ひとりにしないで
五歳位の少女が、一人で立っていた。彼女は華やかなデパートで、じっと立っていた。
はぐれたのだ、母親と。
母親が商品を見て立ちどまっている間、彼女はそのまま立ち止まらず自分の見たいを物を見に行ったのだ。母親は彼女がどこかへ行ってしまった事に気づかず、そのまま商品を見ていた。
どちらも互いが離れた事に気づかず、離れてしまった。
彼女は、迷子だ。
彼女はじっと立っている、母親が見つけてくれるのを待っているのだ。無闇矢鱈と動かない方が、見つかり易いのだと知っていたから、じっとしていた。
周囲を生きかう人は、彼女が迷子だとは気づかない。人待ち顔で不機嫌そうに立っている彼女は、迷子には見えない。
彼女はひたすら耐えていた、孤独と言う名の苦痛に。周囲にいくら人間がいようと関係ない、彼女にとってそれが人でなければ、彼女は独りぼっちだ。
長い時が過ぎた、にじむ涙を堪える。泣けば人間がよってくる、それは嫌だった。そんなものにいちいち応答するのは億劫だった。うつむき、ひたすら人を待つ。
そして、彼女は自分の名が呼ばれるのを聞いた。
母親にかけより、抱きつく。堪えていた涙が零れ落ち、感情のまま喚き散らす。
「ひとりにしないで、っていったでしょう!」
あまりに理不尽なその言葉、命令とも願いとも取れるそれ。
それが彼女の望みの全てである。
余談ですが、私はよく迷子になります。
足音があまりしない上に、人の死角をつくような動きをするから。原因を人に聞いたらそう言われました。
そんなつもり無いんですけどね。