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9.騙された

『高田』


「ど、どういうこと・・・?」


真理はパチパチと瞬きしながら呟いた。


「何やってるの? 真理。早くいらっしゃい」


門を跨いでのけ反るように外を見て固まっている真理に、母は澄ました様子で声を掛けた。


「・・・ママ・・・、ここってレストランだよね・・・?」


真理は恐る恐る母親に尋ねた。

母親はニッコリと微笑み真理を見たままだ。

真理は前を向いたまま一歩後ずさりした。さらにもう一歩・・・。


「真理!」


ジリジリと後ずさりする真理を見て、母は声を強めた。

その口調で、真理の中に浮かんだ疑問は確信に変わった。


(騙された!)


真理はくるっと向きを変えると、一目散に駆けだした。

いや、駆け出そうとした。


だが、振り向いたすぐ目の前に大きな影が立ちはだかった。

真理は勢いが止まらず、その影にぶつかってしまった。


「・・・ったあ・・・」


真理は鼻の頭を押さえてよろめいた。


「大丈夫かな? お嬢さん」


大きな影から声がすると、優しく真理の両肩を掴んで支えてくれた。


「す、すいません!」


真理は慌てて謝って顔を上げると、そこには長身のナイスミドルな紳士が立っていた。


「まあ! 申し訳ありません! 高田さん!」


母親が駆け寄ってくると、真理を引き寄せ、頭を押さえてお辞儀をさせた。


「もうもう! 真理ったら何をやっているのよ! 本当に申し訳ございません」


母親は真理の頭を押さえつけたまま、自らも頭を下げた。


「いやいや! 奥さん。えっと、君が真理ちゃんね。こちらこそ、すまなかったね。大丈夫だったかな?」


紳士は優しく真理と母を気遣ってくれた。

そこに父も駆け寄ってきた。


「高田さん、申し訳ない。娘が・・・」


「中井さん。ようこそお越しくださいました! お待ちしておりましたよ!! こちらこそ、すいません、こんなところで。ちょっと外に出ていたもので。さあさ、中へどうぞ!」


高田と呼ばれた紳士が、父と母を先導するように家の玄関に向かう。

真理は母にしっかりと手首を掴まれ、引きずられるように連れて行かれた。





案内された部屋では、真理を除き、真理の父母と高田夫婦と四人がやたらと盛り上がって話をしていた。


おそらく、本日の主役であろう真理は蚊帳の外だ。

まるで、ファミレスなどで自分とは関係のない中年グループのおしゃべりを隣のテーブルで聞いているかのようだ。


(何なの? この状況・・・)


真理は緊張しながら、ただただ4人を眺めていた。

緊張を解そうと、目の前に差し出された麦茶をストローでチューっと啜っていた時、


「失礼します」


という言葉と共に、スーッと襖が開いた。


「やっと来たわね、翔。早くこちらにいらっしゃい」


高田の奥様が立ち上がると、襖の方へ歩いて行った。

そこに立っていたのは・・・。


(うげ・・・、高田翔・・・)


真理は口に含んだ麦茶がデローっと零れそうになり、慌てて手で口を押えた。


ここは高田の家だ。

頭の隅で、いつ奴が出てくるかと案じてはいたものの、不意を突かれた。


真理はハンカチを取り出そうとバッグを漁っているうちに、高田は礼儀正しく中井夫婦に挨拶を済ませ、素直に席に座った。真理の目の前に。


(なにも前に座らなくたっていいのに! ってか、ここしか席ないか・・・)


真理はハンカチを口に当てながら、上目遣いで高田を見た。

だが、高田はこちらを見ようともしない。

二人の両親の話の聞いているかのように、4人の方を見ている。


だが、その横顔に苛立ちがこもっていることは容易に見て取れる。


(そんなに嫌だったら、あんたが何とかすりゃーいいじゃん! っつーか、何とかしてよ!)


真理にも苛立ちが伝染し、キーっとハンカチを銜えて、高田を睨みつけた。


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