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逃走と冒険

アリシア「起きて」

アリシアが冷たい声で

そう言って、強く自分を揺さぶる。

どうしたんだろう。


いつもなら、もっと優しい声で、

もっと優しく自分を揺さぶるのに。


不安になりながら体を起こして、

アリシアを見る。

アリシア「袋の上から降りて」

アリシアは早口で言う。


トウァ「うん」

自分が袋の上から降りると

アリシアは無造作に

袋を丸めて肩掛け用紐付き袋(リュック)にしまう。


アリシア「遠くに誰かいるから、逃げるよ」


トウァ「わかった」

そういう事か。


アリシアは自分の手を

握って走り出す。


アリシアがかなり速く走る。

自分は追い駆けるのに精一杯で、

後ろに誰かいるのを確認する暇もない。


追い駆けるのに精一杯というか

アリシアより自分の方が遅くて

アリシアに引っ張られちゃってるから、

これ以上、アリシアに負担を掛けない様に

できるだけ速く走ってる、


にしても、相手との距離は

どれくらいなんだろう。

袋をしまう余裕はあったみたいだし、

相手との距離はかなりあるのかな。

相手との距離がわからないのが不安だ。


アリシア「...見つかった」


トウァ「え?」

ドキッとする。


アリシア「聞こえたの。

遠くにいる人が、私達の事、見つけて、

走り出したみたい」


トウァ「そっか」

やっぱり、アリシアは、

人並み外れた聴覚があるみたいだ。


さすが、獣耳(ケモミミ)の持ち主。


自分達を見つけれるかどうかの

距離にいる人達の話し声を聞ける

聴力はまさに、自分とは別次元だ。


...今、自分達を

大勢の愚働(グド)人や愚富(グフ)人が

追いかけてるのか。


急な展開、過ぎて、現実感がないな。


いつも通り、昼間に眠って、

25時から歩き出して、

5時にここに着いて、

ご飯を食べた後、お昼寝してたのに。


ほんと、いつも通りだった。

そのつもりだった。


...怖い。

アリシアとの日常が壊れちゃいそうで。

いや、自分とアリシアで、

この日常を守るんだ。

自分は傍観者じゃない。


後ろを向く。

あ、本当にいる。

心臓からドクっと嫌な感触がする。


追いかけている人達は大勢で、

11人は優に超えている。


距離は500mくらい離れてて、

相手が大勢じゃなかったら、

視認するのに時間がかかるくらいだ。


アリシア「ソッと忍ばれてたら、

危なかったかも。

愚富(グフ)人がうるさく喋って、

一緒にいる愚働(グド)人を

威圧してたおかげで、

相手から見られる前に

相手がいる事に気付けたけど」

アリシアは感情を込めずに

冷静な様子でそう呟く。


トウァ「そっか」

今後は寝る場所を変える

必要があるかもしれないか。


寝ている所に忍び込まれたら、

逃げる隙すら与えられず、

距離を詰められて...

