53.勝算
「高田君・・・。高田翔。あの特進科の王子様・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・?」
「・・・」
「・・・」
「・・・えっと? あれ? 二人とも・・・大丈夫?」
真理は黙ったまま固まっている二人の、それぞれの顔の前でヒラヒラと手を振った。
梨沙子はアイスコーヒーのグラスを落としそうになってやっと我に返り、奈菜も真理に頭をポンポンと触られ、正気に戻った。
「はあああ?」
「ええええ!」
「ちょっと! ユニゾンで叫ぶの止めて!」
真理はシーッと人差し指を唇に当てた。
「何言ってんの? 真理? 寝ぼけてる? 正気? 頭打った?」
「な、な、何で、そこで王子様の名前が出てくるの?」
二人ともテーブルを超えんばかりに前のめりになり、真理に迫った。
「た、確か、あの王子様って川田君と同じクラスよね? 川田君を追っているうちに、王子様に目移りしちゃったの?」
奈菜は目をパチパチさせている。
「目移りって・・・、そういう訳じゃ・・・」
「だって、接点ないじゃないっ! あんな人と!」
「・・・いや、その・・・、そのね・・・」
奈菜は相変わらず興奮状態で目を丸めたままだが、煮え切らない態度の真理に、梨沙子は目を細めた。
「ふーん、接点あったのね? どんな?」
梨沙子は腕を組んで真理を見据えた。
「え? え? 接点あったの? なんで? どして?」
奈菜は梨沙子と真理を交互にキョロキョロ見ている。
「実は・・・、なんか、親同士が知り合いだったの・・・」
「え~~! そうなの?!」
「それがどうしたのよ?」
驚く奈菜とは対照的に、梨沙子は冷静だ。相変わらず目を細めてじっと真理を見ている。
「えっと、だから、親を通して知り合いになったって言うか・・・。『えー、同じ学校なんて偶然ね~。うちの子と仲良くしてね~』みたいな・・・?」
真理はタジタジになりながら、説明した。
強ち嘘ではない。しかし、全てを白状できていないことに、背中に嫌な汗が流れる。
とはいえ、どこまで本当のことを言っていいもなのか判断が付かない。
「そうなんだぁ! それでお友達になったのね? 仲良くなって好きになっちゃったんだ!」
簡単に納得してくれる奈菜とは違い、梨沙子は鋭い目を向けてくる。
「ふーん、学校では仲良くしている素振りは無かったわよね? 全然」
「えっと・・・、それは・・・」
「あれだけ夢中だった川田君から乗り換えるほどなら、それなりに親しくなっていないとおかしいし、それこそ奈菜の言う通り、すでにお友達になっていないと変よね? 一目惚れじゃないなら」
「う・・・、えっと・・・」
「その割には学校で全然接点ないようだし。学校以外で親しくしていたって事?」
「!」
「同じ予備校に通い始めたとか!? それで成績も上がったの? 真理ちゃん?」
思い付いたように奈菜はパンっと手を叩いた。
「行ってないわよね? 予備校なんて」
梨沙子は真理を軽く睨みつけた。
「はい・・・」
「ふーん。とにかく、学校の外で親しくしてたのね。私たちの知らないところで」
「え、えっと・・・」
「別に、親しくすることを責めてはいないわよ。ただ、ひた隠しにしていたっていうのが気に入らないわ。今まで一言も高田翔のことを真理から聞いたことないし。その間、こっちはずっと川田君の事を応援していたのに、バカみたいじゃない」
「ご、ごめんなさい・・・。相手が相手だけに・・・」
梨沙子の剣幕に、真理は俯いてゴニョゴニョ言い訳をした。
「ま、ね。確かに」
梨沙子は組んでいた腕を解き、アイスコーヒーのグラスを取った。
ストローで乱暴にかき混ぜると、ズズーッと一気に飲み干した。
「それに、好きになるつもり無かったから・・・」
真理は変わらず俯きながら、イジイジと答えた。
「そうなの? 真理ちゃん?」
「だって・・・、川田君の事、本当に好きだったし・・・」
「そうだったのね! そうよね、そうなのよね! ままならぬのが恋なのよね!」
ウジウジしている真理を目の前にして、奈菜は組んだ両手を頬に添え、大好きな恋バナに大興奮している。
梨沙子は、そんな奈菜を呆れたように一瞥すると、真理を見据えた。
「で? もう付き合ってるの?」
「はい?」
「え!? うそ!? もう付き合ってるの? 真理ちゃん?」
「いやいやいや!! ぜーんぜん!」
真理は慌てて顔を上げ、首と手を逆方向にブンブンと振った。
「何よ、また片思いって事?」
「またで悪かったですねっ!」
「あ?」
「すいません・・・。はい、片思いです・・・」
またまた梨沙子の剣幕に負け、真理は俯いた。
「ふーん。で、勝算はあるの?」
「硝酸・・・?」
「勝算! あの高田翔を落とせる勝算はあるのかって聞いてるのよ!」
「う・・・」
真理は答えに詰まった。
勝算・・・。
そんなものあるだろうか・・・?




