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朝食

♪~

朝だ。

起床時間に演奏される音楽が

私の意識をゆっくり起こす。


ぼんやりした意識のまま、

ゆっくり体を起こして、ぼーっとする。

すると、隣の部屋と私の部屋を繋ぐ

窓が開かれて、妹が顔を覗かせる。

妹「おはよ。お姉ちゃん」


私「おはよ。フウミ」

妹の名前はフウミ、

私の名前はフウリだ。


そして、私のお母さんの名前はフーミ。

妹の名前、フウミとそっくりだ。

聞き間違える事も多いけど、

「フーミ」の「()」は高くて、

「フウミ」の「ウ」は低いっていう、

ちゃんとした違いがある。


子どもの名前がお母さんの名前と

似てるのには訳があって、

それはお母さんが自分の子には

自分と似た名前に名付けるからだ。


何世代もそれを繰り返すから、

私のおばあちゃんも、

幼い頃に死んじゃった

ひいおばあちゃんも、

私達、3兄弟と似た名前だった。


妹のフウミは本当に良い子で、

しっかり者で、面倒見がいい。

弟のフウマの

お姉さんとしてぴったりだ。


フウマはすぐ、誰かに

甘えたり頼ったりするから、

面倒見のいいフウミが

お姉ちゃんで助かってるだろう。


まぁ、そのせいで、

フウミもフウマも

私に頼ってくれない事が

ちょっと寂しいんだけど。


朝ごはんを食べに部屋から出る。

部屋を出るとそこは廊下で、

廊下には()っすぐな川が

通っている。


その川の、透き通った水に

両手を入れて、

顔にパシャリと水を

何度か当てる。

そして、濡れた顔を拭布(タオル)拭く。

爽やかな気分だ。

顔を洗わないと1日が始まらない。


次に、木の飲み皿(コップ)

