入学式:クラス挨拶
大鐘の音が鳴り響く。
入学式の一連の流れが終了したのだ。
次はクラス挨拶。
各々のクラスの担当教師が。
自分という存在を説明する行事。
何も難しい事はない。
強ていうなら
生徒にとっての先生ガチャとも言える場面か。
と、いうのが普通の学校のクラス挨拶。
しかし、アトラー魔法学校は一味違う。
この学校では、授業方針もここで発表するのだ。
SやA、Dとは違いBとCは請け負う人数も多い。
全員を一クラスにまとめて授業を行えば、
様々な点で不都合が生じる。
その為この2クラスに関してだけ、
クラスを分け、教員の数も多く配置している。
担任教師の数だけ、授業の進め方が違う。
実践に重きを置く先生。
座学中心に教える先生。
特殊な授業を行う先生もしばしば。
そう言った点を
クラス挨拶では説明される。
そして生徒自身の判断で
どの先生の下で一年間を過ごすかを決定する。
勿論、先生が一人の場合は選り好みは出来ない。
例え相手が不快な相手であろうと、我慢するしかない。
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「……扉越しでも伝わってくる負のオーラ。話には聞いていたが、Dクラスに振り分けられて、相当中の生徒共はキてるみたいだな」
【Dクラス】 様々な言葉で揶揄される
測定で最低な結果を叩き出す事で落ちる場所。
最低な結果とはどれくらいか。
指先に小さな火を数秒出しただけで息切れする。
攻撃系の魔法の射程は数センチ。
そもそも魔法を詠唱できない。
これが最底辺の実力である。
教室の造りも古い。
創立以来、唯一改修がなされていない。
歩けば床は軋み、この辺り一帯からお婆ちゃんの家を思い出す香りが漂っている。
そのクラスの前に
スーザンドは立っている。
Dクラス。
自分が担当するクラス。
扉越しでもわかる負のオーラ。
溜息、啜り泣く声、恨み節。
凡そ新入生が放っていいオーラではない。
「身嗜みを整えるか。服はこのマントがあるからいいとして、髭は無精髭無しのさっぱり顎。髪型は……流行を知らんから適当でいいだろ。ハゲってあだ名をつけられないように生え際は少し調整するがな」
更には『認識阻害魔法』も付与した。
効果はスーザンドを知る人物が彼を見ても、
曖昧でしか、存在を認知できなくなる。
顔は知っているが、
名前が出てこない状態といえば分かりやすいか。
「こんなものか。後は接し方……フレンドリーな言葉遣い、それと私言葉で融和を図るか。その方が契約もスムーズに進められるだろ」
作り笑顔は苦手だった。
そもそも愛想を良くするのが、彼は苦手だ。
だが彼の素を今の状態の彼らの前に曝け出し
もし不貞腐れられると困る。
逆に言えば、
手中に収めてしまえば、取り繕う必要もなくなる。
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「どーも、こーんばーんわー」
第一印象が重要と聞いたことがあった。
元気な声でハツラツと。
だが結果として、気の抜けた声が出てしまった。
冷ややかな視線に滅多刺しにされる。
生徒は虚ろな目をしている。
その目のままこちらに視線をやり
すぐさま元の位置に視線を戻した。
「(何も期待してないって顔だな。唯一の希望だった教師も、見覚えのない無名魔法使いが来たと思っただろうしな。それはそれとして〜、魔力測定してみるか)」
水晶がなくとも
スーザンドは魔力測定が行える。
魔力量は後ろの席の女子生徒が最も高い。
体の作りも素晴らしい。
見事なオールバックが目を惹く。
事前に聞かされた生徒の一人、ハーレットだ。
ここで一つの疑問が湧き立つ。
事前に聞かされていたのは名前
そして簡易的な家柄の説明だけだった。
家柄に不相応な魔力持ちを想像していた。
だが実物は違う。
他のクラスメイトと比較して、魔力が高い。
学校基準でいえばAレベル相当はある。
「(グレオラの奴、何を企んでいる?) えーそれではクラス挨拶を行っていきます。まず私の名前は【スーザンド・ヴァンヘイル】だ。一年間、君たちの担当教師を任されることになった。以後ヨロシク」
「スーザンド? 誰だよ。誰か知ってるか?」
「し、知らない……デス、ハイ」
「私が記憶している著名な魔法使いの検索には引っ掛かりません」
「貴族でもないな。そんな家名に聞き覚えがない。よほど辺鄙な場所から来たなら、知らんがな」
