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公域L6 池土夢

トウァ「そう言えばさ、

空き家を見つける前、

公域Lにある池で

体を洗うって、話してたよね。


空き家に立体放射器(シャワー)あるから、

その話はなしになったけど」


アリシア「うん。そうだね。

池土夢(いけどぉむ)の池は体が浸かれて、

足を伸ばせるくらい広いから、

丁度いいかなって思ったんだけど、

立体放射器(シャワー)があるなら

そっちの方がいいもんね」


トウァ「うん。

池土夢(いけどぉむ)の池って

黒いから、あんまり入る気しないしさ、

子供の池土夢(いけどぉむ)とかが

たくさんいるから、

広いようで狭いじゃん?」

池土夢(いけどぉむ)の池は

縦横2m半くらいで

大人の池土夢(いけどぉむ)が1匹、

子供の池土夢(いけどぉむ)が3,4匹いる。


アリシア「それに外で

裸になっちゃうの恥ずかしいしね。


近くに人がいないって

わかってても、

なんか恥ずかしいじゃん」


トウァ「確かにそうだね。

自分はそんな、

恥ずかしがり屋じゃないから、

別に大して恥ずかしくないけど」


アリシア「トウァはそうだろうね。

男性だから」


トウァ「...うん。

そう言えばさ、池土夢(いけどぉむ)の池の穴は

どうやってできるの?

池土夢(いけどぉむ)は手足がないから

穴を掘ったりしないだろうし」

ふと、近くにいた

池土夢(いけどぉむ)を見て、不思議に思う。

挿絵(By みてみん)

アリシア「一足駆(イッソック)が穴を開けるんだよ。

地面の土を食べて穴をあけるの」


トウァ「土?土なんか食べるの?」

土なんか食べる意味あるんだろうか。


アリシア「土には栄養があるんだよ。

ごく僅かだけどさ。


池土夢(いけどぉむ)卵樹絡釣(らんじゅからづり)よりも

消費生物学的熱量(カロリー)、摂取生物学的熱量(カロリー)

次元(レベル)が1つ上だって言ってでしょ?

だから、池土夢(いけどぉむ)卵樹絡釣(らんじゅからづり)よりも

生物学的熱量(カロリー)次元(レベル)が1つ下なの。


だから、池土夢(いけどぉむ)を捕食する一足駆(イッソック)より

卵樹絡釣(らんじゅからづり)を捕食する舌丸の方が

摂取生物学的熱量(カロリー)次元(レベル)が1つ上で、

一足駆(イッソック)はどれくらいの栄養があるなら

食べるかの範囲も下に広がってるんだよ。


土を一足駆(イッソック)が食べて、

舌丸とか他の生物が

食べないのはそういう理由」


トウァ「へー、確かに、1次生物の、

摂取生物学的熱量(カロリー)

