入学式:お披露目Ⅱ
ハーレットは自ら雷撃付与を解いた。
雷撃付与は、付与した寸前が最も能力の上昇が高い。
寸前の能力上昇を100とするなら、付与後は60程度。
使い続ければ疲労し、更に低下する。
発動中では、現状を打破出来ない。
そう踏んだハーレットは魔法を解き、
再度魔法を付与し直した。
その行動は的確、100点の行動といえる。
だが問題なのは、彼女の頭上には雲ある事だ。
『天気予報』
雲を生み出す水魔法。
あらゆる気象を引き起こすことができる。
気象には当然、雷雲も含まれる。
現在の気象は局地的集中豪雨。
そして彼女が使う雷撃付与は雷属性。
雷に反応して、雲は一瞬だが雷雲に変わる。
雷属性に適性のある魔法使い。
しかし雷に完全耐性があるわけではない。
雷に当たれば重傷は免れない。
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以上のことを踏まえ、
スーザンドも魔法を解いた。
解かざるを得なかった。
「なっ!?」
解除と同時にロケット発射。
彼女が出せる最高速で前へと踏み出す。
蹴り出しの威力も増している。
最初の一歩の時点で既に間合いである。
事前に知っていれば
このまま抜刀していただろう。
だが今は不測の事態。
武器を抜くことも出来ず、
超高速の体当たりを繰り出す。
並みの人間では回避すらできず、
肋骨を何本か犠牲のする。
ではスーザンドはどうか。
結論から言えば、どうとでもなる。
防御、回避、あらゆる手段で対処は可能。
なのだが、不測の事態はスーザンドも同じ。
思わず容赦のない選択肢を選んでしまった。
『巨斧』
巨斧は鋼の刃を落とす魔法。
大きさ、落下距離を自由に定められる。
ただそれだけの魔法。
ただそれだけの魔法なのだが。
『ガンッ!』
何かが巨斧にぶつかる、鈍い音がした。
落下した場所は、
スーザンドの目の前。
つまりはハーレットの体当たりの
進路上に落としてしまった。
彼女は今止まれない。
止まれない上に、体勢は不十分。
そしてあの激突音。
この向こう側でどうなっているのか。
想像に難くない。
「……大丈夫デスカー」
「ーーーーーー!!!!!!」
顔を抑え悶絶していた。
レイピアも折れ曲がっている。
見ているだけでも痛みが伝わってくる。
「き、ひさまァ!」
それでも尚、戦う意志を見せる。
折れたレイピアを向けられ、
スーザンドは反応に困っていた。
これではただの弱いものいじめだ。
「ヤメて!!!!!!」
シエルが渾身の一言を言い放つ。
大声を出した反動か、咳き込み座り込む。
その場にいた全員が、彼女を見た。
「! お嬢様!!」
「はぁ、はぁ……スーザンド、先生。此度は私の友人が失礼をいたしました。申し訳ありません」
座ったままの姿勢で頭を下げる。
地位や権力などどうでもいいスーザンドだが、
彼女の立場を知っている以上、
その行動の危うさに目をピクつかせる。
ハーレットはすぐさま彼女に近寄った。
従者としては当然の行動。
だが元を正せば彼女のせいだ。
こうなった以上、
お披露目会はここで終わるしかない。
スーザンドはハーレットに回復魔法をかけた。
潰れた鼻と欠けた歯。
切った舌にレイピアも元通り。
お詫びとして、強度を少し上げておいた。
「回復魔法まで扱えるなんて……」
「いやそれよりも最後の魔法。何もない空間から、あの質量の物体を0から産み落とすなんて……まさか物質魔法!?」
「物質魔法。その存在は認められているが、実際にその魔法を扱えた魔法使いは片手で数えられる程度)」
「(魔法の祖であり、この学校の創立者。そして現校長のグレオラ・リーテル先生くらい。まさか生で見られるなんて)」
「しかも、見た感じ詠唱なしに見えたんだけどォ。マジで無詠唱だったとしたら……」
尊敬の目が畏怖へと変わりつつある。
現代魔法学において、
物質魔法は千年に一人の天才が使うような代物。
それを無詠唱で発動すれば、恐れられても仕方ない。
「……えーっと、とりあえず一旦クラスへと戻りましょうか」
やってしまった。
そんな一言が脳内のデカデカと現れる。