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23.同情

「都ちゃんって、高田君と知り合いだったのね・・・」


真理は思い切って都に尋ねてみた。


「うん。真理ちゃんも知ってるの? 高田君」


「え? あ、いや・・・。だって、ほら、有名じゃない? 高田君って。特進科の上に、いっつも成績トップで、見た感じも格好良いから、王子様的な存在で・・・」


「ふーん、そうだったの? 都は、高田君は和人君と同じクラスの委員長さんって事しか知らなかったわ」


「津田君のクラスの委員長さん・・・」


「そうよ! 高田君、和人君と同じクラスなの!」


都はにっこりと微笑んだ。


「前はよく高田君も図書室に来てたのよね。都の隣の席で、一人で勉強していたわ。その時に、たまにお喋りしてたのよ」


「・・・」


「最近全然来ないけど。でも、元気そうで良かったわ」


「・・・ふーん、そうなんだ・・・」


この様子では、都は気が付いていないのだろう。自分が高田に好意を持たれていることは。

真理が改めて高田を気の毒に思っていると、


「あ! そうそう、真理ちゃん! 今、高田君がいつも成績トップって言ったけど、和人君だって1番だったこともあるからね!」


「そ、そうなの?」


「そうよ! 和人君だってすごいんだから! いつも3番以内に入ってるもん!」


都はフフンっと自慢げに鼻を鳴らした。


「う、うん! そうね! あはは・・・」


真理は笑ってその場を誤魔化しながら、都と並んで図書室に向かった。





図書室に来た時には、既に遅かったようだ。

部屋の隅々まで探したが、川田の姿は無かった。

真理は肩を落とし、図書室を後にした。


帰りの道中、ふと先ほどの高田の顔を思い出した。


(嫌だな~、帰るの気まず~~)


まさか高田の想い人が都だったとは・・・。


つまり、

真理 → 川田 → 花沢楓 → 高田 → 都 ⇄ 津田


となるわけだ。


先日、真理が都の名前を出した途端、高田が黙り込んだ理由がやっと理解できた。


「まあ、都ちゃんが相手じゃ、花沢楓がフラれるのは分かるわね・・・」


真理は思わず呟いた。

だが、都の様子を見る限り、高田は都に自分の気持ちを打ち明けてはいないようだ。


(まあ、言えるわけないよね~。人の彼女に・・・。特に、都ちゃんみたいに、津田君しか見えてない子になんて)


別の人に「もしかして」好意を寄せているかもと思うだけでも、その人に想いを伝えるのをこんなにも苦心するのだ。

あれほど「明らかに」別の人(津田)に好意を寄せている人《都》に告白できるわけがない。


(哀れ・・・、高田君・・・)


自分よりも数倍不利な、というより、既に終わっている高田に同情が止まらない。


そんな思いの中、高田家に帰宅し、自分の部屋に戻ろうした時、またもや階段で高田と鉢合わせた。

真理は思わず高田を哀憫を込めた眼差しでじっと見つめてしまった。


「・・・」


「・・・ちょっと、イラってくるんだけど。そんな目で見るの止めてくれる?」


二階から下りてこようとする高田は腹立たし気に真理を見た。


「え・・・、あ・・・、ご、ごめんなさい・・・」


真理は目を伏せた。

今日の現場は偶然に居合わせてしまっただけだ。

なのに、何故かとても罪悪感を覚えた。人の秘密を知ってしまったような・・・。

あまりにも同情し過ぎて生まれた感情だろうか?


「・・・なんか素直に謝られると、もっと苛つくんだけど」


「は? じゃあ、どうしろってのよ?!」」


真理は思わず顔を上げて、言い返した。


「・・・そうやって威勢よく言い返してくれる方がいいよ」


高田は溜息を付きながら下りてきた。

真理は踊り場で、高田のために出来るだけ端に避け、スペースを空けた。そして、


「あの、でも、ごめんね・・・」


すれ違う時に小声で謝った。


「・・・だから、同情されるのは逆に腹立つんだけど・・・」


高田はジロリと真理を睨んだ。


「いや・・・、その、違くって・・・」


「何・・・?」


「簡単に、好きな人がいたら協力するなんて言って・・・」


「・・・」


「流石に、相手が都ちゃんじゃ、協力できないわ・・」


真理は俯いたまま、呟くように言った。

高田はまた大きく溜息を付くと、


「別に、今更、都ちゃんとどうこうなりたいとは思ってない。それこそ、流石に諦めたよ」


「・・・そうか・・・」


「だから、中井さんが変に気を回す必要は無いから。俺の事は放っておいてくれる? 今まで通り」


「・・・」


「俺も中井さんに干渉しないから」


「・・・うん」


「そして、もちろん、川田君についても協力しない」


「う・・・、ですよね・・・」


「当然。じゃ」


そう言うと高田は一階に下りて行った。

真理はそんな高田を見送ると、大きく溜息を付いた。


これにより完全に交渉決裂。協力要請不可能となったわけだ。


それでも、真理はそれでいいと思った。

もともと、高田には金輪際近づかないようにしようと思っていたのだ。


だが、こんなに完璧な王子でも片思いをするのかと、同情の中から小さな親近感が生まれた。

まあ、近づかないと決めた相手に親近感を抱いたところで、まったくの無用の長物なのだが・・・。


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