殺されるかもしれない。


いや、公域よりも

寝る時に安全な場所はないか。


ふと、気付く。

アリシアはだんだん、

走る速度を落としている。


追手との距離を考えて、

自分がバテない速度に

落としているのだろう。


最初は相手が何をして来るか

わからなかったからか、

全速力で走って、

相手から遠ざかろうとしたけど、

相手は遠距離から自分達に

作用する道具を

持っていないみたいだから、

速度を落としたのかな。


アリシア「辛かったら、言ってね。

速度、落とすか、私が引っ張るから」


トウァ「うん。

この速度なら22分くらい

走っても平気だと思う」


アリシア「わかった」


少し落ち着いてきた。

アリシアに「見つかった」って

言われた時はびっくりしたし、

捕まるんじゃないかって

怖くなったけど、

追手は走るのが遅くて、

自分達に追いつきそうにない。


愚働(グド)人と愚富(グフ)人って、

案外、遅いんだな。


愚富(グフ)人は体が大き過ぎて、

走るのが遅くて、

愚働(グド)人は体が細過ぎて、

走る筋力がないみたいだ。


このまま、走っていれば、

じきに相手が疲れて、諦めるだろう。



~アリシア「もう、大丈夫だと思う」

アリシアが後ろの遠くを見て言う。


アリシアに起こされてから、

11分くらい走って、

追手は自分達を追うのをやめた。


トウァ「良かった。無事で」


アリシア「うん。


そう言えば、愚働(グド)人達は走って、

私達を追いかけるだけだったね。

私達が知らない道具を

使ったりするのかと思ったけど、

走って捕まえる以外の方法は

持ってないのかな。

だったら、安心なんだけど」


トウァ「そうだね。

走る速度なら自分達の方が

速いみたいだし、

愚働(グド)人達が近くに来た時、

すぐに気付ければ大丈夫だと思う。

やっぱり、寝る時に

こっそりと近づかれるのが怖いかな」


アリシア「うん。

でも、愚働(グド)人達が

今日よりも、近付いてから、

逃げ出しても大丈夫だったと思うよ。


どんなに愚働(グド)人達が

音を殺して私達に近付いても

私から242mの範囲に入ったら、

すぐに気付けるし、

そこからでも、トウァを起こして

逃げる時間はあると思う」


トウァ「そっか。

なら、大丈夫だね。


...本当に、愚働(グド)人達は

自分達の事を追ってるんだね。


旅に出てから今まで、

自分達の事、探してる人とか、

追いかけてくる人は

見た事、なかったから、

愚働(グド)人達は自分達の事、

忘れてくれてるんじゃないかって、

ちょっと期待して、油断してた」

そう簡単にはいかないか。


アリシア「うん。私もそうだよ。

でも、2人なら、なんだかんだで、

どんな事も乗り越えられるって、

信じてるんだ」


トウァ「この空って、

何処まで続いてるんだろうね」

2人、寝転びながら言う。


アリシア「そうだね。

ずっと見つめてたら、吸い込まれそう」


トウァ「案外、そんな奥まで、

続いてないのかも。

真っ暗でよく見えてないだけでさ」

空は闇だ。見てたら、

落ちてっちゃいそうな闇。

穴の様な闇。


いや、輪郭がないから、

穴とはまた別か。

それを言い表す言葉はなさそうだ。

強いて言い表すなら無か。


アリシアの手を握る。

落ちても離れ離れにならない様に。


アリシア「こうやって、

空を見ながら、寝っ転がってたらさ、

どっちが上で、どっちが下だか、

わかんなくなっちゃいそうだよね。


この地面が世界の天井で

あの空の向こうに地面があって、

ヒューって落ちてっちゃいそう」


トウァ「...ちょっと、怖くなってきた」

仰向けでいるアリシアの胸に顔を埋める。

アリシアを枕にして横を向く。

頬っぺたに柔らかい感触がして幸せだ。


トウァ「へへ...おっぱい」

アリシアが無言で自分の頭を、

髪を梳く様に撫でる。


アリシア「やっぱり、立体放射器(シャワー)

浴びてないと、髪がゴワゴワしちゃうね。

髪を梳こうとしたら、引っかかっちゃう」


トウァ「そっかー。

そう言えば、川で体、

洗うって言ったけど、忘れてた。

明日の朝にでも洗おっかな」


アリシア「そうしよっか」


目を瞑ってアリシアになでなでされてると、

アリシアの声が澄んで(クリアに)聞こえる。

アリシアの声がいつもより、

細かく感じ取れる。


アリシアの声は可愛い。

そして、綺麗だ。

いや、優しくもあるな。


...いや、アリシアの声はアリシアの声だ。

アリシアの声は可愛いから良いんじゃない、

アリシアの声は綺麗だから良いんじゃない、

アリシアの声だから良いんだ。


ただ、アリシアが好きなんだ。

アリシア自体が好きなんだ。


アリシアの声をもっと聴きたくなって、

アリシアに話しかける。


トウァ「ねぇ、アリシア」


アリシア「なに?」


トウァ「声、聴きたい」

話が聞きたいというより、

声が聴きたい。


アリシア「えぇ、そう言われてもさー、

なに、喋ればいいのか、わかんないよ。

なんか、話題ちょうだいよ」

それもそっか。


トウァ「...あの川ってさー、

何処まで続いてるんだろうね。

川の...終わってる部分も

始まってる部分も見た事ないよね


流れてる方向に向かって行けば、

川の終わりが見えて、

その逆方向に向かって行けば、

川の始まりが見れるのかな」


アリシア「そうだね。

流れてるって事は、始まりは高い場所で、

終わりは低い場所なんだろうけど」


トウァ「川の始まりを遡れば遡る程、

高い場所になってくなら、

川の始まりは、あの空の向こうかもね」

向こうなんてあるのか知らないけれど。


アリシア「そうかもね。行ってみたいね。

2人であの空の向こう、川の始まりに」


トウァ「アリシアとなら、

きっと、何処へだった行けるよ」


アリシア「うん」


トウァ「...川の底も気になるよね。

あの川の下はどうなってるんだろ」


アリシア「地上からじゃ見えないから、

きっと、すごく深い所に底が

あるんだろうね」


トウァ「...水の中で息ができて、

手で持てる照明があったら、

川の中も冒険できるのにね」


アリシア「うん」


トウァ「...あの空の向こうに何かがあって、

その何かの向こうにも、何かがあって...

ずっと続いてたら、

そこを冒険出来たら...楽しそうだよね」

ウトウトしてきた。

思った事をぼんやりと口にする。

自分でも何を言ってるか

よくわかってない。


アリシア「そうだね。

ずっと、遠くまで2人で冒険したいね」

アリシアは天使だ。

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