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交渉決裂


 オフィキナリスとアリシアを往復するレオナは疲れて眠っていた。


 前日も夜遅く寝たので朝が大変だった。


 メアリが一度起こして服を用意すると目を離した隙きにレオナは寝ていた。もう少しーと呟いてお布団に包まるレオナをメアリは眺めていた。レオナのほっぺにつんと指を当てた後にメアリは自分のほっぺたを触った。


 まだまだ戦えると確信してメアリはレオナを放置した。


 出発はお昼なのでまだまだ休む時間はある。


 その間にメアリはステラの手伝いをしていた。ルナも明日からジェネラルの冒険者とダンジョン攻略へ出掛けると雑談をしてあっという間に時間が流れる。


 メアリはギリギリまで手伝いをしてレオナの部屋にへ向かった。


 レオナがまだ眠っていたら急いで支度をしないと間に合わない。


 予想通りレオナはまだ眠っていたので体を揺すって無理やり起こした。寝ぼけ眼を擦るレオナは寝る前に入浴を済ましていたのでお風呂に投げ込む事はせず服を脱がす為に立たせた。


 世の中には間の悪い人がいる。


 ちょうどレオナの服を脱がせて下着姿になった時に扉が開いた。時間が迫っている中で姿を現さないレオナが気になったであろうロードとメアリは目が合い、レオナは大きくあくびをして目を閉じている。


 ロードが何か声を発する前にスキル『影法師』で自身の影を実体化させてロードを雁字搦めに拘束し部屋の外に放り投げる。


 そっと扉を閉めてレオナに服を着せて髪の毛を櫛で梳かした。アリシアへ向かった。


 今回も何かあったらと考えて馬車のサイズは大きく前回と違ったのは広々と使えた。


 そして、三人はアリシアに到着してクロユリと話をするとレオナの要望通り……いや、それ以上の成果をあげていた。


 アリシアの協力の元、ステラを説得する最終兵器を携えて二つの大きな馬車がオフィキナリスに向かっていた。


 レオナの依頼した道具はとても大きく、用意した馬車一つでは足りず動かすためにも人員が必要だった。


 その為、クロユリとミゼリだけでは無く複数人の技術者と何故か王都ジェネラルでドーワフ武器工房という場所で主に鍛冶をしていたドランも合流している。


 クロユリ達はレオナと別れた後にミゼリをジェネラルへ送っていた。クロユリはレオナの依頼に注力しワープゲートの作成をミゼリが任されている。そして、ドランと会い相性も良かったのかドランがアリシアに泊まり込んでいた。


 ドワーフの特性として人間よりも寿命が長く見た目はミゼリと同じように子供の姿をしている。


 何も知らない人からだと子供が笑いながら遊んでいるようにしか見えない。


 しかし、ドワーフが積極的に手伝ってくれる状況はレオナにとっても良い風が吹いていた。


 興味があることにしか力を入れないドワーフ族は簡単に手伝うことは無い。それほど、ロードの代物とアリシアの技術にドランは興味を持っていた。何より自分が作る防具や武器に魔石を嵌め込んで新しい機能を付与できる点にドランは着目している。


