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触ってますよ


 ロードはふかふかのお布団の中に入っていた。城へ戻った後はレオナの母親であるトレニアを含めて夕飯を頂いた。とても愛嬌のある人でロードに対して嫌な顔ひとつせず、レオナが連れてきたという点が気になったのか色々と質問をされた。


 今までどんな生活をしていたのか問われて素直に寝て起きて本を読んでいたと伝えたらニコニコと楽しそうに聞いていた。


 レオナは母親に似たんだとロードは考えた。そんな自分の父親ヴァンパイアキングがどういう奴だったのか記憶に残っていない。豪快な人だった気もするがもう数百年前も昔の話だ。ロードは夕飯に出てきた肉料理を思い出す。レオナも野菜のバランスがどうとか言っていたが明らかにお肉ばっかり食べていた。


 そこはロードと違いがないんだと思い出しながら笑った。


 吸血鬼と人間の間に生まれたダンピールのロードは他の人より寿命が長く色々な人を遠目に見てきた。人間は争いごとが多くて関わりを持っていなかったのだがレオナのおかげで悪くないと感じる。何より時折見せるレオナの笑顔をロードは気に入っていた。


 城に招かれてからは驚くことばかりだ。窓から見える景色はチカチカと輝いて美しく思う。木々に囲まれた森からは見えない一面で、アリシアという都市の技術力で生活の向上をその身で体感した。


 ロードの屋敷はお風呂で水は出るがお湯は出なかった。メアリに案内された浴場は広く温かいお風呂で体を流す体験にロードは驚いた。気持ちが安らぐ効果がお風呂にあることをもう少し早く知れれば自分の屋敷でも火を使って水を温めていたと思う。

 

 全ての機能を失った屋敷を今後どうしようかとロードは考えた。父親が残した財産を売ればそこそこ金になると思うが名残惜しい。それにまた魔力を注げば機械時計も動く可能性があった。


 レオナ達との会話で魔力を得るためには魔物から取れる魔核が必要だと学んだ。それなら棺桶から起きた時に大量虐殺した魔物達から奪っておけば良かったと後悔する。


 このオフィキナリスでは一定周期で辺りの魔物が全滅する。その周期が棺桶から目覚めたロードによるものだと誰も知らない。ダンピールの特性か太陽を克服し雑食のロードは普通の人間よりも頑丈で力持ちだ。夜ならそんじゃそこらの魔物は相手にならない。


 ロードはアリシアに行ったら魔力について詳しく知りたいと思う反面、レオナの不安そうな顔を思い出していた。一年前屋敷に来た時は笑顔の多い印象だったが、ここでは頻度が減っている。おそらく、オフィキナリスの厳しい状況がそうさせていると話を聞いて感じていた。


 街の人も笑顔ではあるが、どこか暗い印象をロードは持った。


 全員が笑えるような状況になるにはどうしたらいいのか布団の中で一人考えるも答えは出ない。


 棺桶とは違った包まれる寝具を堪能しているとロードは眠ってしまった。


 病に倒れる前のキングは北区を含めオフィキナリスの領土を広げて雇用を産もうとしていたがその案も滞っている。ステラもその考えに賛同しているけれど、手が回っていない。他の貴族も強力してくれているが根本的な解決には至らない。


 客室の扉がうっすらと開いた。さっと黒い影が揺らめいてロードの近くで佇む。


 スキル『影法師』でメアリが侵入していた。影に潜み移動する力でロードの前に姿を出す。監視対象が夜中何かやると踏んでいたのだが無防備に眠っていた。平和な国とはいえ、王女に近づく目的がメアリには分からない。狸寝入りの可能性を考えて影に魔力を込めて小振りのナイフを手にした。


 そして、殺す気で振り上げた腕をロードの顔面目掛けて振り下ろすと体が固まった。


 瞬きすらしてないメアリの前からロードが姿を消している。そして、耳元から声が聞こえた。


「驚いた。人間に襲われた事はないな」


 背後に立ったロードは右腕を胸の前に回してメアリの両腕を固定し左腕は首を握っていた。


「……私もこんな状況は初めてです」


 圧倒的な力で抑え込まれたメアリは身動きが取れない。先程まで握っていたナイフは気がつくとその手から離れて地面に転がり魔力を失って黒い影に戻っていた。


「説明してほしい」


 耳元で聞こえたロードの声にメアリは最後の抵抗を試みた。


 スキル『影法師』で影に身を隠そうとしても圧倒的な魔力の壁に阻まれて中に入れない。こんな経験したことないメアリは次の手に移った。


 相手の影を縛り傀儡のように動かそうとしたが全く動かない。メアリはAランクのソロ冒険者という実力を持っていたが今までこういう事は起きなかった。怪力を持つミノタウロスでさえ操った経験がある。