川の水を掬って、水を飲む。

すると、寝ている間に

乾いた喉が癒される。


そう言えば、私達、大家族が住む、

この家は、この飲み皿(コップ)の材料の木で

作られているんだっけ。


「おはよう」

ゆったりとした

穏やかな声が聞こえた。

フミヤおじいちゃんだ。


「おじいちゃん、おはよう」

フミヤおじいちゃんは父方の祖父で、

おっとりとしてて、優しくて、

私は好きだ。


廊下を歩いて食堂へと向かう。

廊下の壁には、扉が4つある。

ソーコ家、ミニア家、

フーミ家、ルリ家の家族部屋だ。


〇〇家というのは、

まだ子供を産んでいない子供がいる

夫婦と、その夫婦の子供や孫の事で、

その夫婦の奥さんの方の名前で、

〇〇家と呼ぶ。


その〇〇家を家族と言って、

奥さんの方の名前で〇〇家と呼ぶのは

家族ではお母さんが家族の代表、

家主だからだ。


なんで、お母さんが家主なのかと言うと、

家族、家庭というのは

子供がいなきゃできなくて、

その子供を産み、育てるのは

お母さんで、お母さんを中心に

家族があるからだと言われてる。


そして、家族は一緒に

暮らすものだから、

家族で使う家族部屋という部屋がある。


家族部屋は、居間と寝室からできていて、

最初は家族全員で1つの寝室を使うけれど、

子供が14歳で大人になると、

寝室に壁を設けて、寝室を区切る事で

子供に個室の寝室が与えられる。


私は半年くらい前に

誕生日を迎えて

14歳になり個室を貰った。


自分の部屋を持つと、

内装を考えたりできて

楽しいけれど、

1人で寝るのがちょっと寂しい。


最近、思う。

家族というのは短い。

子供が全員、子を産んだ時、

その子供はそれぞれ家族を持ち、

家族はなくなる。


家族がなくなると、

親はどの家族にも属さなくなって

現霊(げんりょう)部屋という個室で

寝泊りする。


1番、歳下の兄弟のフウマは今9歳で、

あと5,6年したら、

結婚して子供を持つかもしれない。


その頃には私や

妹のフーミも結婚して

子供を持ってるかもしれなくて、

そしたら、私達、兄弟は

それぞれ家族を持って、

お父さんお母さん、

そして、兄弟とは

別々に暮らす事になる。


それは寂しいけど、

それが大人になるって事だから

仕方ないのだ。


子供が全員、子供を産んだ夫婦は

現霊(げんりょう)部屋という部屋に住むけど、

その現霊(げんりょう)と言う言葉は、

現世に現れた霊という意味だ。


昔々、人は自分の子供が全員、

子供を産んだら、

生きる意味がなくなって、

現世での役目がなくなって、

だから、死んじゃって、

幽霊になってたらしい。


けれど、ある人が、

子供が子供を育てるのを

見守り、助けたいと天に祈り、

それを優しさの神ムツナカが叶えたから、

子供が全員、子供を産んで、

自分が幽霊になっても、

現世にいられる様になったのだ。


現霊(げんりょう)と生きてる人は違う。

命ある者は、夢を持ち、恋をし、

家庭を築き、守って、子供を育て、

趣味にいそしみ、

その趣味の高みを目指したりして、

「生きる事」をしているけれど、

現霊(げんりょう)は、ただ、己の子孫を見守り、

助ける為だけにいるのだ。


居間に着いた。

食卓(テーブル)の上にある

食べ物を目にして、お腹が空く。


ご飯を食べないと仕事ができない。

寝坊してご飯を食べずに

仕事をしたら、お腹がすごく空いちゃう。


子供の頃はお母さんに

起こしてもらえたけど、

私はもう大人だから

起こしてもらう事はなくなった。

だから、きちんと

1人で起きなきゃいけないのだ。


色々と抜けてる3歳上のいとこ、

タニシが、前に寝坊して、

ご飯を食べずに仕事をして、

仕事中に何度も、

「お腹、空いた」と

私にうるさく愚痴ってきた。


私はそんな事しない。

ちゃんとご飯を食べる。

この大家族の一員として、

仕事を頑張る為だ。


仕事は最近になって始まった。

14歳になる前までは、

仕事というよりも

お手伝いで、働く量は

お父さんお母さんの

さじ加減で決めてもらってたから、

サボらせてもらえる事も

よくあったけど、

私は14歳になって、

成人の儀式をした大人だから、

しっかり働かなきゃいけない。


子どもと大人で、

違う事はたくさんある。


大人は働かないとごはんが貰えない。

そして、働くと「カニ」が貰える。

「カニ」は大家族の物資と

交換できたりする、

大家族の中で使えるお金で、

村のお金である

「ムニ」とも交換できる。


大人...かぁ。

精霊の受胎(初経)も来たし、

身長も伸びたから、

体は大人だと思うけど、

結婚をして子供を育てている人達とは、

どこか差がある気がする。


なんだかんだ言って、

私はまだ、子ども扱いされる事が多い。


私の親世代の人に、

子ども扱いされるのは、

まだ良いんだけど、

1歳年下の、子育て中の、

いとこの奥さん、ルリに

子ども扱いされた時はムッとした。

子ども扱いというか、

結婚してなきゃわかんないよねって

感じの事を言われてムッとしたのだ。


まだ大人じゃないのに、

成人の儀式をしていないのに、

愛番いの儀式をしてないのに、

子どもを作った...

