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スーザンドの魔導教室  作者: 生涯半端
プロローグ
4/17

入学式:クラス挨拶


 大鐘の音が鳴り響く。

 入学式の一連の流れが終了したのだ。


 次はクラス挨拶。

 各々のクラスの担当教師が。

 自分という存在を説明する行事。


 何も難しい事はない。

 (しい)ていうなら

 生徒にとっての先生ガチャとも言える場面か。


 と、いうのが普通の学校のクラス挨拶。

 しかし、アトラー魔法学校は一味違う。

 この学校では、授業方針もここで発表するのだ。



 SやA、Dとは違いBとCは()()う人数も多い。

 全員を一クラスにまとめて授業を行えば、

 様々な点で不都合が生じる。


 その為この2クラスに関してだけ、

 クラスを分け、教員の数も多く配置している。


 担任教師の数だけ、授業の進め方が違う。


 実践に重きを置く先生。

 座学中心に教える先生。

 特殊な授業を行う先生もしばしば。


 そう言った点を

 クラス挨拶では説明される。


 そして生徒自身の判断で

 どの先生の(もと)で一年間を過ごすかを決定する。


 勿論、先生が一人の場合は選り好みは出来ない。

 例え相手が不快な相手であろうと、我慢するしかない。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「……扉越しでも伝わってくる負のオーラ。話には聞いていたが、Dクラスに振り分けられて、相当中の生徒共はキてるみたいだな」



 【Dクラス】 様々な言葉で揶揄(やゆ)される

 測定で最低な結果を叩き出す事で落ちる場所(クラス)


 最低な結果とはどれくらいか。


 指先に小さな火を数秒出しただけで息切れする。

 攻撃系の魔法の射程は数センチ。

 そもそも魔法を詠唱できない。


 これが最底辺の実力である。


 教室の造りも古い。

 創立以来、唯一改修がなされていない。

 歩けば床は(きし)み、この辺り一帯からお婆ちゃんの家を思い出す香りが漂っている。



 そのクラスの前に

 スーザンドは立っている。


 Dクラス。

 自分が担当するクラス。


 扉越しでもわかる負のオーラ。

 溜息、(すす)り泣く声、恨み節。

 (およ)そ新入生が放っていいオーラではない。



身嗜(みだしな)みを整えるか。服はこのマントがあるからいいとして、髭は無精髭無しのさっぱり顎。髪型は……流行を知らんから適当でいいだろ。ハゲってあだ名をつけられないように生え際は少し調整するがな」



 更には『認識阻害魔法』も付与した。

 効果はスーザンドを知る人物が彼を見ても、

 曖昧(あいまい)でしか、存在を認知できなくなる。


 顔は知っているが、

 名前が出てこない状態といえば分かりやすいか。


 

「こんなものか。後は接し方……フレンドリーな言葉遣い、それと私言葉で融和を(はか)るか。その方が契約もスムーズに進められるだろ」



 作り笑顔は苦手だった。

 そもそも愛想を良くするのが、彼は苦手だ。

 だが彼の素を今の状態の彼らの前に(さら)け出し

 もし不貞腐(ふてくさ)れられると困る。


 逆に言えば、

 手中に収めてしまえば、取り繕う必要もなくなる。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「どーも、こーんばーんわー」



 第一印象が重要と聞いたことがあった。

 元気な声でハツラツと。

 だが結果として、気の抜けた声が出てしまった。


 冷ややかな視線に滅多刺しにされる。

 生徒は(うつ)ろな目をしている。

 その目のままこちらに視線をやり

 すぐさま元の位置に視線を戻した。



「(何も期待してないって顔だな。唯一の希望だった教師も、見覚えのない無名魔法使いが来たと思っただろうしな。それはそれとして〜、魔力測定してみるか)」



 水晶がなくとも

 スーザンドは魔力測定が行える。


 魔力量は後ろの席の女子生徒が最も高い。

 体の作りも素晴らしい。

 見事なオールバックが目を()く。

 事前に聞かされた生徒の一人、ハーレットだ。


 ここで一つの疑問が湧き立つ。

 事前に聞かされていたのは名前

 そして簡易的な家柄の説明だけだった。

 家柄に不相応な魔力持ちを想像していた。


 だが実物は違う。

 他のクラスメイトと比較して、魔力が高い。

 学校基準でいえばAレベル相当はある。



「(グレオラの奴、何を企んでいる?) えーそれではクラス挨拶を行っていきます。まず私の名前は【スーザンド・ヴァンヘイル】だ。一年間、君たちの担当教師を任されることになった。以後ヨロシク」


