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リサラとアリシア4 幼育院2

幼育院の広場下階。

アリシアの部屋に通ずる床の扉を開ける。


左手で、夕食を乗せた盆を持って、

そーっと梯子を降りる。

幸い、梯子は階段の様に角度が緩やかで、

頑張れば手を使わなくても

降りれそうなくらいだ。


梯子を降り、寝床(ベッド)に降りて、

寝床(ベッド)の隣にある(テーブル)に盆を乗せる。


アリシア「リサラ!」

盆を持っているのを見て、

話しかけずに黙ってたアリシアが

嬉しそうな声で言って、私に抱き着く。

アリシアは甘えん坊だ。


アリシアは嬉しそうに

私の胸に顔を擦りつけ、

私はそんなアリシアの頭を撫でる。

アリシアはこの時間が好きだ。

アリシアの1番の特徴の黒い獣耳(ケモミミ)

頭を撫でる度に少し揺れる。


アリシアの頭を撫でる

ゆったりとした時間だ。

アリシアは目を瞑って

心地よさそうにする。

アリシアはよくこのまま寝るのだ。


私も眠くなってくる。

今は10時半。昨日は25時に

アリシアの個室を出て家に帰った。

乳幼院の最後の仕事は裏の時間で

幼育院の最初の仕事は表の時間だから

ろくに寝られてない。

一応、昨日の仕事は早く終わったけど。


ゆったりとした時間が1分程,続いた頃、

アリシアが目と口を開く。


アリシア「リサラ、退屈だよ、ここ。

リサラはいないし、リトラもいないし...」

アリシアは私の太ももに頭を乗っけて、

仰向けになりながら、私の目を見る。

水色(パステルブルー)翠色(パステルグリーン)の中間の色を

した光彩を持つ目で。


リサラ「ごめんね。

傍にいれない時間があって。

でも、4時に別の職員が来たでしょ?」

4時は朝食の時間で職員が

料理を個室に運ぶ。

個室から出られないアリシアの為に

その職員が30分くらい

アリシアの遊びに付き合った筈だ。


アリシア「リサラがいいんだよ...」

アリシアは小さい声で言う。


そう、アリシアは私が好きだ。

他の職員にはあまり甘えない。

他の職員に心を閉ざしてるだとか

他の職員と会話をしない訳ではない。

ただ、他の職員に対しては

礼儀正しくて、真面目で、

気を抜いてない様な態度になる。


アリシアは他の子供や

他の職員の前では

偉い子,しっかり者であろうとして、

頼ったり甘えたりしない。



...私は元々、乳幼院をアリシアが出たら、

それで別れる事になる筈だった。

私は幼育院で働き始めるつもりはなかった。


でも、アリシアが私と別れるのを

嫌がって、泣きじゃくって、

だから、私は幼育院で働いて、

アリシアを育て続ける事にした。


乳幼院長を通して管轄者に、

アリシアの健全な育成の為、

混成(ハーフ)としての特性を配慮してと、

要望しそれが通って、

私は幼育院の職員に異動となった。


アリシアみたいな子は珍しいと

裏の乳幼院長は言っていた。

騙幸人の場合、表の職員と裏の職員で、

片方だけに強い愛着を示す事は少なく、

示したとしても、

別れる事をさほど嫌がらないそうだ。


アリシアは他の子よりも少し甘えん坊だ。

獣耳(ケモミミ)を持つ人類種の特性かもしれない。


アリシア「ご飯,食べる」

アリシアが私から離れて、

(テーブル)に置いたご飯を食べる。

挿絵(By みてみん)

