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8.お出かけ

土曜日の朝。

真理は、まだまだ眠りを貪っていたかったのに、母親に叩き起こされた。


今日は誰とも約束もしていないので、昼まで寝ているつもりだった真理は、不機嫌な顔で朝ご飯を食べていた。

ただでさえ昨日は怒りのあまり、なかなか寝付けなかったので眠くて仕方がない。


父は既に朝食を済ませており、向かいの席で新聞を読んでいる。

だが、どこか落ち着かない様子だ。

真理はトーストを食べながら、寝ぼけた目でボーッと父親を見つめていると、ある違和感に気付いた。


「パパ・・・。新聞が逆さだけど・・・」


父親はビクッと肩を揺らすと、


「え? あ、あれ? 本当だ! パパもまだ寝ぼけてるな~! ははは!!」


不自然に大声で笑いながらワタワタと新聞をひっくり返した。


「???」


父親の慌てぶりに首を傾げたが、あまり気にせずに、テレビのリモコンを手に取ると、チャンネルをコロコロと変え始めた。


「パパ。新聞読み終わったら番組表だけちょうだい。この時間何やってるっけ?」


「ば、番組表な!」


父はガサガサと番組表だけ取り除こうとするが、何故か手元がおぼつかない。


「・・・どうしたの? パパ?」


あまりにも動揺している父の態度を不思議に思い、そう尋ねた時、


「真理! いつまでモタモタ朝食食べているの?! 早く終えて支度して!」


母親がダイニングに飛び込んできた。


「支度って?」


「お出かけするのよ。早く!」


「どこに?」


母親は返事をしないうちに、またダイニングから出て行ってしまった。

真理は仕方なく父の方を振り向いた。


「・・・あれ? パパ?」


父の姿は無い。


「???」


真理は不思議に思いながらも、残りのトーストをオレンジジュースで流し込み、急いで洗顔と歯を磨きに洗面所に向かった。


真理が部屋に戻ると、母親が真理の衣装ダンスから勝手に幾つかの洋服を引っ張り出しているところだった。


「ちょ、ちょっと! ママっ! 何してんのよ! 勝手に!!」


「真理。そこに幾つか出したけど、どれがいい?」


母親は真理の抗議を無視して、ベッドの上に並べられた洋服を指差した。

ワンピースとブラウスとスカートの組み合わせが数組。いずれも清楚系だ。


「どれって! 何、勝手に広げてんのって聞いてんの!」


「だって、あなたに任せて変なギャルっぽい恰好されても困るのよ。さっさと決めて」


「だから、何でよ?!」


「えっと・・・。お食事に行くのよ。高級店なの」


「・・・なんだ。最初っからそれを言ってよ。だったら、ちゃんと選ぶわよ、私だって」


真理は、はあ~~と大きく溜息をつくと、母親の背中を押してドアの方へ押しやった。


「ちゃんとした服を選ぶから、ママは出て行って! 今度から人のタンス勝手に開けないでよ!」


「なによ、変な物でも入ってたの? ママに何か隠してるの?」


「違いますー! そう言う問題じゃない! プライバシーの問題ですー!」


真理は母を部屋から追い出すと、反抗心から、並べられていた洋服をすべてしまい、改めて自分で選び始めた。


すべての身支度を終えてリビングに行くと、父と母も既に用意万端で真理を今か今かと待っていた。


「あら、いいんじゃない? 可愛いわよ、真理」


母親は真理に近寄ると、娘を頭からつま先までチェックをするように見て、満足げに微笑んだ。

どうやら及第点のようだ。


「さあさあ、行きましょ!」


母はパンパンと軽く手を叩くと、まだどことなく緊張気味の父と真理を外に連れ出した。





父の運転でやって来たのは、和風の大きな邸宅だった。

真理は車を降りると、その家を見上げた。


「住宅街の中にある一軒家レストラン・・・ってやつ? いや、割烹料亭?」


そう言って両親を振り返った。

母は笑っているが、父は目を逸らす。


「・・・?」


真理は眉をひそめた。

さっきから父の様子がどうもおかしい。


しかし、二人はそんな真理を尻目に、さっさと門に向かう。

それは既に開け放たれており、まるで中井家族を待っていたかのようだ。


(本当に普通のお宅みたい・・・)


真理は両親の後に続いて門をくぐった。

だが、その時、あるものが目に入った。


表札だ。


「え゛・・・?」


今、何を見た? なんて書いてあった?


真理は、前を向いた状態で、一歩、二歩とバックした。

そして門を跨き、背中を反らせるように塀に掲げてある立派な表札を覗いた。


『高田』


真理はそのままの体勢でカチーンと固まった。


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