その1次生物を捕食する2次生物の

摂取生物学的熱量(カロリー)も決まるもんね。


土を食べるのかー。

海水から栄養を摂取するのと似てるね」


アリシア「うん」


トウァ「でもさ、

一足駆(イッソック)が土を食べても、

地面が全体的に低くなるだけで、

穴なんかできなくない?」

まさか、1回の、土の摂食だけで、

あの大きな穴を作れないだろうし。


アリシア「土って

栄養の偏りがあるんだよ。

土は混ざらないし、

いつ生き物が何処で死んじゃったかで、

土は場所によって成分が変わるから。

だから、栄養のある土だけ食べられて、

穴ができるんだよ」


トウァ「へー、成程。偏りか。

食べられた土はどうなるの?」


アリシア「排泄されるよ。

少し色が抜けた土って感じで」


トウァ「まぁ、そうだよね。

土が食べられて、なくなってく訳ないか」


アリシア「生態系とその環境は

中々、変わらないからね。

短い期間で変化する事は

ずっと昔に変わってて、

ずっと変わらない事が

今でも残ってるんだよ」


トウァ「そうだね。

生態系の時間は人の時間よりも

すごくゆっくりだから。


池土夢(いけどぉむ)の池の水はさ、

池土夢(いけどぉむ)が出してるの?」


アリシア「そうだよ。

池土夢(いけどぉむ)はてっぺんに

小さな穴があって、

池の水が蒸発する速度と

同じ速度で池の水、

黒水が流れてる」


トウァ「へぇ、池の水は

黒水って言うんだ。

なんか、まんまだね。


蒸発する速度って、

池の広さで決まるだろうけど、

目もないのに、どうやって、

蒸発する速度を知覚してるの?」


アリシア「触覚だよ。

池土夢(いけどぉむ)の殻に触れてる部分、

池土夢(いけどぉむ)の中身の表面に触覚があって、

殻からの圧力を感じ取って、

水位を知覚できるの」


トウァ「へー、殻ごしに、

水圧を知覚できるなんて、

ずいぶん、鋭敏な触覚だね。

それに、殻と中身が

ぴったりくっついてるのか。

そうじゃなきゃ、

水圧が伝わらないだろうし」

近くにいた池土夢(いけどぉむ)の前で立ち止まる。

そして、屈んで、池土夢(いけどぉむ)に顔を近づけ、

じっと見つめる。


アリシアが言うには

池土夢(いけどぉむ)のてっぺんからは

黒水が流れてるそうだけど。

トウァ「黒水...流れてる?」

水が流れてる様には見えない。


アリシア「流れてるよ。触ってみて」


トウァ「うん」

池土夢(いけどぉむ)の殻に

人差し指の腹をピタっと当てる。


すると、殻が、色が割れる。

いや、黒水の流れが割れたのか。

自分の指から左右に黒水が割れて、

指の下に黒水が

流れてない空間ができてる。


明るい色だな。

いつも自分が見てた殻の色は

黒水で暗く見えてたんだ。


トウァ「すごい...水が流れてるって

わかんないくらい、静かに流れてるんだ」


アリシア「池土夢(いけどぉむ)の殻は

すごくツルツルしてるからね。

凹凸が全然ないの。


だから、薄い、少ない量の黒水でも

すんなり流れてく。

そして、その流れが静かだから、

見ただけじゃ、水がそこを

流れてるって気付けない。


もしも、ザラザラ、凸凹(でこぼこ)してたら、

黒水が何処かに(はま)っちゃったり、

吸われたり、流れるのに

時間がかかり過ぎて、

蒸発しちゃったりしちゃうからね。


黒水をゆっくりゆっくり流す必要のある

池土夢(いけどぉむ)は殻が、

すごくツルツルしてなきゃ

いけないんだよ」


トウァ「確かに、すごくツルツルしてる。

殻に垂直に指を押しても、

何処かしらの方向に、

ツルって滑っちゃう。

多分、上に乗ったら、

すぐに滑り落ちちゃうんだろうな」

殻を指で触る。


アリシア「そうだね」


トウァ「でもさ、池土夢(いけどぉむ)

一足駆(イッソック)が捕食するんでしょ?

歯でガジガジ、殻を削っちゃうんでしょ?

そしたら、すぐに

ツルツルじゃなくなっちゃわない?」


アリシア「うん。だから、

池土夢(いけどぉむ)一足駆(イッソック)

