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到来


 オフィキナリスは国の行方を掛けた一大事業に挑戦する。


「出来れば世界中の魔石や魔核を集めたいねぇ」


 所長クロユリは何かを始めるにしても圧倒的に物資が足りない事を伝えた。


 現在、魔核の価値は意外と知られていない。オフィキナリスとジェネラル以外の冒険者は魔物を倒しても魔力が籠もった魔核を取り出していない。


 その理由は各地に現れた魔物を各国の冒険者が討伐しているが、アリシアの技術を導入している国以外で使用用途が無かった。


 魔核は違い魔石は王都ルーフェンでも冒険者が用いる防具や武器に使用するから高額で取引されている。


 呪い師としては魔石が無いと始められない。最優先事項はワープゲートの開発を共通認識として実際に手を入れるオフィキナリスでは建設事業が動き出す予定だ。


 実際に作る観光施設のイメージはレオナの中にしかない。オフィキナリスではレオナを中心に活動が行われる。


 ステラはまず予算の殆どを観光施設の開発費へと回した。その理由としては自分の事業拡大に関して今まで希望を出していた王族が身を引いて点が大きい。国策の観光施設に力を入れ始めた事で最初に想定していた以上の余裕が生まれた。


 アリシアも同じようにロードの遺品へ支払おうとしていた予算を開発費に使うことにした。


 技術革命のチャンスを掴むのに必死でロードの遺品から技術を吸収しオフィキナリスに全面協力の姿勢を貫く。


 誰よりも大変な役目を担うのはレオナだった。まずは自分のイメージを相手に伝えるのが難しい。慣れない絵を書き文字に起こして認識合わせに時間を使った。施設では五つのエリアを設定し各地のテーマを伝えてまるで別世界のような雰囲気を目指して作業に取り組む。


 そのテーマにあった商品開発にもレオナは引っ張りだこだった。


 そこで、レオナ一人の体では間に合わないしこのままでは潰れてしまうとロードに言われて体制も変わっていった。


 レオナと深く認識合わせを行った代表者を各地に配属して指揮を取ってもらうことにした。必ずレオナのチェックを入れて作業は進んでいく。


 ロードも手伝える事はレオナと共に行った。幸いオフィキナリスでは人手が余っており仕事が大量にある状況だ。国から出て危険に晒される必要も無く時には自分のスキルを用いて活躍する者も現れる。


 オフィキナリス内だけでもレオナは忙しかったが、一番時間を使ったのは所長のアリシアとの話し合いだ。


 レオナに技術の知識はない。どんな機能が必要なのかどういった器具を扱うのか細かく認識を合わせていく。


「もっと高さがあった方が刺激があると思うの。演出もテーマに合った物語を辿る感じで、最初は不安を煽るけど段々爽快に変わるみたいな。あ、でも第一優先なのは安全な事だからね? 大人も子供も簡単に楽しめるようなアトラクションを作るの!」

「注文が多いだろうとは思ってたけど骨が折れるさね」

「あー、クロユリさん。骨が折れたら大変だから! 安全第一だからね?」


 そんなやり取りも偶にしながら作業は進んでいく。


 一方、ワープゲートに関してはミゼリとドランが中心に開発をやっていた。ロードの機械時計に使われている金属から必要な鉱石を調べだし魔力伝達率の差を調べて居た。既にミゼリが一方通行のワープゲートは成功しているため、効率強化と利便性を求めて作っていく。特にドランは魔石加工が得意でミゼリの要望を聞いて仲良く手を入れていった。


 オフィキナリスで起きている事業は他国にも知られてドラン以外のドワーフも興味を持ち何名も建設に携わった。


 何より第二王女ルナが王族のレオン・ジュピターに何度も宣伝し王都ジェネラルでも話題となり出資を始めた。


 ジェネラルがオフィキナリスに興味を持ち始めると装飾類の技術に対して強い自信を持つ王都ルーフェンも後に続く。


 ルーフェンも自国の強みである装飾類をアピールする良い機会だと判断し職人が長い距離にも関わらず沢山協力してくれた。


 それから約半年程経ってワープゲートの目処が立った。手始めにアリシアとオフィキナリスで試験的に動かした。


 すると、魔核の価値が低い時期ということもあり約数百ペセタという低コストでの運用に成功した。距離や運ぶ対象の数と重さに影響を受けて消費魔力が変わるとミゼリ達は説明したが、これなら十分運用できると判断された。


