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公域L3 卵樹絡釣2

トウァ「そろそろ、出よっか」

もう10分くらい、

周る泡卵の内側にいる。

アリシアとのんびり喋ってると

すぐに時間が経っちゃうな。


アリシア「そだね。行こっか」

アリシアが四つん這いになり、

外側に向かってはいはいする。

その後ろを自分もはいはいする。


3秒くらいはいはいした所で

ふと、アリシアがこちらに振り向き、

牽制する様な口調で言う。

アリシア「あんまり、お尻、見ないでよ」


トウァ「うん」

見られるの気にしてたんだ。


周る泡卵の外側に出て立ち上がる。

トウァ「公域Lから出たら、

その学区の空き家で寝る感じ?」


アリシア「うん。そうする」


ヒュッ

卵種が高速で飛んで来る。

左斜め前、33mくらい先からだ。


アリシアが無言で

自分を左に引っ張って()けさせる。


アリシア「たまに卵種が

飛んで来るから気を付けてね」


トウァ「うん。びっくりした。

ほんとに飛んで来る事ってあるんだ。


前に来た時は卵種(らんしゅ)

飛んでくの見なかったし、

自分達に飛んで来るなんて思わなかった」

クルクル回ってる泡卵から

卵種がたまに取れて、

遠心力で飛んで行く事は知ってたけど、

実際に見た事がなかったから、

あまり注意してなかったのだ。


アリシア「確かに珍しいよね。

卵種(らんしゅ)は、発生から成熟して

発射されるまで6年もかかって、

1つの卵樹絡釣(らんじゅからづり)からは

平均、2回/月(月に2回)しか

卵種が発射されないしさ」


トウァ「6年もかかるんだ。

じゃあ、さっき飛んでった

卵種が発生したのは、

自分が幼育院に入る前か。


卵種はさ、1つの卵樹絡釣(らんじゅからづり)

何個ついてるの?」

泡卵は卵種(らんしゅ)を単位に、

球単位三角錐(スピアユネダブルサメーションシェイプス)を成していて、

その数は121を越えそうだ。

挿絵(By みてみん)

アリシア「165個だよ。

9×10×11/6で165。

泡卵は球単位三角錐(スピアユネダブルサメーションシェイプス)の形をしてて、

1辺にある卵種の個数は9個だから」

重和(ダブルサメーション)の公式に9を代入した数か。

球単位三角錐(スピアユネダブルサメーションシェイプス)は別名に

その言葉が入ってるしな。


トウァ「165個かー。

花々絡釣(はなばなからづり)に比べたら随分、多いよね。

花々絡釣(はなばなからづり)の卵種って、

確か13個だったでしょ?」


アリシア「うん。でも、その分、

卵種が成熟するのも遅いよ。

花々絡釣(はなばなからづり)だと

卵種は6ヶ月で成熟するし」


トウァ「それもそうだね。

それで釣り合いが取れてるのか。


でもさ、栄養、足りてるのかな?

卵樹絡釣(らんじゅからづり)って常に、

泡卵をグルグル回して、

栄養をたくさん、消費してそうじゃん。


あれだけ大きな泡卵を44km/hで

周してるんだしさ」


アリシア「確かに、全く動かない

花々絡釣(はなばなからづり)とかと比べて、

86kgもある泡卵を常に

あの速さで動かす卵樹絡釣(らんじゅからづり)

花々絡釣(はなばなからづり)とかよりも次元が1つ上の

生物学的熱量(カロリー)を消費してるよ。


でも、その分、花々絡釣(はなばなからづり)とかよりも

次元が1つ上の生物学的熱量(カロリー)摂取が

できるような摂食をしてるから

大丈夫なんだよ」


トウァ「次元が1つ上の

生物学的熱量(カロリー)摂取が

できるような摂食って?」


アリシア「トウァは絡釣(からづり)と花々絡釣(はなばなからづり)

どうやって栄養を

摂取してるかは覚えてる?」


トウァ「覚えてるよ。

地面を貫く根が海水に届いてて、

海水に溶け込んだ栄養を

根から吸収してるんでしょ。


あと、根に絡まった海草とかを

溶かして吸収してるんだっけ」


アリシア「そう。

でも、それって、私達の食べ方と違って、

得られる栄養が少ないでしょ?