「スーザンド? 誰だよ。誰か知ってるか?」


「し、知らない……デス、ハイ」


「私が記憶している著名な魔法使いの検索には引っ掛かりません」


「貴族でもないな。そんな家名に聞き覚えがない。よほど辺鄙(へんぴ)な場所から来たなら、知らんがな」


「我が国も、知らヌ存ぜヌ」


「わ、私も」


「シエルさん、混ざらなくていいのです」



 ヒソヒソと情報交換がなされている。

 そして誰も知らないという結論が出される。

 すると負が深まった。



「さて名前も記憶して貰った所で早速だが、私の授業スタイルについて説明を行いたいんだが、その前に。この教室から移動しようか」



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「さてやってまいりましたは、私が特別にこさえましたお披露目場~」


「な、なんだ!!? 一体ここは、どこだ!!」


「魔法も詠唱していないのに、飛ばされた……!?」


「アトラー魔法学校も見当たらない。どこに飛ばされたっていうの!!」


 クラス全員を転移させた。

 口で説明するより、

 そして気分転換も込めての移動である。


 生徒一同

 突然の出来事に狼狽(ろうばい)している。



「(いずれにせよ、現代魔法学の観点からして見れば異常か。この程度はあくび程度、ってどうでもいいかそんなこと)」


「おい貴様、どういうことだ!!」



 生徒が怒号を上げて前へと出てきた。

 ハーレットだ。

 彼女の心は怒りに満ちていた。



「(何を怒ってるんだ、この『オールバック』)」



 スーザンドは、ある一定ラインの相手を

 あだ名で呼ぶクセがある。


 ハーレットの場合は、

 その特徴的な髪型から安直に『オールバック』

 と心に決めた。


 それはさておき、

 スーザンドはまたまた彼女に疑問を抱いた。

 何を苛立(いらだ)っているのか。

 何故武器に手をかけているのか。



「どうもこうも。私の教育方針をわかりやすく知ってもらうため、広くて人目のつかない場所まで、みんなを転移させただけです。っあ、帰りが心配なら何の問題もな」


「そんなことを言っているのではない! グレオラから何も聞かされていないのか貴様!!」


「グレオ、ッん!! 校長先生がどうかしたのかい?」


「聞かされていないのか。クソッあのいい加減な野郎!! とにかく、一刻も早く私と、彼女を! 元居た場所に戻せ!! 今すぐにだ!!!!」



 そう言って指さした先には白髪で小柄な少女。

 入室時から二人はべったりだった。

 主にオールバックが、

 彼女に対して一方的にだったが。


 彼女も(あらかじ)めDクラス入りが確定していた生徒。


 の筈なのだが、違う。

 手渡された資料と名前と髪色が一致しない。

 顔立ちは瓜二つだが、違うと書かれている。


 それに加えてハーレットの態度。


 スーザンドは確信した。

 グレオラは何かを言い忘れていると。



「(それにしても白髪少女、このクラスの中で一番魔力量が少ないな。無いに等しい)」



 シエルのあだ名が『白髪少女』に決定した。

 目立つ白髪と、低身長に目がいく。



「おい、貴様!!


「お互い大変だな、色々と事情があって」


「はぁ?!」


「君ら2人には、何かしらの事情があるんだろう。だがおれ……私には『契約』がある。だからこちらの用事が終わるまでは、この場所でおとなしく見ていてほしいな」



 【Dクラス担当教師を一年間務める】

 これが契約の本流である。

 これに付随し、いくつか別の命令がある。



「【初日でクラス全員に実力を示す】。アトラー魔法学校の教師としてふさわしいかどうかを、君達生徒が審査員として私を評価して欲しい」


「審査員と言われても……」



 審査員というのは建前。

 本当の狙いは、

 スーザンド自身の実力を再確認すること。


 グレオラの使役する監視生物。

 それが周りに配置されている。



「『雷撃付与(サンダーエンチャント)』」



 ハーレットに電流奔る。

 完全に臨戦態勢を身構()り、

 スーザンドを(にら)みつける。



「もう一度だけ言ってやる、『戻せ』。戻さないなら、私がお前を審査してやる」


「やめたほうがいいよ。怪我をするからね」



 作り笑顔に集中するがあまり

 思わず本音がぽろりと口から出てしまった。



「ほう? ほうほうほうほうほうほうほう」



 纏った雷が激しく(ほとばし)る。

 怒りを雷で表現することは多々ある。

 だが実際にその場面を見ると怖気(おじけ)る。



「あのクソッタレの寝取り野郎。余程私に殺人を犯させたいらしいな。この私が怪我? やれるものならやってみろ。貴様のようなどこの馬の骨かもわからん奴が、私達の教師をする資格があるかどうか。誉れ高きソラスト家のソラスト・ハーレットが審査してやる!!!!」



 彼女は怒りっぽいようだ。

 今後は気をつけよう。


 そう心に決めたスーザンドであった。

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