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スーザンドの魔導教室  作者: 生涯半端
プロローグ
7/17

入学式:終了の鐘


 クラスの雰囲気は一新していた。

 教室に入る前に感じていた

 負のオーラは消えている。


 それ事態は喜ばしい。

 なのだが、生徒達の今の反応はというと。



「(ヤバいヤバい! 無詠唱物質魔法とはただ事じゃない、激ヤバ案件だよォ!! 関わらんとこ、ぜっったい極力関わらんとこ)」


「教師、強い存在。手合わセ、近い未来望ム。そシて、私勝利収メ」


「年齢差があったとはいえ、武闘派で名高いソラスト家の令嬢を倒すとは。侮れませんな先生」


「(あの女は雷撃付与(サンダーエンチャント)してたのに、あのセンコーは一歩も動かずに勝ちやがった。何者(なにもん)だ、アイツ)」


「すすすすす、すごいです先生! で、すから、あまり近付かないでもらってぇ……」


「ハーレット、大丈夫?」


「……面目ございません」



 武闘派な生徒は敵意。

 ビビりな生徒は畏怖。


 大半がこの二つのいずれか。

 拒絶でないだけマシと捉える他ない。


 好意的な反応の生徒も少数だがいる。



「Dクラス配属に絶望を隠し切れませんでしたが、貴方が我がクラスの担当教員になってくださるのなら、まだ希望を持てそうです。今後の教育に期待しています、先生殿」


「(……僕もあんな魔法を使えるのかな)」


「凄いですっ驚きですッ感激ですッッ! 何処で修業したんですか!!!」



 やる気のある生徒がいる。

 例え数人でも

 居さえすれば、契約は遂行できる。



「〜♪」


「……」


「(金髪と腕なしは顔に出ないな。まぁ参加しそうな生徒がいるから、出るなら出る、出ないなら出ないで構わないな。わざわざ心を読む必要も……ん?)」



 名簿をひっくり返していると

 生徒の数が一人少ないことに気付く。

 顔写真もなく、名前の欄も仮で付けられている。


 だがやはりどうでもいい。

 契約遂行できると分かった現状、

 いない生徒まで構う理由はない。



「さて、私の実力のほんのちょっぴりを見てもらいましたが、如何でしたか。皆さんもあんな風に魔法を自由自在に扱えるようになりたいですか?」



 その問いかけをした途端、クラスが冷え切った。

 一気に現実に引き戻された。

 あるいは実力者から煽られたような感覚だろう。



「……なりたいです」



 そんな中、

 一人の生徒がか細い声で反応示してくれた。


 酷い身なりだ。

 配給される生徒用のマントの下はボロ服。

 恐らくは出身は孤児院(こじいん)なんだとわかる。


 だがそれもどうでもいい。



「素直な生徒は好きだよ。さて、結論から言えば君達Dクラスの生徒でも、あの程度の魔法は半年。いや、二ヵ月程度で身に付けられることをここに宣言しよう!」


「ににににに、二ヵ月!!!!!!?」


「冗談でも笑えねぇぞ」


「流石に二ヵ月は不可能です、先生」


「可能だ。私が……いや、俺が指導するんだからな」



 限界だった。

 私口調は気色が悪く

 丁寧語も一々脳内で変換する必要があって面倒だった。


 自由闊達(じゆうかったつ)な魔法を扱う魔法使いが、

 化けの皮を(まと)っていたら自由ではない。



「先生、私は貴族の生まれです」


「急になんだ」


「貴族というのは生まれながらの勝ち組です。衣食住が完備され、教育にも余念がない。特に魔力持ちの子供はこの学校に入る前、物心ついたその日から魔法の教育を徹底されます。魔法使いとして認められれば、貴族の中でも抜きんでたアドバンテージになるからです」



 自虐だ。

 自分は生まれてから今まで教育を受けてきた。

 それでも自分は今、Dクラスにいる。

 そう言っている。



「ッハ、貴族様の英才教育も大したことないんだな。そんだけ頑張っても、行き着いた先がDなんて。俺だったら恥ずかしくって、表も歩けねぇよ」


「……お前もその恥ずかしいDクラスの一員だろう、平民君。私が貴族で、恥ずかしくて表も歩けないなら、平民の君は生きていること自体を恥じた方がいい」



 同調するわけではないが、

 ここに貴族がいるのは疑問ではあった。


 貴族は見栄(みえ)を何よりも大事にする人種。

 彼らにとってアトラー魔法学校卒業は、

 確かにアドバンテージであるのは違いない。


 しかしそれは、

 Dクラス以外に振り分けられた場合である。


 入学できても、Dでは意味がない。

 むしろ逆効果、

 Dが最底辺であることは周知の事実だからだ。



「ハイハイ、どうせ喧嘩するなら魔法で喧嘩をしろ。喧嘩できるほどの腕もないんだろうがな」


「っ!」


「さてと話を戻すが、俺の教育を受ければ二ヵ月くらいで、さっき程度の魔法を扱えるだけの土台は作れる。問題はその先だ」


「先、ですか?」



 グレオラとの契約の本筋

 だがこの話をする生徒は限定する。



「ここから先は俺の教育を受ける生徒だけに伝える」


「教育を受けるって……」


「受けられない奴もいるって話?」



 皆の視線が一瞬、後ろへと向けられる。

 その先にいるのはハーレット。

 生意気な態度を取り、

 反感を買ったという意味での視線。

 だがそこで線引きはしない。



「俺の教育は二つある。一つは普通授業、名前の通り普通に授業をする」


「次、一ツは?」


「【実習授業】。過去の偉人の名前や魔法の成り立ちなんか覚える暇があるなら、魔を探求することに全身全霊を注ぐ授業だ。ぶっちゃけスパルタだ」


「スパルタ……」


「質問です。二つの授業をどのようにして並行していくつもりですか。Dクラスの先生はスーザンド先生だけですよね」


「それは単純な話だ」

「「俺が二人になればいい」」



 複製魔法の応用。

 姿形、思考までもが全く同じ

 完全なスーザンドをもう一人生み出してみせた。


 生徒達は呆気にとられている。

 が、慣れたもので

 すぐに授業に対する疑問へと思考が切り替わる。



「「これで授業を二つ、同時進行できる」」


「……何故、授業を二つに分けたのですか?」


「それも単純な話だ。君達の姿勢がわからないからだ」


「姿勢、ですか?」



 精神魔法で心は読める。

 だが読めた心が、そのまま原動力になるとは限らない。


 好きな人がいるけど告白できない。

 そんなある意味、

 心の真理に触れる部分までは読み解けない。


 ただ単純に、

 スーザンドの人間的経験の欠如が原因でもあるが。



「さっきの俺の実力を見てどう思ったか。お前らが何を思ってこの学校に入ってきたか。最終的にどうなればいいのか。それがわからない以上、無理強(むりじ)いでスパルタな実習授業に付き合わせるわけにはいかない」


「我々は生徒です。先生の授業内容にとやかく言える立場では」


「そう思っているのは君だけかもしれない」



 鐘の音が鳴り響く。


 授業終了の合図だ。



「さてと今日はこれまでだ。どっちの授業に参加するかは自由だ、強制はしない。だがもう一度言っておく。実習はスパルタだぞ」


 転移魔法で出てもよかった。

 しかしスーザンドはグレオラを見習い

 雰囲気を大事にしてみた。


 徒歩で教室を出る。

 古びた木製の扉は悲鳴を上げながら、

 横にスライドする。


 生徒達は皆、その背中が見えなくなるまで

 スーザンドを目で追い続けた。

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