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16.彼女にするなら

突然のことに一瞬何が起こったか分からなかったが、気が付くと高田の顔が間近に迫っていた。


(ち、近っ・・・!)


所謂、壁ドンという状況下に置かれ、不覚にも真理の心臓がドキッと音を立てた。


しかし、よく見ると、その形相は怒りに満ちている。

改めて高田の怒りに触れ、真理は青くなった。


「何考えてんだよ? あんた」


「えっと・・・、その・・・」


先ほどの勢いはどこへやら。急にしどろもどろにり、目を泳がせた。


「あんたのおふざけに付き合ってる暇ないんだけど」


ギロリと睨みつける高田に、真理は縮み上がった。

だが、ここで怯んではいられない。せっかく部屋まで来たことが水の泡になっても困る。

真理は勇気を振り絞って高田をチロっと見上げた。


「そ、その・・・、高田君って、好きな人いるの?」


「は?」


「そのですね・・・。ちょっと、小耳に挟みまして・・・」


「・・・」


「いるのであれば、ワタクシ、協力を惜しまないつもりでございますが・・・」


「はあ~~」


高田は大きく溜息を付くと、真理から離れた。


「あ、あのね。ホント、協力するわ。ね? そしたらお互いウィンウィンじゃない?」


「・・・」


高田はジロッと真理を睨みつけた。


「俺に好きな人がいようといまいと、中井さんには関係ないよ」


「何でよ!? めっちゃ関係あるじゃん! 許嫁解消が掛かってるのよ?!」


真理は思わず高田の腕を掴んだ。

高田はすぐに真理の手を振り払うと、


「ああ、そうだったな。多少関係あるか。でも、残念だけど、俺は今好きな人はいないよ。学校で何を嗅ぎまわったのか知らないけど」


腕を組んで呆れたように真理を見た。


「え? あれ? そうなの?」


「だから、中井さんに協力してもらうことは何一つ無いから。よって、俺が君に協力することも一つも無い」


「え? え? じゃあ、花沢楓・・・さんは?」


「はあ?」


目を丸めた高田に、真理はズイッと近づいた。


「ね? だってほら、綺麗だし美人だし美しいし」


「・・・全部同じ意味だけど・・・」


高田はまた大きく溜息を付いた。


「本当にロクな情報仕入れてないんだな・・・。呆れてものが言えないよ」


「う・・・、でも・・・」


「何をどう聞いたのか知らないけど、その花沢楓という人ともどうこうなるつもりはないから。とにかく出て行ってくれる?」


高田は真理の体とくるっと回転させると背中を押した。


「なんで~? 美人じゃん~! 才女じゃん~! 彼女の何が気に入らないのよ?」


真理は背中を押されながらも粘って騒いだが、高田はドアを開け、真理を乱暴に廊下へ押し出した。


「ああ、そうだね。確かに中井さんより美人だし、才女だし、スタイルもいいね。君を彼女にするくらいなら、花沢さんの方がいいよ」


「なっ!」


「じゃ、おやすみ」


振り返った真理の目の前で、バタンっと乱暴にドアが閉められた。





真理は閉ざされた扉の向こうへ、これ以上文句も言うことなく、無言で自分の部屋に戻った。

そして部屋に入るなり、その場にへたり込んだ。


『ああ、そうだね。確かに中井さんより美人だし、才女だし、スタイルもいいね。君を彼女にするくらいなら、花沢さんの方がいいよ』


この言葉が真理には堪えた。


高田だけが相手だったら、キーッと憤慨するだけで終わっただろう。

だが、これは誰が相手でも当てはまるのだ。

もちろん川田でも・・・。


(いや・・・、川田君こそ、そう思うんだろうな・・・)


真理は黒髪の女子生徒を思い出した。

サラサラしてまっすぐ伸びた黒い髪、綺麗な横顔、そして清楚な感じからも、彼女が優等生あることを身体全体から醸し出している。


それらは、自分には一つも備わっていない。


『君を彼女にするくらいなら、花沢さんの方がいいよ』


(本当にその通りだ・・・)


気が付いたら、涙がポロポロと流れていた。


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