゃんを任せて、
遊びに行く事がある。
今は夜だから、
今日はお母さんかニトラにでも
赤ちゃんを任してるみたいだ。
だから、多分、ミアは、
夜の12時までは遊ばず、
早めに帰るんだろう。
ミア「でも...
私はもう大人なんだから、
あんまりお母さんとかに
頼るのは駄目じゃん」
私「気にし過ぎだよ」
ミアは誰かに、
何かしてもらうのを嫌がる。
何かしてもらいたい時は、
わざわざ対価を用意する。
生きずらい性格だ。
いや、私の性格が、
あまり良くないのかもしれないけど。
男性店主「2人を輪投げ祭りに、
連れて行きたいのは
2人が輪投げ,上手くて、
ちょっと自慢したいからなんだよ。
輪投げ仲間とかに、
私の教え子として自慢したい」
店主もミアに誘いかける。
私「大して教えてもらってないのに」
店主「なに、輪投げ祭りの店で教える。
店は広くて、色んな輪投げができるんだ。
輪投げ協会直営の店だから、
実力さえ整えば、そこで輪投げ師の
資格を取る事もできるぞ。」
私「それって何か、
良い事あるんですか?」
まぁ、自慢にはなりそうだけど。
店主「輪投げ屋を始める時、
輪投げ師が運営している
屋台って箔が付くぞ。
というか、そうじゃない屋台はほぼない。
輪投げ師の資格を持たなきゃ、
職業者じゃなくて、趣味者だからな」
確かに、大して料理が上手くない人が、
軽食屋を開いてたら変に思われる。
屋台は少人数で運営する、
店舗の事だけど、
それでもそこで働く人は、
趣味ではなく仕事としてやっていて、
職業者としての誇りや矜持を持つ。
なんとなくで始められる程、
屋台経営は簡単じゃないのだ。
私「ふーん。
まあ、輪投げ師の資格あったら、
自慢できるかなー。
輪投げ屋を開業するつもりは全然ないけど。
で、どうする?ミア
私はどっちでもいいけど。
部屋で本でも読みながら、
ゴロゴロする休日も、
遊び疲れるまで、
遊び倒す休日も好きだし」
輪投げ大会に行くとしたら、
燃え尽きるまで遊んでやろうと思う。
ミア「んー、そう言えば、
ミラを妊娠してから、
ずっと中央村に行ってなかったし、
久々に行こっかな」
ミラはミアの娘だ。
私「うん。わかった」




