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『i』  作者: 五月七日 外
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思考3

『私を証明せよ』


 文章の意味を固定したのだが、その解釈に私は苦戦していた。

『私』の証明とは一体どうすればいいのだろうか。

『我思う、故に我有り』的な少し哲学的意味のことなのだろうか。

 それとも別の意味で『私』という自分の証明、つまるところ物理的な手法での証明なのだろうか。


 さっぱりわからない。

 どちらの意なのか、それとも別の意味合いでの証明なのかもわからない。

 それに、そんなことがわかったところでその証明なんてできるはずもない。

 さきの虚数の証明と同じだ。

 私にその証明は難しすぎる。

 哲学にしろ物理学にしろ、もしくはそれ以外にしろ、記憶を失っている私には不可能だ。


「……お手上げだ」


 言って、思考を止めた私は床に寝転ぶ。

 部屋の景色は寝転んでみても変わらぬ白だった。


「どうしてこんなところにいるのだろうか……」


 誰も答える者はいなかった。

 それも当然だ。

 この部屋には誰もいないのだから。

 いや、ちょっと待ってくれ……。

 だったら、この写真は一体誰が?


「誰かいるのか?」


 部屋には窓一つないのだ。

 出口なんてないし、写真一つだって入れる隙間はない。

 そう思っていたが、物理的にそれは不可能だ。

 あの時。部屋の照明が消えたあの瞬間に何者かがこの部屋に侵入し、写真を入れるしか方法はないはずだ。


「わー!!!」


 試しに大声で叫んでみた。

 もしかしたら音の反響で抜け穴がわかるかもしれない。

 そう思ったが、全然わからなかった。

 というよりも、音がほとんど反響しなかった。


「防音ですか……」


 今度は床や壁をポコスカ殴ってみた。

 ただ手が痛くなっただけで穴なんて見つからなかったが、やはり音はほとんど響かなかった。


 部屋についての情報を整理していく。

 白い部屋。

 照明以外には何もなく、けれど、どこかに少なくとも写真を入れられるような場所があるはず。

 そして、防音。

 この辺りから、現在の私の状況を表すにぴったりの言葉が一つ浮かび上がった。


「誘拐……やはり、私は誰かに攫われたのだろうか」


 選択肢として一番初めに浮かび上がり、なんとなく答えを出すに渋っていたもの。

 誘拐された者の末路なんてたかが知れている。

 ましてや自分は女の身。

 この先に起こる未来はけして良いものではないだろう。

 けれど、それは不幸中の幸いかもしれない。


「犯人が来たときが最後のチャンス……か」


 しかし、私の予想とは裏腹にいつまで経っても誘拐犯は部屋にやってこなかった。

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