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スーザンドの魔導教室  作者: 生涯半端
プロローグ
3/17

入学式:魔力測定


 【魔力測定】

 現時点での自分の魔力量を測る、重要な学校行事。

 この結果により

 五つあるクラスの(いずれ)かに分類される。


 一連の流れは至って単純。

 入学手続きの際に手渡された紙。

 入学生達は紙に書かれている番号と同じ数字が記されている転移門に移動するだけ。


 転移先には記録係の魔法使い。

 そして台の上には水晶が置かれている。


 この水晶で魔力測定を行う。

 魔力を有する人間が触れる。

 すると水晶は二つの反応を示してくれる。


 『発光』と『発色』である。


 光は強ければ強いほど、有している魔力に大さを。

 色はその人が優れている属性の魔力を示している。


 測定が終わり次第

 部屋に設置された別の転移門に移動。

 これにて魔力測定の全行程が終了する。


 非常に単純な作業。

 しかし入学生の増加に(ともな)い、時間が超過。

 故にここ数年、臨時で魔法使いを雇っている。



 ----- ----- ----- ----- -----



「ここが、歴代王族が力を確かめた測定の部屋か」



 【エクティアス・アーノイド】

 アトラー魔法学校が所属する国

 フェルス聖王国の第一王子。


 彼の特徴は多い。

 王家の名に恥じないよう叩き込まれた礼儀作法。

 文武両道であることは言わずもがなだが、こと魔法に関しては特に(ひい)でている。


 しかし彼の外見は

 それらの優れた特徴を(かす)ませる。


 整えられた容姿、高身長でスラっとした体形。

 極めつけは王家の血筋であるこのとを証明する銀髪。

 美の神に愛されたとも称される彼の身姿は、老若男女問わず、あらゆる人を魅了する。



「お待ちしておりました。エクティアス様、今回測定を行わせていただくっ」


(かしこ)まらなくていいよ。僕の後ろにも入学生が控えているんだ、早々に測定を終わらせてしまおう。試験官さん、後ろを向いておいてくれますか」


「わかりました」



 彼らの行う作業は説明及び

 入学生達の魔力量と色の記録である。


 その為後ろを向いてしまうと

 何も観測できずに終了してしまう。


 だがエクティアス王家はその限りではない。

 彼らは生粋(きっすい)の魔法使いの一族。

 魔力測定の(たび)、その圧倒的な魔力量で

 試験官の目を潰してきた魔力測定キラーの異名を持つ。



「では、水晶に手を」



 アーノイドは持参した目隠しを装着する。


 (しばら)くして、部屋は光に満ちた。

 直視すれば、失明しかねない光量。


 試験官はこの光景に驚きを隠せない様子。

 彼もこの学校の卒業生

 この光量の異常さは理解できる。



「(()(みず)(かぜ)(つち)の四大魔力に加えて(いかずち)(こおり)(かげ)の三希魔力だと!!!? 水晶は触れた人間の今最も高い魔力を色で示す。つまりエクティアス様は今、全ての属性が等しく高いということなのか! 校長以外にこんな魔法使いがいたとは。文句なしでSクラス入り!!)」



 全属性に適性が事例は今までに存在していない。

 グレオラですら三希魔力の内、

 二つの色を発光させられなかった。


 天才、あるいは神の領域といっても過言ではない。



「(……妹よ)」



 喜びの渦中にいる筈のアーノイド。

 だがその表情は、心ここに()らずであった。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「お待ちしていましたよ。エクティアス・レノア様」


「……グレオラ・リーテル様」



 【エクティアス・レノア】

 アトラー魔法学校が所属する国

 フェルス聖王国の第二王女。


 アーノイドとは双子の兄妹。

 出てきた順番でレノアが妹ということになっている。

 兄とは違い、(おおやけ)の場に姿を現すことがなかった。


 髪色は王族であることを示す銀色。

 容姿も端麗(たんれい)ではあるが、線が細い。

 身長も低く、一般平均よりも一回り小さい。



「様なんて、他人行儀な挨拶は()してください。いつもの話し方で結構です。それより、『また』この水晶に手を乗せるんですよね」


「えぇ、またです。つらいでしょうが、再確認の為にも必要な行動なんです」


「では……後のことは任せました」



 レノアは恐る恐る水晶に右手を乗せた。


 改めて説明するが、

 水晶は触れた人の魔力を測定する装置だ。

 光量で魔力量を発色で属性を示す。


 では魔力を持たない人間が手を乗せるとどうなるか。

 結論から言えば、何の反応も示さない。

 水晶は魔力を測定するもの。

 測定する魔力がなければ反応のしようがない。



「やはり触れ初めは何の反応も見せませんね」


「っぅ、ぁ……!」



 水晶は何の反応も見せなかった。

 だが次の瞬間、

 レノアは触れたままの姿勢で膝をついた。


 息を荒げ、左手は胸を強く握っている。

 (ひたい)からは汗が滲み

 その様子は誰の目から見ても異常だった。



「踏ん張りどころですよ。根性見せてください。じゃないと、また逆戻りですよ」



 今にも水晶から手を放してしまいそうだった。

 だが左手で右手を抑え込み、唇を強く噛んで耐えた。


 (しばら)くして、レノアの銀髪に異常が現れ始めた。


 銀色の髪が(にぶ)い白髪へと変色し始めた。

 それと同時に水晶に極微量な輝きが(とも)りだす。

 色さえ判別できない程の小さな(あかり)