 その為にもワープゲートが完成すれば簡単にアリシアとジェネラル間を移動することが可能になれば作業も捗る。


 様々な立場の利益が一致していた。


 昼頃に出発したがアリシアに到着するまで約二時間。そこから成果の把握や道具の運び出し、オフィキナリスへの帰路を考えたら日が暮れ掛けている。


「おはようメアリ」

「おはようございますお嬢様。そろそろ到着ですよ」

「うん、分かった」


 これだけ多くの人を巻き込んでレオナはアリシアに交渉した時よりも自信があった。


 姉であるステラを納得させて予算を宛てて貰いレオナの世界――観光施設をオフィキナリスへ作る。


 馬車がオフィキナリスに到着するとレオナはメアリに声をかけた。


「ルナお姉さまを呼んできて頂戴」


 メアリは誰にもバレないようにスキルを使ってルナを見つけた。そして、城の裏口に来るようにルナへ伝えてレオナと合流した。


 暫く待つとルナ率いるパーティメンバー含めて十人が姿を見せる、


「やっほー、可愛い妹が呼んでるって聞いたんだけど。何かな?」

「ルナお姉さまにお願いがあります」

「よーし、何か知らないけど手伝っちゃおうかな。今までにないくらい真剣な妹の顔を見ちゃったら……ねぇ?」


 ルナはそう言ってパーティメンバーの顔を見た。


 一際屈強な男のマイケルが力強く頷いている。


「さぁ、何をしたら良いのかな?」

「ありがとうございます。もう一つの馬車に様々な道具があるのでそれを南区に設置している間、アリシアから起こしくださった彼らを誰にもバレないようにして頂きたいです」


 西区は商業施設を中心に栄えており、北区は農産業。東区は主な移住者を中心とした住宅街が広がっている。


 しかし、南区は大きく決まっている訳でも無く広く使える。レオナはそこにアリシアから持ってきた道具を設置する事にした。


「ほほぉ。誰にもバレちゃいけないステルスミッションって奴かい。任せなさい!」

「頼りにしてますルナお姉さま。あと、私を見ていてください。合図を送ったら此方のクロユリさんにお伝え下さい」


 レオナはルナと合図を決めてクロユリの前に立った。


「ではアリシアの皆さん。宜しくおねがいします」

「あいよ。任せなさいな」


 レオナは準備した。決して一人の力で用意した訳では無いがステラ姉さまとの交渉を成功させる為に自分なりに頑張った。


 時間帯と準備を考えたら猶予は少ない。レオナは大掛かりな仕掛けの重さもあるのでロードにはクロユリを手伝ってもらうことにした。夜で無くても力持ちの彼が居れば日が落ちた今なら運び出すのもすぐに終わる。


「行くわよメアリ」

「承知いたしました」


 メアリにまずはステラの元へ行き話す機会を設けて貰った。忙しいステラも直ぐに行ける訳ではなく時間を指定された。レオナは事前に聞いていたクロユリの話を元に、準備も間に合うと安心して約束の時間が来るのを待つ。


 約一時間にも満たない待ち時間は直ぐに経ちメアリがレオナを呼びに来てくれた。時間帯は寝静まる程に遅くはなく、オフィキナリスの国民達は夕飯も食べ終えてゆっくりと過ごしているだろう。


 そんな時間にレオナはステラの部屋を訪れる。


「いらっしゃい。ごめんなさいね、やっと時間が作れたの」

「ステラ姉さま、此方こそ急にごめんなさい」


 ステラの秘書マリアが仕事を押し付けられてパンクしかけている間に交渉が始まった。


「さ! お話って何かしら?」


 ステラは目の下に隈を作っているにも関わらず気丈に振る舞う。


「前にステラお姉さまと話した公園についてです。あの後、色々と考えましたがやっぱり大人向けの公園は難しいと私も思い、別の事を考えました。でも、変わらないところもあり私はオフィキナリスに嫌な事とか辛い事を忘れてしまうような観光施設を作りたいです」


 真剣な眼差しでステラはレオナの話を聞いていた。


「その観光施設を作るには多くのお客さんが泊まれる宿泊施設を作る必要があります。それらを作るには多くの技術者を集めて時間を使う使わなくてはいけません。ステラお姉さまにはその為にもオフィキナリスの予算を宛てて欲しいです」


 ステラはレオナの言葉を聞いて色々と考えているんだろうとは思った。でも、前にステラが挙げた問題点についての話がまだ出てきてい無い。それにも関わらず自信が見える表情に期待を込めて訪ねた。


「レオナ。その話で一番大きな問題を忘れているとは思っていないわ。観光施設を作って安らぎの場をこの国で作れれば私も最高だと思うの。オフィキナリスの唯一無二の強みをアピール出来るし実現できれば日常がひっくり返っちゃうわ」