直接、栄養を体の中に

入れるんじゃなくて、

体に溶け込む様にして、

栄養を摂取するのってさ」


トウァ「そうだね。って事は」


アリシア「うん。

卵樹絡釣(らんじゅからづり)は川の中にいる

魚とかの水棲動物を捕食してるんだよ。

ちょっと、卵樹絡釣(らんじゅからづり)の絵を描いてみるね」

アリシアが立ち止まり、

肩掛け用紐付き袋(リュック)から釣竿を取り出して、

釣竿で地面に絵を描く。


いつもは、地面に釣竿で何かを描くと、

ガリガリと地面が削れる音がしたけど、

この地面は土で比較的、柔らかいから、

特に音はしない。


アリシアの手によって、

すいすいと卵樹絡釣(らんじゅからづり)が描かれていく。

卵樹絡釣(らんじゅからづり)の、地下、水中の部分は

見た事がないから気になるな。


1分程でアリシアが描き終わる。

挿絵(By みてみん)

トウァ「これ...吸吐君(きゅうとうくん)って何?」

「君」って愛称だよな。

生き物の部位にそんな言葉、使うのか。


アリシア「この吸吐君(きゅうとうくん)

水棲生物を捕食してるんだよ。


吸吐君(きゅうとうくん)には腕が2本あるんだけど、

その腕は2重円抽出刃形、

残月っていう形で鋭く尖ってるの。


だから、その腕で水棲生物を刺して

口に入れてるんだよ」


トウァ「へー。って事は、

卵樹絡釣(らんじゅからづり)

植物じゃなくて動物なのかな」


アリシア「うん。そうだよ」


トウァ「地上から見たら

植物っぽいけど動物だったんだ。

というか、卵樹絡釣(らんじゅからづり)

吸吐君(きゅうとうくん)が本体って感じがするよね」


アリシア「うん」


トウァ「吸吐君(きゅうとうくん)

目も付いてるけど、左右に2つかな?

それとも前後左右で4つ?」

いや、3つの線もあるか。


アリシア「左右に2つだよ。

ただ、人間の目とは付き方が違うね。

左右の耳と同じ位置関係かな」


トウァ「へー。広く見渡す為かな」


アリシア「うん。

それで吸吐君(きゅうとうくん)の目は

私達の目と違って、白目がないんだよ。


視細胞の集合体で真っ黒なの。

そういう目の事を眼点って言うんだけど、

舌丸も一足駆(イッソック)も目は眼点だよ」


トウァ「へー、そうなんだ。

確かに、舌丸の目って真っ黒だね。


眼点は人の目と

性能とか機能で違いはあるの?」


アリシア「そうだね。

人の目は彩度、明度、色相の

3つを感じれるけど、

眼点は明暗しか感知できないよ。


目は光を感じる為の器官だから、

原初の目は光が

あるかないかだけを感じて、

次に、光が何処にあって、何処にないか、

光がどれくらいあるかを

感じる様になったの。


どんな光かを示す彩度とか色相は

原始的な目からかなり発達した

目じゃないと感知しないんだよ」


トウァ「そっか。

確かに、どんな色か、

どれくら鮮やかな色かなんて情報よりも

明暗の方が重要そうだしね。


明暗だけで、白と黒の

変化範囲(グラデーション)だけで描いた絵でも、

何の絵かわかる気がするけど、

彩度とか色相だけじゃわからなそうだし」


アリシア「うん」


トウァ「そう言えば、

この絵を見た時から

疑問に思ってたんだけど、

吸吐君と吸吐器って何か関係あるの?」

絡釣(からづり)と花々絡釣(はなばなからづり)には

吸吐器(きゅうとうき)があったけど、

この卵樹絡釣(らんじゅからづり)の絵にはそれはがない。


アリシア「勿論あるよ。

吸吐君(きゅうとうくん)は吸吐器を核にして

形成された器官なの。


ちょっと、吸吐君(きゅうとうくん)の中が

どうなってるかも描いてみるね」

アリシアは再び、地面に絵を描き始める。

今更、思う。アリシアの絵は上手だ。

円や楕円が正確に描けてるから、

絵が綺麗で見易い。


トウァ「よく、

そんな綺麗に円を描けるね」

アリシアが円をスッと

描いたのを見て言う。


アリシア「んー、別に

自慢とか嫌味じゃないんだけどさー、

私からしたら、他の人達ができない理由が

わかんないんだよね。


円って単純だから描き易くない?

