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サプライズ


 物事を円滑に進めるためには相応の準備が必要だと学んだレオナは部屋に一人で作業していた。


 都市アリシアでの成功はロードが起点を利かせて交渉手段を得れた点が鍵だった。


 ロードが父親の遺品を持ってこなければレオナ達の手段としてワープゲート作成のお手伝いをしようとしていた。ジェネラルに行き様々な魔石を購入しミゼリの開発支援をすることで有効な関係をゆっくりと築いていく。


 時間がどれくらい掛かるか検討もつかないけれど着実にアリシアと仲を深めれる。他国で生活する大勢の人々がオフィキナリスで休日を過ごして貰うだけでも計り知れない経済効果を生むとレオナは考えていた。


 ワープゲートに掛かるコスト次第だがオフィキナリスに住んで仕事等は他国で行う形も考えられる。


 しかし、結局のところはロードが自身の財産を手放すことでレオナが想定したどのパターンよりも良い結果をもたらした。


 レオナはロードに頭が上がらない。彼はレオナに時間さえ与えてくれていた。


 本来ならばワープゲートに費やすであろう時間を別にあてることができる。レオナがオフィキナリスに作る世界は全く固まっておらず、紙の上でペンを走らせていた。


 元々は大人が時間を忘れて笑顔に過ごせるような大きな公園を考えていたけど足りない。


 レオナの懐に入ったカードはアリシアの技術という大きな切り札だけど具体的に活かす方法も考えなくてはならない。いくらアリシアの技術といえど、何を作りどんな演出をするのか丸投げには出来なかった。


 レオナは老若男女が楽しめる空間作りを考えると大人向けの公園という選択がそもそも間違っていることに気づいた。


 既存の公園は子供向けで大人が遊ぶ事は殆どない。では、大人向けの公園を作ったらどうなるか想像すると子供が遊ぶとは思えなかった。滑り台を大きくして刺激的な物に変えたとして子供が遊ぶか? という点で考えると高くて怖いという理由で足を踏み入れないだろう。


 レオナそんなことを考えているだけで時間だけが過ぎていく。メアリが定期的に様子を見にきてレオナの要望を叶えていた。お手頃に食べれるご飯と飲み物を頼みレオナは自分と向き合う。


 メアリにとってこの姿のレオナは特に珍しい事では無かった。一人で部屋に引きこもりペンを握っている姿は記憶に新しく邪魔をすると明らかに不機嫌な顔をするので見守るだけにしている。レオナが引き篭もっているとメアリ自身も仕事が少なくなるので殆ど休暇のような日々が続くがレオナをお風呂に引っ張る時だけは大変だ。


 嫌がる王女をお風呂に連れて行くのは苦労する。


 そんなレオナが作業に没頭するとロードが訪れても心ここにあらずといった雰囲気になる。


「確か世界観を作ってるんだよな。今はどんな感じなんだ?」

「うーん。まだまだ分かんない」

「そうか」


 レオナの一生懸命な姿を見てロードも特に何かするわけでもなく部屋に入り浸る日さえあった。


 一日、二日と時間が過ぎてロードもレオナの部屋に訪れる事がなくなり、とうとうアリシアへ行く前日となってしまった。


 以前は暇つぶしのプロであったロードも棺桶が無ければ時間を飛ばすことも出来ず途方にくれる。


 今は客室のベットで眠っても同じ日々が続いている。既にレオナから受け取った本も最後まで読んでしまいロードでは今のレオナを助けきれそうにも無かった。集中しているレオナの邪魔をしないということも大切だと、メアリを観察して参考にしている。


「ロードさんは相変わらず暇そうですねぇ」


 客室の様子も見ているメアリが勝手に部屋の扉をあけてベットでだらけているロードに言った。


「やることがない。割とお風呂は気に入ったから時間つぶしに入るけど……あとご飯は肉が食べたい」

「暇なら働いたらどうですか? 一応、冒険者ですし……それと昨日のお夕食はお肉だったと記憶しております」


 一般的な冒険者ならギルドで依頼を受けて報酬を貰う為に日々、試行錯誤するがロードはそうじゃない。元々がなりたくて始めている訳でも無いのでどうでも良かった。


「元々俺は寝て起きて本を読むくらいしかやることが無かったからいつも通りだ」

「お嬢様と出会えたのが奇跡ですね」


 メアリは最近のレオナ事情をロードに暇だから語る事にした。


 レオナは雰囲気を大切にして目に入る物で世界を作ろうとしている。


 例えば木々一つ無い砂漠のような空間で廃れた建物を用意したら普段味わえない非日常感を演出できるんじゃないかなとレオナはメアリに言った。


 あとはオフィキナリスの北区から更に遥か先に行ったら海がある。水が流れる場所を作るだけでも海に行った気分を味わえるかも! というやり取りをメアリがロードに話す。


「お嬢様は見た目だけを綺麗にしても足りないと言ってました。もう一度、来たくなる要素が弱いらしいです。まぁ、私には分からないんですけど。ロードさんがどうにかしてくださいよ」