「そうですね」


 観念したのかメアリは抵抗をやめた。


「客人に対する無礼……申し訳ございせん。初めに謝らせて頂きます」


 ロードはじっと次の言葉を待った。


「レオナさまが貴方のような客人を招くのは大変珍しく。何か目的があるのかと思いお部屋にお邪魔しました」

「迷いなく突き刺す勢いに見えたんだが……人間ってそういうもんなのか?」


 人々の争いを眺めていた経験のあるロードは人間を理解しようとしていた。


「いえ、私の独断です。貴方を監視するように言われては居ますが王女の意思ではありません。私じゃ敵いそうもないので驚きました。貴方の目的……レオナさまに近づいた理由はなんですか?」


 抵抗さえ出来ないメアリは諦めつつ最後にロードへ尋ねた。


「目的? 俺にそういうのは無い。そうだな……今はアイツ――レオナの笑う顔を見るくらいしか楽しみが無い」


 ロードの言葉を聞いて暫く沈黙が続いた。メアリもロードの言葉を噛み砕くのに時間が掛かっている。王都オフィキナリスの王が倒れている現状に王女へ近づいた男の発した言葉は笑顔を見るため……色々と腹の中を探っていたメアリは自分に呆れた。


「ふふ。レオナさまが大好きなのですね。そうですねぇ……では私から助言を一つ。そういう仲でもない女性の胸を触り続けている姿をお嬢様に見られたら嫌われてしまいますよ?」


 ロードとの身長差も関係して拘束する腕がメアリの胸の前を通り反対側の肩をがっちりと掴んでいた。


「胸? あぁ、当たっていたな。別に危害を与えないなら離すよ」

「私に危害を与える意思はありませんよ。離して頂けると助かります」

「そうか」


 ロードはそっと両手をメアリから離した。抑えられていた喉を擦りながらメアリはお礼を伝えた。


「いいですかロードさん。今日の事は内緒でお願いします」

「別に構わない。そうだな……じゃ俺があんたの胸を触ったというのも内緒で頼む」

「あら、どうしてですか?」

「知られたら嫌われるんだろう? だったら知られないほうが良いんじゃないか?」


 メアリはロードという男がどういう人か少しだけ理解出来た気がした。純粋にレオナを慕っているだけで悪意は一切持っていない。何故この二人が互いに興味を持っているのかメアリは気になってしまった。


「では。お互い内緒で行きましょう。そうですねぇ、レオナさまに無理やり迫るのも止めた方がいいですよ。今日の感じなら大丈夫だと思います。あと、レオナさまは甘いものが好きです。覚えていたら良い事があるかもしれませんね」

「分かった。覚えておく」


 ぶっきらぼうだが素直なロードにメアリは気がつくと心を許していた。


「あと、私もレオナさまの笑顔は好きです。今はお忙しい時期でステラさまとの時間も少ないのですが王女達は仲が良いんですよ。産まれの問題もありますが皆レオナさまを見守っております。あなたも一応、形だけとは言え冒険者となりレオナさまに雇われているので危ない時は助けてあげてください」


「分かった」


 おやすみなさいと言いメアリは客室から出ていった。


 一人となったロードは窓から月を眺める。


「色々と難しいな」


 勢いに任せてメアリを殺しかけたロードが小さくつぶやいた。力加減を間違えていたらあのまま捻り潰していた事実に少しだけ反省してロードは眠りに落ちた。


 自室に戻ったメアリはロードの言っていた夜は凄いという言葉の意味を理解して少しだけ恥ずかしさを感じていた。あの様子だと太陽が落ちて発揮するスキルだと自分の中で落とし込んだ。


 自分と同じく夜に輝く力で勝てない悔しさを抱くメアリは引退しても根は冒険者だった。


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