 ステラは一呼吸置いて核心を突いた。


「そのレオナが考える観光施設に起こしくださるお客様はどうやってオフィキナリスに来るのかしら?」

「はい。それは……アリシアに協力依頼をお願いしました。現在、アリシアでは一瞬で遠くへ移動できるワープゲートを開発中です。その技術があればオフィキナリスとアリシアを簡単に移動することが可能です。王都ジェネラルからも安全にオフィキナリスへ足を運んで頂けます」


 レオナが一人でアリシアと協力関係を結んでいる事実をステラは疑っていない。ここで嘘を言う必要は全く無いので本当に成し遂げた事に驚いた。


「アリシアからそんな話は聞いてないけど……よくあの所長を納得させたわね」

「私だけの力じゃありません。皆と力を合わせました」

「凄いことだわ。でも……」


 レオナの話は十分凄いが、ワープゲートの技術が確立された訳ではない。本当に国を安全に移動できる保証が何処にもない。

 

「レオナ。ワープゲートの話を聞く限り素晴らしい物だと思うけれど、まだ完成していないのよね?」

「……はい」


 技術は簡単には進んでいかない。アリシアとの取引はステラがまだまだ小さい頃から始まっていた。だけれど、簡単に温かいお風呂や火を使わない照明が導入されてそこまでの年月は経っていない。それにも関わらず明らかに飛躍した内容のワープゲートが完成するまで数年……数十年は掛かってもおかしくない。


 今はそんな未来に構ってる余裕なんてオフィキナリスには無かった。


「私の想いとしては首を縦に振りたいのだけれど。やっぱり、駄目よ。今はそれに構ってられないわ。そのワープゲートが完成した時にこのお話をしましょう?」

「ステラお姉さま……ごめんなさい!」


 決して絶望した訳でも無く諦めた訳でも無い。ステラの前に座っていたレオナが急に深々と頭を下げて謝った。


 ステラは驚いてしまったが、レオナが何に対して謝っているのか理解できなかった。


「急にどうしたのレオナ……」


 ステラが話し終わる前にレオナは右腕を真上に挙げた。その指は三本だけ指が立っている。


「えっ!?」


 状況が飲み込めないステラは後ろで立って見守っているメアリに視線を送ったが無視された。


 すると、ステラの耳に不思議な音が鳴り響く。甲高い音が聞こえたと思ったら何かが爆発したような音が連続で何度も炸裂した。


「え、え!? なに? どうしたの」


 魔物の襲撃か魔族の襲来か訳が分からない状況にステラは慌てていた。


 そんなステラとは違い、レオナは立ち上がるとその手を掴んだ。


「来て、ステラお姉さま」


 そう言ってオフィキナリスを眺める事が出来るように窓際に連れて行った。


 先程の甲高い音と一緒に明るい閃光が空高く飛び立った。そして、真っ暗な夜空に大輪の花が咲いた。


 一度や二度では無く、様々な色の火花が散り爆音と共に空を輝かせる。


 ステラも目を奪われてその様子をただ眺めていた。数分間アリシアの技術で作った景色を眺めていたステラは気づく。


 国民が大勢外に出てステラと同じ様に空を見上げている姿が城からよく見えた。


 こんな爆音を聞いてパニックに陥る国民も居るかと思ったがステラの目に見える範囲では静かに見ている。


 心奪われたかの様に美しい大輪を観賞していた。


 そして、爆音が鳴り止んだ。目に焼き付いた面影を追いかけていると遅れてもう一度何かが打ち上がった。


 また美しい花だとステラは思ったが今回は違う。全員がもう一度見たいであろうと思うタイミングで空には文字が描かれた。


「ステラ……オフィキナリス!? レオナ! どうして私の名前が空に!?」


 レオナが答える前にもう一度……最後の花が打ち上がる。


 それは平和の象徴と呼ばれる『リーブ』という花を模している。


 レオナが探してロードと出会うきっかけとなった花を最後に音は鳴り止んだ。

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