齧られた後は灰水(はいみず)って言う、

水を流して、殻を修復するんだよ」


トウァ「へー。灰水はどんな水なの?」


アリシア「まず、

灰水は殻の成分が入ってて、

その成分が殻の凹んだ部分に入り込む。


そして、灰水が何処かに当たると、

その瞬間、灰水のその部分は

硬化して、流れが止まるの」


トウァ「硬化?」

水が硬化ってなんだろ。


アリシア「剪断増粘性(ダイラタンシー)流体って

知ってる?」


トウァ「知らない」


アリシア「剪断増粘性(ダイラタンシー)流体はね、

衝撃を加えられると、

その瞬間、硬化するの。


例えば、剪断増粘性(ダイラタンシー)流体は

ゆっくり手を押し込むと、

手が入ってくけど、

手をサッと素早く入れると、

手が入らないんだよ。


池土夢(いけどぉむ)の殻の穴に

灰水が入った時、一度、

そこの灰水が止まらなきゃ、

すぐに穴から流れ出ちゃうんだよ。


剪断増粘性(ダイラタンシー)流体なら、

穴に落ちる衝撃や、

穴の向かいの壁に当たる衝撃で硬化して

一度、流れが止まるの。


そして、殻の成分は水より重いから、

流れが止まってから、

再び穴から流れてく灰水に

殻の成分だけ取り残されるの。


その殻の成分で、殻の傷が塞がるんだよ」


トウァ「へー、

よくできてるね。おもしろい。


ダイラタンシー流体。

殴ったら、固体みたいに

硬くなっちゃう水か。

実際に触ってみたいな」


トウァ「へー、

よくできてるね。おもしろい。


ダイラタンシー流体。

殴ったら、固体みたいに

硬くなっちゃう水か。

実際に触ってみたいな」


アリシア「うん。そうだね」


トウァ「1つ不思議なんだけど、

さっき、齧られた後に

灰水で修復するって言ってたじゃん?


でもさ、一足駆(イッソック)

ずっと齧って、中身まで

食べちゃわないの?」


アリシア「大丈夫だよ。

殻を食べられ始めてから、

1時間くらいで灰水を流すから。


言ってなかったけど、

灰水には一足駆(イッソック)

対して有毒な成分が入ってるんだよ」


トウァ「へー。そうなんだ。

でも1時間後じゃ遅くない?」

1時間も食べ放題だと

手遅れになっちゃわないんだろうか。


アリシア「池土夢(いけどぉむ)の殻は

硬いし、ツルツルしてて、

歯が立ちにくいから大丈夫だよ」


トウァ「確かに、どれだけ、

噛む力が強くても、

殻の上で歯が滑っちゃったら、

噛めないもんね」


アリシア「うん。

だから、一足駆(イッソック)

歯を殻に当てたまま、

口を開け閉めして、

殻をガジガジ削って、

歯を立てれる、引っ掛けれるくらいの

凹み、傷をつけてから、噛むんだよ」


トウァ「そうなんだ。

まぁ、確かにそうするしかないよね」


アリシア「でさ、私が池土夢(いけどぉむ)

面白いなって思ったのはさ、

子供を育ててる事なんだよね」


トウァ「あー、あれって育ててたんだ」


アリシア「うん。

黒水は大人の池土夢(いけどぉむ)だけが

出してて、黒水に含まれる、

池土夢(いけどぉむ)に必要な栄養を、

子供の池土夢(いけどぉむ)が摂取してるの」


トウァ「へー、

黒水はそんな役割があったんだ。

そう言えば、不思議だったんだよね。

なんで、池の中にいるのか。

そういう事だったんだ」


アリシア「子供の池土夢(いけどぉむ)

根っこが川に届いてないからね。

他の池土夢(いけどぉむ)から栄養を

貰わなきゃ生きれないんだよ。


土夢(どぉむ)殻土夢(からどぉむ)

直接、根っこで繋がってたけど、

それだと一足駆(イッソック)

噛んで切断されちゃうから、

この方法で栄養を渡してるの」


トウァ「でもさ、黒水を出せないなら、

子供の池土夢(いけどぉむ)

一足駆(イッソック)に食べられちゃわない?」


アリシア「大丈夫だよ。

灰水を出す事はできるから。

というか、灰水を出す能力は、

子どもも大人も同じだよ。


子供でも大人と同じくらい

灰水を出せるの。


しかも、殻が薄い子供の方が

一足駆(イッソック)に食べられてるのに

気付くのが早いから、

その分、早く灰水を出せる」


トウァ「そっか。

むしろ、一足駆(イッソック)に対しては

子供の池土夢(いけどぉむ)の方が強いんだ」


アリシア「うん」


トウァ「そう言えば、

土夢(どぉむ)殻土夢(からどぉむ)は射産っていう方法で

子度を産むんだっけ?