 時間も流れてレオナの考えている世界観も担当の代表者に伝わりちゃんと形になっていった。姉のステラが時折レオナへ差し入れを持ってきて二人で美味しく食べながら楽しんで完成した。


 そんなこんなと開始してから様々な協力を得て約十ヶ月という時間を掛けてレオナの作りたかった観光施設――『リーブ』が完成した。


 この『リーブ』という名前の意味は本来通り平和の象徴だ。各国の協力を得て完成した魔物に襲われることも無い平和の世界を指している。


 試験も兼ねて最初の一週間だけはオフィキナリスのみ受け入れる事になっている。


 開演前日にレオナは最終チェックを終えて城に戻った。


「お疲れ様」

「ふぅー、やっと完成したわね」

「長かったな」


 始めるまでが本当に長かったとレオナはあの頃を懐かしく思い出す。


「スタッフさんの演技指導とか本当に大変だったんだよ? あとは……安全第一って言ってるのにアリシアの人が派手にしたいとか言って物凄い炎が吹き出したりして大惨事になったし! 意外と盲点だった音楽関係も最初から作ってもらったねー」


「そうだな。俺もできることを手伝ったけど、思ったより大変だったよ」


「うんうん。色々とお互い苦労したわね……さぁて。開園初日はありがたい事に予約も満員で暫くの間はそれが続くから運営さんも大変よ。この国が本当に大変なのはこれからかもね! それじゃ、今日も疲れたしおやすみ」

「おやすみ」


 レオナを見送ってロードは空高く舞い上がり王都オフィキナリスを空から見下ろした。


 ロードは屋敷で寝て起きる生活では知る由もない世界をこの約一年で経験することができた。


 なによりロードは隣でレオナの楽しんでいる最高の姿を見守れただけで満足度が高い。


 そういう事を思いながら感傷に浸っていると魔物を見つけた。


 オフィキナリスで魔物を見る事は殆どないという話を聞いていたがロードは今まで沢山の魔物を見てきた。ロードは棺桶で時間を飛ばして目覚めたら寝る前に辺りの魔物を殺していた。


 それが最近は魔物を殺すことも無かった。


「なんだか多いな」


 上からならよく見える。魔物の大群が真っ直ぐとオフィキナリスへ向かって進軍していた。


 このままだともう少しで魔物がオフィキナリスにぶつかってしまう。


 ロードは違和感を覚えた。


 魔物が急いで動いているように見える。今までそんな姿は見たことが無い。数十、数百と蠢いている魔物を初めてみた。


 様々な種類の魔物だろうがロードには関係ない。


 ヴァンパイア・キングの血を引くロードは凄く強い。Aランク冒険者さえ相手にならない彼は真っ直ぐと魔物に突っ込んだ。


 突然現れた来訪者に驚く暇を与えずロードは両手で魔物を惨殺していく。あまりにも弱い魔物達を殺し続けて気づいた事がある。


 ロードに驚くが臨戦態勢を取るわけでも逃げる選択を魔物が選んでいた。


 様子がおかしい……けれど、放置する訳にも行かない。このままオフィキナリスの邪魔はさせない。


 ロードは地面を蹴り勢いに任せて拳を振り上げた。か弱いゴブリンを殺し、筋力自慢のオークを殺し、素早さに特化しているウォーウルフを次々と殺した。すると、変化が起きる。


 知性の高い魔物であるミノタウロスが姿を現した。


 そのミノタウロスの体はボロボロで何かに襲われた形跡がある。


 やっとロードは気づいた。空からだと屋敷付近の森をよく見えていなかった。


 魔物たちは襲われて命からがらオフィキナリスへ逃げている。


 ロードの前に立ち塞がった魔物はミノタウロスを上から叩き潰した。


 魔獣ベヒモス。腕一つとってもロードより大きく四足歩行の凶暴な魔物だ。


 ベヒモスが腕を上げると地面は陥没し無残な姿となったミノタウロスが転がっている。


 次の標的であるロードへ向かってベヒモスが腕を振りかぶったが、ロードは躱して拳を叩き込んだ。


 力を込めれば簡単に魔物を粉砕していた一撃をベヒモスは振り下ろした右腕に受けたが衝撃で少し体制を崩しただけで終わった。


 今まで経験したことのない強さに困惑するロードだが有利に立つ為、真上に飛んだ。


 いくらベヒモスが巨大な魔物とはいえ空を飛ぶ力は持っていない。もし立ち上がっても相手の拳は届かない!