「俺にできると思うか?」


 ロードは素直に自分では解決出来ないと考えており、至って真面目に返事をしたつもりだったがそれを聞いたメアリは深い溜め息を吐いている。


「まったくロードさんもまだまだです。明日の休日は何して過ごそっか? と異性に訪ねて家でゴロゴロなんて答えはありえません。そりゃ、初めはいいですよ。何事も初めての体験だと上手く行くもんです。でも、毎日家でゴロゴロしてたら今のロードさんみたいに退屈じゃないですかぁ。人間は退屈になると死んじゃいます」


 メアリの言葉にロードは首を傾げながら返事をする。


「退屈になると死ぬのか……知らなかった。俺はどうすればいいんだ?」

「私が知る訳ないです。今日はゴブリン退治ね! 明日はオークを倒そうっ! くらいの小さな変化でいいんです。でも、今の例は参考にしないでくださいね。冒険者カップルくらいにしか効果がありません」


 ロードは少しの変化と言われてもピンとこない。メアリも冒険者にしか効果が無いと言っていたのでレオナと魔物を倒しに行くことだけは間違いだと考えた。


「難しいな……何も思いつかない」

「あらあら、ロードさん。そんなんじゃ女性に嫌われてしまいますよ。今日は自分が料理を振る舞うとか、一緒に散歩へ行こうくらいの小さな変化でも良いんです。ロードさんが好きな事を一緒にやるのも良いかもしれませんね」


「変化は少しでいいんだよな……俺はここで過ごすようになってお風呂は割と好きだな」

「ならお嬢様とご一緒に入浴したら楽しいに決まってます。ちなみに冗談なので本気にしないでくださいね。もしそんなことが起きたらクビが飛ぶと思ってください。しかも私とロードさんの合計二つも飛んでっちゃいます」


 つまり、他の事で変化をつけろってことだとロードは解釈した。何処かに出掛けるとしても行き先は思いつかない。むしろ、曖昧な事を言っているメアリを疑い始めた。


「本当にそんな小さい変化でいいのか?」


 疑いの目を感じてメアリは大げさに掌を両方口元に当てて大げさに驚いてみせた。


「今まで私がロードさんに送ったアドバイスで間違ってたことありますか?」


 その言葉を聞いてロードはメアリ襲撃の夜を思い出した。アレから気をつけているので今まで嫌われていない。


「間違ってないな……じゃぁ正しいのか」


 メアリは笑いをこらえるのに必死だったがそのまま手で顔を隠して難を逃れた。


「お嬢様は多感な時期ですからね。今は根を詰めて作業をなさっているので上手いこと息抜きをさせてあげてください。ロードさん良く思い出してください。お嬢様が喜んでいる姿を少なからず見ているはずです。その時に一つ手間暇を加えるだけでいいんです。そう……サプライズが重要です」


「サプライズ? なんだそれは」


 メアリは約一名、隠れて焼き菓子を用意し仲直りを試みるも失敗した人物を思い浮かべ記憶の片隅に押し込んだ。


「驚くような思いがけない事ですよ。この前クロユリさんにロードさんの私物を披露した時のようなびっくりです。相手が喜ぶような事じゃないとそれは失敗ですから気をつけてください。出来れば人と被らないようなお嬢様が想像できないけど、ちゃんと喜ぶことでお願いします」

「無理難題ってやつだな……レオナを驚かせばいいんだよな。そして、喜ぶという条件がついてくる」


 メアリは頷きながら両腕を組んでロードの様子を眺めていた。オフィキナリスで過ごすお嬢様の笑う顔が最近増えているとメアリは実感している。その原因は明らかにロードの存在が大きいと思っていた。姉達に気を遣い一歩引いていたお嬢様が最近は他の王女と同じくらい前に出て活動をしている。


 メアリの考える第三王女レオナが喜ぶであろうサプライズとしてロードを送り込もうと企んでいる。


「とりあえず、雰囲気は掴んだ気がする。俺は夜の方が凄いから今夜試してみるよ」

「ロードさんは力が強いですからね。あの日は思った以上に私も自信を無くす夜だったんですよ。自分の部屋に戻って枕を濡らしたくらいです。翌朝も思い出して濡れるくらいには衝撃でした。なので、お嬢様を……えーっと、赤ん坊……いえ。綿毛です。ふわふわの綿毛を潰さないような力加減で丁寧に扱ってくださいね」


 自信を無くしたと言ったメアリについてロードは考えた。元々は冒険者で相当な実力者だと話を聞いている。あの夜は手加減を間違えていたら殺していたので圧倒的な力の差を実感したんだろうとロードは答えにたどり着く。


 そして、ロードが繰り返さないように至れり尽くせりなアドバイスを伝えてくれた。


「メアリ」

「にゃ、なによ!」


 メアリはロードから初めて名前を呼ばれ、あまりに急過ぎて口が回らなかった。


「アドバイスありがとう」


 メアリへ向けられたロードの顔を見てメアリはそっぽを向いた。


「それくらいお安い御用よ。それじゃ、明日の昼にはアリシアに向かうからね。夕飯は部屋まで持ってくるわ」

「分かった」


 スキル『影法師』でメアリは誰も見られること無く自分の部屋に移動した。誰も居ない一人部屋で小さく呟く。


「ちゃんとできるじゃん……サプライズ」


 お夕飯の支度までメアリはゆっくりと休みを取った。

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