池土夢(いけどぉむ)もそうなの?」

でも、池土夢(いけどぉむ)は子供と

同じ池で生きてるよな。


アリシア「うん。

池土夢(いけどぉむ)も射産で子供を産むよ。

でも、土夢(どぉむ)とかと違って、

近距離射産と遠距離射産の2つがあるの」


トウァ「自分のいる池に撃つか、

遠くの池に撃つかの違い?」


アリシア「そう」


トウァ「でもさ、どうやって、

遠くにある穴を狙って射出するの?

池土夢(いけどぉむ)は遠くの地形を

知覚できる感覚器官を

持ってないと思うんだけど」


アリシア「狙わないよ。

遠距離射産は同じ池にいる

大人の池土夢(いけどぉむ)の数が

2匹になった時、先に大人になってた方の

池土夢(いけどぉむ)がするんだけど、

遠距離射産は自分の体の半分を

遠くに射出するの。

半分っていうのは

地上に出てる部分のね。


それで、飛ばされた

半分の体は地面に落ちたら、

横に根っこを伸ばしてくの。

その根っこが土に触れたら

穴にいるって判断して、

その根っこが土に触れなかったら、

平らな地面にいるって

判断するんだよ。


平らな地面にいるってわかったら

池土夢(いけどぉむ)は更に、

自分の半分を遠くに射出して、

飛ばされなかった方の体は死んじゃう。


そして、飛ばされた方の体は

もっかい、穴に落ちたかどうか調べるの。

これで穴に落ちてなかったら死んじゃう。


だから、遠距離射産で飛ばされた

池土夢(いけどぉむ)は大半が死んじゃうんだよね。


でも、1回目か、2回目の射産で

穴に着地した池土夢(いけどぉむ)

根っこを川まで伸ばして、

その場所で生き続けるよ」


トウァ「へー、運任せだね。

だって、穴なんて、すごく少ないじゃん。

公域L全体の面積と比べたらさ。

穴は縦横2m半で、

181.5mくらいの間隔で

ポツリポツリあるだけだし」


アリシア「うん。

それに新しくできた、

まだ、池土夢(いけどぉむ)

住んでない穴って少ないから、

穴に落ちれても、

既に池土夢(いけどぉむ)が住んでる穴で、

移動してきた意味、ないんだけどね」


トウァ「だったら、そこまでして、

遠くに射産する必要なんてあるの?」


アリシア「長い目で見たらあるよ。

大人の池土夢(いけどぉむ)

めったに死んじゃわないけど、

たまには一足駆(イッソック)

食べられて死んじゃう。


そして、1つの池にいる

大人の池土夢(いけどぉむ)は1匹だから、

それが死んじゃうと、

子供の池土夢(いけどぉむ)も一緒に死んじゃう。


そんな、群れの全滅が

たまにあるんだけど、

もしも、全ての池土夢(いけどぉむ)

遠距離射産をしなかったら、

長い時間をかけて、

全ての池土夢(いけどぉむ)の群れが

全滅しちゃうでしょ?


だから、池土夢(いけどぉむ)は射産するんだよ」


トウァ「そっかー。

長い目で見れば...そうした方がいいのか。

いや、そうするしかないのか。


でもさ、そもそも、1つの池に

大人の池土夢(いけどぉむ)

複数匹いればよくない?」


アリシア「それはできないんだよ。

大人の池土夢(いけどぉむ)

同じ池に複数いると、

お互いの根っこが絡み合って、

お互いの根っこを溶かして

吸収し合っちゃうんだよ。

そしたら、両方、死んじゃう。


土夢(どぉむ)系の生物の根っこは

海水から栄養を摂り込むだけじゃなくて、

絡まった海草や水棲生物の死体を

溶かして吸収するって言ったでしょ?」


トウァ「そう言えば言ってたね。

土夢(どぉむ)の根っこは

海草を溶かす粘液に覆われてるって。


そっか。子供の池土夢(いけどぉむ)だから、

一緒に入れるんだね」


アリシア「うん。

だから、大人になったら

射産で体を小さくして、

子供に戻るんだよ」

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