暗い未来
三人で冒険者ギルドへ足を運んだ。依頼を探している人やロードと同じくこれから冒険者となる人が何人か居た。
受付のミシェルがメアリを見つけて声を掛ける。
「メアリ久しぶり」
「久しぶりです」
「ふぅ、王都を追い出されたのかと思ったけど王女様も一緒なのね。少しだけ安心よ」
「追い出されるわけないじゃない」
メアリは冒険者時代にやり取りがあったミシェルと雑談をしていた。暫く話した後に今日の要件を尋ねられロードを冒険者として登録したい事を伝えた。
「では、お名前を教えて下さい」
「ロードだ」
「ロードっと、よし。あとはこのステータスプレートをどうぞ」
金属の板にはロードの名前とオフィキナリスの印が刻まれていた。
「思ってたより簡単に終わったな」
ロードは金属の板を眺めながら言った。
「はい。オフィキナリスでは冒険者が魔物と対峙する事も少ないですからね。ジェネラルという国では研修もあるそうですが、うちではありません。依頼を受けて完了したら報告に来てくださいね」
ミシェルの説明にそんなものかと納得してステータスプレートを懐に入れようとした時にメアリがレオナに声をかける。
「ロードさんのスキル……気になりませんか?」
「確かに気になるわね」
じーっとロードを見る二つの視線に対して意味がわからないロードはステータスプレートを確認した。
スキル欄には『怠惰の日輪』と書かれている。
「もしよかったらロードのスキルを教えてくれないかしら?」
「これは……そうだな。日が出ている時はやる気が出ないらしい」
冒険者のスキルは様々で戦闘系を手にした者は魔物を討伐することだって出来る。男女の力量差を簡単に覆す事が出来るのがスキルという存在だ。人々の持つ魔力を元に氷を生成したり自身の身体能力を向上させることだって出来る。
そんなスキルとは掛け離れたやる気が出ないという説明にレオナが笑い出した。
「ぷっあははは! そんなスキル初めて聞いたわっ。ロードらしいと言えばロードらしいわね」
「そんな笑われるものなのか? あんたのスキルは何だ?」
「ふふふ。内緒」
レオナはそう言って人差し指を口元に寄せた。
「ずるいな」
「女の子は謎がある方が魅力だったりしない?」
「よくわからねぇ」
この話を聞いてメアリは安心した。強力なスキルでは無いならメアリの敵じゃない。
「まぁ、起きた時は基本やる気とかねぇしな。自分で言うのもなんだが夜は凄いぞ」
ばしっとメアリはロードの頭を叩いた。
「んぁ? なんだ?」
「突然こんな場所で何を口走ってるんですか?」
特に大きなダメージを受けた訳ではないがロードは理解が出来なかった。そんなロードとは違って突然の下ネタ発言にメアリは警戒する。夜は要注意だと判断して今夜お灸をすえると心に決めた。
「ロードが変な事を言ってた? 私も朝は起きた時はやる気でないわよ?」
「レオナさまは気にしないでください。さて、これで正式に冒険者となりましたね。次はどうなさいますか?」
レオナが雇う冒険者としての口実を得た後の予定は決まっていない。それでレオナはミシェルに依頼を見せてもらった。やはりというかレオナの予想通りで依頼は少なかった。
力に自信がある者ならば貴族や王族の護衛依頼を受けている。その他、補助スキルを持っている者は棚卸しや農業のお手伝いを受けて北区に向かっているだろう。中には第二王女のように自分の冒険者パーティを引き連れて各地に出現したダンジョンを攻略しているかもしれない。ダンジョンをクリアするとお宝を手にすることが出来て、物によっては高額で取引される。
オフィキナリス以外の国では主に魔物を倒し手に入る魔核と呼ばれる魔力が籠もった物を冒険者ギルドが買い取って報酬を得ていた。
比較的安全なオフィキナリスでは移住者が多く人口が増えている。技術を持っている者ならそれなりに仕事があるはずだが、現状は人手が余っている。
「特に急いで受ける依頼は無いわね」
「このオフィキナリスは平和ですからねぇ。強いて言うならアリシアで展示会があります」
ミシェルが取り出した依頼は都市アリシアで展示会があるというお知らせだった。主に報酬があるわけでもなく、アリシアから冒険者ギルドへの宣伝依頼である。
ボタンひとつで蛇口から水が出て夜も照らす事ができるのは全てアリシアの技術を輸入した結果である。
「明日行ってみましょうか……今日のところはこれで帰るわ」
「分かりました」
ミシェルにそう言って三人は冒険者ギルドを後にした。
「そのアリシアに行ったら何かあるのか?」
ロードの素直な疑問である。ロードは特に行く意味が分からなかった。そのままお城でゴロゴロと過ごして今朝レオナから受け取った本を読みたかった。
「この国は……そうね。私に手伝う事が無いからステラお姉さまにも自由にしててって言われて蚊帳の外なんだけど。この国は経済面で辛いらしいのよ。そりゃ食べる物はある程度自給自足で補えるんだけど他の国から魔石を購入しているのよね」
人口が増えているとは言え飢餓に苦しむ者は少ないという話をロードは聞いた。移住者の多い東区と産業盛んな西区を比較すると貧困の差が大きい問題をオフィキナリスは抱えている。仕事の量と人の数が間に合っていない。金銭的に問題を抱えている人には城から食料を最低限支給して命を繋いでいる。
オフィキナリスの現状としては他国へ物を輸出するくらいでしかお金を稼げていない。それ以外のお金の流れは自国の生産者と消費者の間で回っている。そういうお金の流れを俯瞰してみるとオフィキナリスのお金が他国へ流れている問題が一番大きいと説明するレオナに対してメアリが追加補足してくれた。
「ステラさまとルナさまも動いて頂いていますが時間の問題ですね」
「そうね。私にも何か出来る事があればいいんだけど」
人々の暮らしを豊かにしたアリシアの技術を維持するための魔石が圧倒的に足りない。職人が作った物を他国へ輸出するだけでは魔石の輸入代を補うことが全く出来ていない。
メアリの言った時間の問題とは、このまま魔石――魔力を輸入し続ける事で資金を減らし自国で回らなくなるという事だった。
このまま進めば贅沢品に使用するお金さえ不足して国民の生活が揺らいでしまう。
そんな説明をロードにした後は服を買いに行った。ロードは虫食い穴を卒業して初心者冒険者の安価な服に身を包んで時間が過ぎていく。
「暗いな」
「そうね。もう少し大通りにいけば明るいから」
三人は街を歩いて城へ戻っていった。