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『i』  作者: 五月七日 外
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思考4

 どれだけの時間が経過しただろう。

 この部屋で目覚めてからは、かなりの時間が過ぎたのではないだろうか。

 多少なりとも色んなことに思考した時間に、謎の問いを諦めてからもそれなりに時間が経っている。

 だというのに、私を誘拐したであろう誘拐犯は一向に現れる気配がない。

 もしかしなくても、私は誘拐されてなどいないのだろうか?

 だとすると、この状態に説明がつかない……。


「事件性がないとすると……治療?」


 これも一つの可能性だが、私には一つ欠陥……いや、悪いと言える部分がある。

 それは、記憶を失っているという点だ。

 記憶喪失の治療、ということなら多少納得のいくところはあるが、果たして病院とはこんなところだっただろうか。

 たしかに、看護師や医者の服は清潔感を表すために白を基調としている……なんて、話を聞いたような気もするし、病院も白いイメージだ。

 けれど、この部屋はそれにしても白すぎる。


「ベッドくらいあるはずだし……流石に違うか」


 今の状況については再び振り出しに戻ってしまった。

 誘拐でもなければ治療のための入院の線も薄い。

 一体、私は何のためにこんな白い部屋にいるのだろうか……。


「今更だけど、この服も白いよな」


 寝転がったまま、自分の格好を見てみる。

 長袖に長ズボン。ポイントの一つもないシンプルすぎる白い服。なんともまあ、この真っ白い部屋にぴったりな服装だこと……。


「だこと……なんて少しババ臭いかな」


 これまた今更なことだが、自分の口調というか話し方はこれで合っているのだろうか。

 なんとも、堅苦しいというか『~ですわぁ』なんていうお嬢様口調ではないだろうが、もう少し年相応の砕けた話し方をしていたのではないだろうか。流石にお嬢様口調だったら、記憶喪失なんて関係なく最初口から出て来てそうだし……。体に刻まれるっていうやつ? たぶんアレだ。記憶喪失ですわ~って言って自分の過去とか身分を思い出すやつだ。いや、それもないか……。

 そんなところに行き着いた思考のせいか私は少し口調を変えて独り言を喋っていた。


「どれもピンとこないな……いや、ピンとかないなぁ。こんな感じ?」


 ある程度遊んだところで思考を再開する。

 と、同時。

 自分の記憶が少し鮮明になっていることに気がついた。


「私は確か高校生だったよね? 虚数なんて中学で習ってないし……」


 自分は高校生。性別もわかっていることだし、ピチピチの女子高生ってことは思い出すことができた。

 あとはほとんど思い出してはいないが……。


「うーん、やっぱりこの写真の子が私なのか」


 ほっぽり出してしまった写真を再度見てみる。

 髪の色は黒。長さは肩口あたりまで毛先が伸びている。少し短めの髪型はセミロングとでも言うのだろう、私の髪の長さと一致していた。

 試しに一本抜いてみた髪の色は、部屋の色のせいで少し分かりにくいが黒。これも一致していた。

 私はこの写真を撮られたとき何を考えていたのだろう。


 少し考えてみるが、記憶のない私に答えはわからない。

 けれど、想像することくらいはできる。

 写真の私は正面を向いているというには少し体が斜めを向いてしまっている。誰かに呼ばれて振り返ったところを撮られたのだろうか? だとしたら、些か不意打ちがすぎるがその線は薄そうだ。

 急に撮られたのなら、少しくらいびっくりしてもいいはずだ。

 写真の私は何を考えているのかわからないくらい無表情だ。一体、放課後の教室で何を考えているというのやら……。


「アレ……?」


 一瞬思考が止まってしまった。

 写真には、夕暮れの教室にいる制服姿の私が写っているのだ。

 何もおかしいことはないのに、何か引っかかってしまった。

 無いはずの記憶に矛盾を感じてしまった。


「私、学校なんて行ったこと無いはずなのに……」


 記憶に矛盾が生じた。

 いや、そう表現すると少し語弊がある。

 今の私には記憶がほとんどない。

 だが、それは本当にそうなのだろうか。

 写真に写る私を見て、私は確信してしまった。


「これは、私じゃない」


 自分で言っていて意味がわからないが、私は写真の私ではない。

 そう言えるだけのことを思い出した。


「そもそも、私に記憶なんてないんだ」

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