「我が国も、知らヌ存ぜヌ」
「わ、私も」
「シエルさん、混ざらなくていいのです」
ヒソヒソと情報交換がなされている。
そして誰も知らないという結論が出される。
すると負が深まった。
「さて名前も記憶して貰った所で早速だが、私の授業スタイルについて説明を行いたいんだが、その前に。この教室から移動しようか」
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「さてやってまいりましたは、私が特別にこさえましたお披露目場~」
「な、なんだ!!? 一体ここは、どこだ!!」
「魔法も詠唱していないのに、飛ばされた……!?」
「アトラー魔法学校も見当たらない。どこに飛ばされたっていうの!!」
クラス全員を転移させた。
口で説明するより、
そして気分転換も込めての移動である。
生徒一同
突然の出来事に狼狽している。
「(いずれにせよ、現代魔法学の観点からして見れば異常か。この程度はあくび程度、ってどうでもいいかそんなこと)」
「おい貴様、どういうことだ!!」
生徒が怒号を上げて前へと出てきた。
ハーレットだ。
彼女の心は怒りに満ちていた。
「(何を怒ってるんだ、この『オールバック』)」
スーザンドは、ある一定ラインの相手を
あだ名で呼ぶクセがある。
ハーレットの場合は、
その特徴的な髪型から安直に『オールバック』
と心に決めた。
それはさておき、
スーザンドはまたまた彼女に疑問を抱いた。
何を苛立っているのか。
何故武器に手をかけているのか。
「どうもこうも。私の教育方針をわかりやすく知ってもらうため、広くて人目のつかない場所まで、みんなを転移させただけです。っあ、帰りが心配なら何の問題もな」
「そんなことを言っているのではない! グレオラから何も聞かされていないのか貴様!!」
「グレオ、ッん!! 校長先生がどうかしたのかい?」
「聞かされていないのか。クソッあのいい加減な野郎!! とにかく、一刻も早く私と、彼女を! 元居た場所に戻せ!! 今すぐにだ!!!!」
そう言って指さした先には白髪で小柄な少女。
入室時から二人はべったりだった。
主にオールバックが、
彼女に対して一方的にだったが。
彼女も予めDクラス入りが確定していた生徒。
の筈なのだが、違う。
手渡された資料と名前と髪色が一致しない。
顔立ちは瓜二つだが、違うと書かれている。
それに加えてハーレットの態度。
スーザンドは確信した。
グレオラは何かを言い忘れていると。
「(それにしても白髪少女、このクラスの中で一番魔力量が少ないな。無いに等しい)」
シエルのあだ名が『白髪少女』に決定した。
目立つ白髪と、低身長に目がいく。
「おい、貴様!!
「お互い大変だな、色々と事情があって」
「はぁ?!」
「君ら2人には、何かしらの事情があるんだろう。だがおれ……私には『契約』がある。だからこちらの用事が終わるまでは、この場所でおとなしく見ていてほしいな」
【Dクラス担当教師を一年間務める】
これが契約の本流である。
これに付随し、いくつか別の命令がある。
「【初日でクラス全員に実力を示す】。アトラー魔法学校の教師としてふさわしいかどうかを、君達生徒が審査員として私を評価して欲しい」
「審査員と言われても……」
審査員というのは建前。
本当の狙いは、
スーザンド自身の実力を再確認すること。
グレオラの使役する監視生物。
それが周りに配置されている。
「『雷撃付与』」
ハーレットに電流奔る。
完全に臨戦態勢を身構り、
スーザンドを睨みつける。
「もう一度だけ言ってやる、『戻せ』。戻さないなら、私がお前を審査してやる」
「やめたほうがいいよ。怪我をするからね」
作り笑顔に集中するがあまり
思わず本音がぽろりと口から出てしまった。
「ほう? ほうほうほうほうほうほうほう」
纏った雷が激しく迸る。
怒りを雷で表現することは多々ある。
だが実際にその場面を見ると怖気る。
「あのクソッタレの寝取り野郎。余程私に殺人を犯させたいらしいな。この私が怪我? やれるものならやってみろ。貴様のようなどこの馬の骨かもわからん奴が、私達の教師をする資格があるかどうか。誉れ高きソラスト家のソラスト・ハーレットが審査してやる!!!!」
彼女は怒りっぽいようだ。
今後は気をつけよう。
そう心に決めたスーザンドであった。