私は逆に、汚く、

ぐちゃぐちゃに描けないんだよ。

何かしら意味がある風にしか描けない」


トウァ「そっか。

自分が当たり前にできる事の、

できる理由なんて

わからないもんね。


声の出し方、発音の仕方なんて

説明できないし。


意味がある風にしか

描けないってのはどういう事?

単純な図形しか描けないって事?」


アリシア「それもかな。

他の線の長さと自然数の比率の長さの線、

直角を自然数で割った角度の線、

それぞれの辺の長さの比が

単純な値の多角形、

縦横、単純な比で歪んだ楕円。


そういう単純な図形しか

描けないのは確かに

そうなんだけど、直観もあるかな。


生き物の絵とかを描いてる時は、

絶対にこうじゃなきゃ

ダメっていうこだわり、

直観に従って描いてるの。

直観というより、衝動かな。

こうしたい、こうしてみたいっていう。


その直感で描いてる時だけは、

単純じゃない図形、

単純じゃない絵を描いてるんだ」


トウァ「へー、そうなんだ。

直観か。羨ましいな。

自分は直観というより

てきとうな感覚でしか

絵を描けない気がする。


半端に単純な図形と

半端な感度の直観に従った

絵しか描けない気がする」


アリシア「そんな事ないよ。

練習すれば、トウァも、

描けて嬉しいって思える絵を描けるよ」

アリシアは笑顔で言う。


トウァ「そっかー。

そう言えば、自分って、

絵を描いた事、ないんだよなー。


まぁ、大抵の騙幸(カタサ)人は

絵を描いた事がないというか、

絵を「描く」っていう

発想自体ないんだろうけど」

アリシアも今まで想像の中で

描いてたんだろうな。


アリシア「そうだね。

じゃあ、これから、1日11分くらい、

てきとうな公域で

絵を描けば良いんじゃない?


11分でも、毎日、描いてたら、

公域SLに着く頃には、

すっごく上手になってると思うよ」


トウァ「そうだね。そうしよっかな」

アリシアと話してると、いつの間にか、

アリシアは絵を描き終えてた。


自分がアリシアの絵に

視線を落とした事を

アリシアが察知したのを、

視界の端で察知する。

挿絵(By みてみん)

トウァ「へー、こうなってるんだ。

...栄養管は栄養が通ってるんだよね?

栄養を流す動力源は吸吐器(きゅうとうき)?」


アリシア「そうだよ。

栄養管は消化器にある

消化された食べ物が通って、

腕や脳に届いて、

残りは吸吐器(きゅうとうき)に行くの。


目は脳から栄養管とは別の、

細い、糸の様な管で栄養が運ばれてる。

あと、目と脳は神経でも繋がってるね」


トウァ「脳と腕も

神経で繋がってるよね?」

目で得た感覚を脳で処理し、

腕に動作を出力している筈だし。


アリシア「そうだよ。

栄養管を伝う形で、

神経が脳から腕に伸びてる」


トウァ「あ、だから、描いてないんだ。

描きずらそうだしね。


この腕にある骨は邪魔じゃないの?

骨がこんな風にあったら、

腕、動かせなくない?」


アリシア「大丈夫だよ。背骨みたいに、

関節が連続的に繋がった骨だから。」


トウァ「あぁ、なるほど。

...人の腕も同じ構造だったら、

便利そうなのにね」


アリシア「確かにそっかも。

でも、力を入れないといちいち、

グニャグニャ曲がるのは不便かもよ?」


トウァ「あー、そうだね。

背骨も、曲がれるから、

背筋と腹筋に、常に力を入れないと、

体が曲がっちゃうし。


この消化器はさ、

口と直接、繋がってるの?」


アリシア「そうだよ。

口はキツめに閉じてる穴で、

食べ物はねじ込んで入れるの」

キツめに閉じてるのは、

海水が入らない為かな。


トウァ「へー。

棘帯根(きょくたいこん)で得た栄養は

消化器を通るの?

この絵だと消化器の下は

何とも繋がってないけど」


アリシア「通らないよ。

消化器と脳、栄養管の裏に、

吸吐器(きゅうとうき)棘帯根(きょくたいこん)

繋がってる管があって、

そこを棘帯根(きょくたいこん)で得た

栄養が通ってるんだよ。

描きずらいから描かなかったけど」


トウァ「そっか。まぁ、

棘帯根(きょくたいこん)で得る栄養は

消化する必要がない物だろうし、

消化器の中に入ったら

消化の邪魔になっちゃうか」






参考画像

挿絵(By みてみん)

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