 まるで王家の証である銀を吸い、灯ったようにも見えた。



「ハイ、お疲れ様でしたっと」



 レノアの手を力ずくで引きはがす。

 先程まではいつ離れてもおかしくない程弱弱しかった。

 しかし、気付けば本人の細腕では離せない程に吸着していた。



「っぁ、っくぁ……ぁぁあっ!」



 体をぶるぶると震わせ、はしたなく開いた口からは唾液がぽたぽたと。

 白髪になった髪は元には戻らず、水晶の輝きも未だ灯ったままだ。



「回復魔法っと。さて、これで貴方は今から【ベクター・シエル】だ。エクティアス・レノアは諸事情で学校入学を見送った。と、世間的にはそう公表されるでしょう」


「……ありがとう、ございます」



 全快したレノアはその足で転移魔法陣へと進んだ。

 ここまでの流れを二人は全て把握し、準備していた。



「シエルさん」


「……あ、はい。何でしょうか校長先生」



 シエルという名に慣れていないのか返事が遅れる。



「貴方の担任教師には『全て事情を説明しておきました』。頑張って下さいね♪」


「なっ!!?」



 まだ転移魔法陣の上に立っていなかった。

 だが、グレオラ直々の転移魔法で送り飛ばしてしまう。



「さてと、次は彼女か。機嫌を損なわないようにしないとね」



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「……お嬢様は無事に終えられたか」


「開口一番が他人の心配とは。流石姫を守る騎士(ナイト)様ってところかい、ハーレット?」



 【ソラスト・ハーレット】

 エクティアス王家に仕えてきた魔法騎士の一族。

 生まれた王子、王女に合わせてソラスト家は子を産む。

 彼女はレノア担当の魔法騎士兼教育係である。


 魔法騎士とは、

 魔法と武具による戦闘を得意とする希少な職業。

 その職をソラスト家では男女問わず、

 なることが義務付けられている。


 髪は戦闘の邪魔になると短く切り、前はオールバック。

 日々の鍛錬で仕上がった肉体は同性を惚れ惚れさせる。

 勿論見せるだけでなく

 実際の腕力は男に負けず劣らずだ。



当然(あたりまえ)だ。私の使命はお嬢様の安寧(あんねい)であり、エクティアス王家の繁栄(はんえい)。それ以外に私の使命はない」


「素晴らしい忠誠心だ。その忠誠心が、彼女の問題を解決する糸口になることを祈るよ」



 一瞬、眼光が鋭くなる。

 レノアの元に戻ることを優先し、怒りを抑え込む。



「……無駄口はいい。早く例のものを出せ」


「ハイハイ、これでしょっ!」



 そう言ってグレオラはある物を投げた。


 ある物とは、先程レノアの魔力測定に使った水晶。

 未だに微量の(あかり)が灯ったままの水晶を宙に投げた。



「『雷撃付与(サンダーエンチャント)』!」



 雷撃付与(サンダーエンチャント)は瞬発性と破壊力を増す雷魔法。


 (たずさ)えたレイピアを瞬時に抜き

 宙に放り出された水晶を貫き粉砕した。


 砕け散った水晶片が辺りに散らばる。



「これで私は『魔力測定中に水晶を壊した愚か者』として、お嬢様のいらっしゃるクラスに行けるのだな?」


「そういう筋書きにはしておく。ハーレット、君は彼女と違って実力を周りに知られすぎている。こうでもしないとDクラスには行けない。ただ、由緒正しいソラスト家がDクラスっていうのは、色々大変だと思うぞ」


「既に両親には話を通してある、貴様の心配するところではない」



 レイピアを地面に刺すと、雷撃は地面に流れ消失した。



「先に言っておく。Dクラスを担当するどこの馬の骨かもしれん(やから)を、お嬢様に近付けさせるな。全てにおいて妨げにしかならんからな」


「それはできない相談だ。仮にも君達のクラスを請け負う先生だからね。それに今年はっ」


「どこの誰だろうと、Dクラスを請け負う魔法使いな以上無能よりタチの悪い害悪に決まっている。いいか! 近付けるのが無理なら、せめてお嬢様に関わろうとするな。授業の問題を聞いたり、アドバイスや親身になって話を聞きに来ないように、徹底的に徹底的に教え込め。わかったな!!」



 言うだけ言うと、そそくさと魔法陣の元へと進んで行く。

 何とも自分勝手な行いだが、

 グレオラの表情はにこやかだった。



「必要ないとは思うけど、彼女の名前はベクター・シエルだ。もう一度言うよ、ベクター・シエルだ。万が一君が彼女の名前をポロリしちゃったら、今以上にソラスト家に泥を塗るから、気を付けてね」



 ハーレットは何も言わず、転移していった。

 誰もいなくなった部屋で

 グレオラは散らばった水晶を再生させた。


 その代わりに用意していた別の水晶を指先で回す。



「砕けたっていうのに、水晶はまだ彼女の魔力が灯ってる。これはどうみても『僕』や師匠と同じ……おっと、一人だと思わず僕になっちゃう」



 簡易転移で、魔力測定の用紙を取り寄せる。

 その用紙には今いた二人の他に11枚。

 合計で『13名』のDクラス生徒の資料を手に取った。



「先生の実力なら、魔法使いとしては一流になる。問題はその先、超一流に慣れる生徒は何人いるか。見込みのある子はいたけど、周り次第かな。それより……また師匠と屋根の下で暮らせるなんて、夢みたいだなぁ。時々授業を覗きに行こうかなぁ~」



 指の上を延々と回っていた水晶。

 それがまるで立体パズルのように崩れ()った。

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