焼いた死生物と茹でた彩菌塊の塩漬けだ。


アリシアはご飯を箸でモグモグ食べる。

箸は初めて使わしたその日の

うちに使える様になった。


幼育院では4~8歳の子供は1日3食、

9~10歳の子は1日2食だ。


理由は、小さな動物は時に

1日の絶食ですら餓死する様に

小さい子供は大人よりも頻繁に

ご飯を食べる必要があるからだ。


アリシア「ねぇ、リサラ、

次はいつ来れるの?」

アリシアは気が早い事を言う。

まだしばらくここにいるのに。


私「17時にまた来るよ。

毎日、10時半と17時に来る」


アリシア「そっか。ずっとは居れないの?」


私「うん」

乳幼院では毎日12時間半、

一緒に過ごしてきた。

それと比べると、幼育院でアリシアと

一緒に居れる時間は少ない。


私は幼育院職員だから、

私には幼育院での仕事がある。

そっちの仕事が(メイン)でアリシアとの時間は

特別,許された時間。そう長い時間、

他の人に仕事を任せる訳にはいかない。


ただでさえ、幼育院は職員が少なく、

たくさんの子供に腕を引っ張られ、

取り合いの様になる。


310人の子供を

14人で見るという体制は

無理がある様に思うけど

何十年も前から変わっていないらしい。


学校に上がるまでに子供1人1人に

文字を教えなきゃいけないけど、

子供1人に対応して

いられる時間は少なくて、

いつも10人程の集団遊びに混じって

子供を管理する事が多い。



アリシア「食べた」

アリシアが横になる。


私「なにか絵本とか持って来る?」


アリシア「ん-ん」

アリシアは首を横に振る。


アリシア「お喋りしたい。

私ね、ずっと想像してたんだよ。

想像の世界で外を歩いて、

川の中に入って、ぼんやりしてた。

川の中でフワフワ漂って、

上も下もわからなくなってた」


私「そうなんだ。

アリシアは想像力が強いんだね」

子供はよく不思議な事を言う。


アリシア「想像の世界は夢の中みたいでさ、

ずっといたら、深くそこにいたら、

こっちの体が動かなくなって、

そして、しばらくしたら起きるの。

想像の世界がいつの間にか

夢になってたんだよ」


私「...そうなんだ。不思議だね」

私達は愚働人で、今まで乳幼院でしか、

乳児や幼児の騙幸人にしか

接してこなかったからわからないけど、

これは騙幸人の性質なんだろうか?

騙幸人は私達より知能が高く、

感情豊かでその脳は私達より高性能だ。


だから、私達にはできない

その高度な想像を

騙幸人はできるんだろうか?


それとも、アリシアの、

獣耳(ケモミミ)を持つ人類種の特性だろうか?


アリシア「リサラ、外には何があるの?」


私「学校があって、家や庭があって、

あと公域があるね」


アリシア「公域?公域って?」


私「色んな生物(いきもの)がいる場所だよ」


アリシア「何がいるの?」


リサラ「んー、

口で説明するのは難しいかな。

今度、公域にいる生物(いきもの)の図鑑、

持って来るから、その時に教えてあげるね」


アリシア「ありがと!」

多分、広場の何処かに図鑑があるだろう。


私「他に欲しい物はある?

次,来る時に持って来れるけど」


アリシア「んー、絵本と玩具(おもちゃ)が欲しい。

1人で遊んでても暇しないの。

絵本はたくさん欲しい。

すぐに読んじゃうから」


私「わかった」

1人で遊べる玩具(おもちゃ)と言えば、

分割絵画復元(パズル)だろうか。

アリシアは頭が良いし、

1人の時間が長いから

難しい分割絵画復元(パズル)を持って行こう。


アリシア「...リサラ」


私「ん、なに?」


アリシア「みんなとは遊べないの?

上でみんな遊んでるみたいだけど」

アリシアは真顔で私の目を見つめる。


私「...うん。ごめんね」

この上は広場。

子供達が遊ぶ声が聞こえて、

それが羨ましく感じる事は

容易に想像できる。


アリシア「なんで、私だけみんなと

一緒に遊べないの?」


私「......ごめんね。

私にもわからないんだ」


アリシア「...そっか」

アリシアは真顔でそう言う。

落ち込んでる訳でも

寂しそうにしてる訳でもなく真顔で。


アリシア「リサラは

いなくならないんだよね?」

無表情だったアリシアの表情が

不安げになる。


私「そうだよ。私は毎日,会いに来るから」

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