 オフィキナリスから魔物の大群を倒しながら、前に進んでいたロードは偶然にもベヒモスを足止めしている。気づくのが遅ければもっと近くで戦闘が起きていた。


 周りを確認しながらベヒモスを観察していると手の届かないロードに苛立ちを隠せないのかベヒモスは一度立ち上がり両腕で地面を叩きつけた。そして背中の分厚い毛を逆立てながら上空にいるロードを正面に捉えていた。


 何かするつもりなのは一目瞭然だが跳躍したとしても届かない。だから、ロードはその間にベヒモスをどうやって倒すか考えていた。


「……なんだあれ」


 ベヒモスの変化にロードは驚いた。巨体の周りを真っ赤な炎が突如いくつも出現して周りを照らしている。


 ロードは今まで経験が無かった。まるでメアリの様にスキルを使う魔物と初めて対峙した。


 ベヒモスが一度、深くしゃがみ込み勢いをつけロード目掛けて頭を振り上げた。すると、周りに浮かんでいた炎が球体となり空にいるロード目掛けて射出される。


 空中で止まっていたロードに当たるまで少しの猶予があった。目視した時にロードは羽を全力で動かして空を駆ける。ロードが居たであろう位置を性格に狙って飛んでいく炎弾は遥か彼方に飛んでいった。


 次々と襲いかかる炎弾を躱し続けるがこのままじゃ埒が明かない。


 超急降下でロードはベヒモスへと近づく。突如現れたロードにベヒモスは隙きが生まれていた。


 ただ、殺すためだけに振り下ろした拳へ力を込める。今まで魔物を簡単に倒していたロードが初めて繰り出した全力の攻撃をベヒモスの顔面に放った。


 顔面を殴られたベヒモスはそのまま上半身を大きく反らして体制が崩れた。浮いた両腕が重力に従い地面に着く前にロードは叩き込んだ。一撃、二撃と続けてベヒモスが思い通りに動かけないように……動かなくなることを願いながら動き続ける。


 地面を思いっきり蹴り勢いを乗せてベヒモスにぶつかり、背中の羽で空中でも体制を維持しながら放つ連撃にベヒモスは対応できていない。巨躯は速度が無くベヒモス自慢の攻撃力も当たらなくては意味がない。予備動作の時点でロードは潰していた。ベヒモスが振り上げた腕は振り下ろされる事も無く、ロードの攻撃は確かにダメージを与えていた。


 強靭な顎から見える牙は折れ攻撃を受けた腕は動きが鈍り。ベヒモスの抵抗も少なくなっていった。


 ロードは目覚める度にオフィキナリス領地に存在する魔物を一晩で全滅にしていた。


 そして、悠々と屋敷へ戻り本の続きを楽しみに棺桶で眠る。


 そんなロードは苦しそうな表情を浮かべて全身から大量の汗を流して、たった一体の魔物に全身全霊を尽くしている。


 ベヒモスが得意としている圧倒的な力で蹂躙する事が出来ず形勢不利な状況に、回避不能の超近距離でベヒモス自身を巻き込む炎を開放した。


 冒険者のスキルは魔力に依存して威力が変化する。大量の魔力を持つベヒモスがとった捨て身の一撃は爆音鳴り響かせてロードを吹き飛ばした。


 空中での制御を失い何度も地面にぶつかって数十メートル先で体が止まりロードの全身を激痛が襲う。


 土煙舞う中でロードはゆっくりと立ち上がる。


 敵対していたベヒモスは無理やりスキルを使った代償か腕は千切れ、腹部に大きな怪我を負い息絶えるのも時間の問題だった。


 もしも、ベヒモスがオフィキナリスを襲っていたら簡単に建物は崩され街は炎の海になっている。


「起きてて良かった」


 ロードが棺桶で眠っていたら起きた時に大変な目に合っていただろうと考えながらベヒモスが絶命する瞬間を見ていた。


 金盞花先生の続編を見ること無く終わっていたに違いない。


 程よく火の通った肉を食ってロードは城へと戻っていった。


 夜は凄い自信があったロードは体中の怪我を心配する。吹き飛ばされた時に羽で体制を制御できず出来る限り体を覆っていたが出血が目立つ。


 翌朝ロードが目覚めると怪我はすっかりと癒えて自分の凄さを再認識した。

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