表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/66

19.ミッション2

真理から弁当を託された津田は困惑したまま、立ち尽くしていた。


でも、頼まれたからには仕方がない。

しっかり任務をこなさなければならない。


大きく溜息を付きながら、重い足取りで廊下を歩いていると、川田に声を掛けられた。


「どうしたの? 津田っち。溜息デカいけど」


「ああ、川田君・・・」


津田はちょっと情けない顔をして川田を見た。


「実は、知り合いに頼まれごとされちゃって・・・」


「頼まれごと?」


「うん」


津田は巾着袋を川田に見せた。


「高田君に渡して欲しいって、お弁当」


「へえ・・・」


津田は真理の意向を汲んで、名前を伏せた。

別に川田に話したところで真理の名前は漏れないだろうが、あれほど警戒しているのだから、黙っていることに越したことはないだろう。


だが・・・。

津田はまた溜息を付いた。


なぜなら、津田と高田は折り合いが悪いのだ。

陽キャラでイケメンで学級委員長でクラスの、いや、学年の人気者の高田に対し、陰キャラでコミュ障でチビでデブの津田とは交わる点がない。


交流が無いのに、なぜか折り合いが悪い。

どこかお互いライバル視しているところがチラリと伺えるのだ。


川田はそんな二人の間に流れている不穏な空気を知っている。

理由は分からないが、たかだか弁当を渡すことさえ躊躇するようなほど、二人の間には何かがあるのだろう。


川田は津田を気の毒に思った。


「渡すだけだろ? なら、俺が高田君に渡してやるよ。誰から?」


「え・・・、いいの?」


「うん。誰からって言った方がいいだろ?」


「あ、それは多分、渡すだけで分かると思う」


「ふーん、手紙でも入ってるのかな?」


川田はそんなことを言いながら、津田から巾着を受け取ると、さっさと高田のもとに向かった。


「ありがとう、川田君」


津田はホッとしたように、川田の背中に向かって礼を言った。





「高田君、これ、預かりもの」


高田は自分の机に弁当の入ったブルーデニムの巾着を置かれ、驚いて川田を見た。


「え? これ・・・」


「お弁当だろ? 手作りだね。さすが高田君!」


川田は少しお道化て笑って見せた。


このちょっとした冷やかしの笑い。

どうやら、母親が学校まで乗り込んで、適当な生徒—―川田—―を捕まえて、託したというわけでは無さそうだ。


となると、持ってきた人物は唯一人・・・。


「ありがとう、川田君」


高田は川田に合わせて、ちょっと首を竦めて笑って見せた。


「モテるって羨ましいよ!」


川田は笑って自分の席に戻っていった。

高田は笑いながらそれを見送ると、少し乱暴に弁当を机の中にしまった。


(何考えてんだ? あいつ。バカなのかな・・・?)


片思いの相手に弁当託すって、愚行極まり無いと思うのに・・・。


(まあ、俺の知ったことじゃないけど・・・)





ミッションを終えた真理は、気楽な気持ちでランチタイムを迎えていた。


食堂で奈菜と梨沙子が本日の定食を持ってくるのを、先にテーブルで待っていた。

目の前に置かれている弁当箱は、きっと真理のためにわざわざ用意してくれたのだろう。

ココット風のお弁当箱。色もピンクで何とも可愛らしい。


「珍しいわね、真理がお弁当なんて」


「ホント~、いいなあ、お弁当」


「えへへ~~」


真理は嬉しそうに二人を迎えた。

二人が席に着くと、いざオープン!っとばかりに蓋を開けた。


「きゃあ~! 可愛い~~!!」


三人とも真理のお弁当箱を覗いて、歓声を上げた。


「すごいじゃない!」

「なにこれ~! キャラ弁? かわいい~!」

「ちょっと、写メ、写メ!」


赤に緑に黄色と色は鮮やかで美しいのはもちろんのこと、おにぎりは海苔と田附などで可愛らしく顔が描かれている。

当然、ウインナーはタコさん。胡麻のつぶらな瞳とチーズの口まである!


「えー! すごーい! これ、真理ちゃんのお母さんが作ったの?」


「え・・・」


真理は興奮状態が一気に冷めた。


そうだ・・・。

誰が作ったかは間違っても言えないので、自分の母親という事にしておいたのだ。

それが、まさかのこのクオリティ。

自分の母親では絶対にあり得ない。


これを母親作として世に公表していいのだろうか?

母親の手柄にしていいものなのか?

いやいや、さすがにそれはイカンだろう・・・。


とは言っても、とても正直に打ち明けることはできない。


(ご、ごめんなさい・・・。おば様・・・)


真理は急激に激しい罪悪感に襲われたが、無理やり平静を装って、お弁当を食べ始めた。


「美味しい!」


一口、口にすると、見た目の美しさを裏切らない美味しさに、罪悪感は吹き飛び、夢中になって食べ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