そういう行為をした、

あのルリとかいう女は

淫ら(エッチ)だ。


しかも、ツミキの両親は

子供をツミキしか産んでない。


だから、ツミキの両親は

子供が全員、子供を産んだ事になって、

ツミキの両親は現霊(げんりょう)になり

ツミキとルリは家族を持つ事になる。


そして、ルリは家族を持ったから

13歳なのに家主になった。

成人の儀式だってしてないのに、

ルリはもう家主になってる。


制度(ルール)上、仕方ないんだけど、

ずるく感じちゃう。


だって、家族部屋は

ルリとツミキと、

2人の子のルキの3人で

暮らすには広過ぎる。


ソーコ家もミニア家も

6人で1つの家族部屋だし、

ルキは産まれたばかりの

赤ちゃんなんだから

ルリ家はほぼ2人で、

あの広い家族部屋を

使う事になるじゃんか。


家族部屋なんて、

居間と寝室を合わせたら、

72(6×12)㎡もあるのに。


それにルリが結婚した

いとこのツミキは1歳年下で、

なにかと世話してあげてたのだ。


ツミキは可愛がってたのに、

あのルリとかいう、

淫乱(エッチ)な女に盗られた。

それが憎い。


別にツミキを恋愛対象として

見てた訳じゃないけど、

だけど、それでも好きだったのだ。


いつも、私に甘えて、懐いて、

一緒に遊びたがってた。


ツミキは子どもっぽかったし、

そういう(エッチな)事したがる子じゃない。

絶対に、ルリからツミキに、

体を使って誘惑して、

そういう関係を結んだに違いない。


ルリは明るくて、不真面目な(チャラい)性格をしてる。

ああいう女は悪い女だ。

私のツミキは悪い女に盗られた。


広間で他の人が着席するまで、

悶々とその事を考える。


もうすぐ、ルリとルキを、

私の所属している大家族に

編入する儀式が行われる。

家族迎えの儀式だ。


ツミキは私の大家族、

フニニャマ大家族の一員だけど、

ルリは別の大家族、

ミナカゼ大家族の一員だった。

ルキも今はまだ、

ミナカゼ大家族の一員だ。


ツミキとルリは制度上は

何の関係もないけど、

実際的には夫婦だから、

私の大家族の家で、

同じ部屋で暮らしてる。


それで、いつまでも、

この半端な状態を

続けるのはダメだからと、

家族迎えの儀式を行う事になった。


これで、私の大家族、

フニニャマ大家族は

24人から26人になる。


あんまりいい気分じゃない。

私がフニニャマ・フウリで、

あの()はフニニャマ・ルリ。

(おんな)じ苗字なのが嫌だ。

私はあの()を同じ大家族だと思えない。


「あ、フウリ、おはよー」

後ろから馴れ馴れしい声を掛けられる。

「絶賛、今、話しかけないで

欲しい人順位(ランキング)1位」のルリだ。


私「...おはよ」

不愛想に、目を見ずにポツりと呟く。

めんどくさいな。

なんで私なんかにいつも、

話しかけてくるんだろ。

私とルリは何の関係もないのに。

私の大家族の家に来てからそうだった。

何でかわかんないけど、

いつも、私に話しかけてくる。


ルリ「昨日、私の赤ちゃんが

すごい泣いちゃってたけど、

大丈夫だった?

うるさくなかった?」

ルリは笑顔で言う。

自慢でもしてるつもりなのかな。

ツミキと仲が良かった

私に対する嫌味なのかな。

イライラする。


私「はぁ...大丈夫だよ...別に」

そのイライラを溜め息で

吐き出して返事をする。


ルリ「そっかー、なら良かった。

私が抱っこしてる時は

ぐっすり眠ってたのにさ、

ツミキに抱っこさせた瞬間に

すごい泣き出しちゃったんだよね。


ツミキったら、

すっごくオロオロしちゃって、

助けて欲しそうな様子で

私の事、見つめてくるのが、

可愛くてさー。

やっぱり、男性に赤ちゃんは

任せられないよね」


私「...うん」

ルリは楽しそうに言う。

いつもそうだ。

自慢なのか知らないけど、

いつも私に対して、

ツミキとか、

ツミキと自分の子供、

ルキの話をする。


正直、ウザったい。

憎らしくて、このコップに入ってる

水をかけてやりたくなる。

私に構わないで欲しい。


ふと、ルリが黙ったかと思うと、

表情が一転する。

ルリ「...ねぇ、私...ウザい?」

ルリは悲しそうな声で私に聞く。


私「え」

急にどうしたんだろ。


ルリ「なんか、私と話してる時だけ、

いつもつまんなそうにしてるじゃん...。

フウリ、私と話す時とは違って、

他の人とは楽しそうに話してるよね。


私と話す時だけ、

私の事、邪魔くさそうな目で見るよね?

私は...ただ、ツミキの事、

フウリと一緒に話したいだけなんだよ?

フウリは、ツミキと昔から

仲良かったって聞いてたから、

ツミキの事...色々、

知ってるのかなって思って、

一緒に話したかったのに...」

ルリがポロポロと泣き出す。


私「え、ちが、そうじゃ...」

ルリが椅子から立ち上がって、

広間から走って出て行く。


やっちゃった...。

なにしてんだろ、私。

私に懐いてくれてた女の子に

冷たい対応をして泣かせちゃった。


ツミキと結婚してる事に嫉妬して、

ルリは何も悪くないのに、酷い事をした。


大人げない...。

本当なら、年上の私は、

ツミキとルリの結婚を喜んで、

その生活を応援してあげるべきなのに。


私は嫌な女だ。


息を吐き切る。

気まずい。

周りの視線がすごく気になる。

食堂にいる全ての人が

私を意識してる気がする。

嫌な女だって思われてる気がする。

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