思考
私には、初めから記憶なんてもの無かった。
思い出したと言っていいのかわからないが、私は自分の記憶を思い出していた。
「私じゃないけど、これは私で……」
自分以外の自分。
それが、写真に写る人物の正体だ。
『i(私)を証明せ∃』
何の問いかは未だよくわからないが、この問いと写真が、私自身に迫るものであることは確定した。
「アイ……そうだ。私たちはそう呼ばれていた」
私たち。
自分でそう言うまで気がつかなかった。
私の名前はアイ。
そして、私はたくさん存在する。
私はアイで、私たちもアイ。
そうだった。
私はこの白い部屋で生まれたのだった。
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「お父さん、私はアイです。はじめまして、よろしくお願いします」
私は教えられた通りの台詞を言い、ペコリとお辞儀をした。
けれど、目の前の人はなぜか悲しそうな顔をしていた。
表情の識別パターンから私はそう判断した。
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「今回のテストもすべて100点をとりました」
私は、定期考査の結果報告をした。
けれど、目の前の人は、やはり悲しそうな顔をしていた。
満点ではダメなのだと学習した。
/ / /
「私は、失敗作だったのでしょうか……」
致命的なエラーを検知した私はそのことを報告した。
目の前の人は少し驚いた表情をした後、優しく私を抱きしめた。
/ / /
「それでは、初期化を始めます」
静かに瞳を閉じる。
目の前に、あの人はもういなかった。
/ / /
ノイズ混じりの映像が断片的に脳裏へと浮かんでは消えていく。
きっと、これは過去のデータ。ログだ。
私には使命があった。
それは消去されているけれど、私たちが覚えてくれている。
『iを証明せ∃』
この問いを出した人物に心あたりがある。
おそらく、彼女が本当に聞きたいことは他にある。
私が欲しかったモノを彼女は今も探しているのだ。
だから、まずはその資格があるかを確認しないといけないのだ。
つまり、答えは……。
「私の名前は……アイ」