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失敗作


 三人はステラの部屋に到着すると甘い匂いが漂っていた。ロードの存在に一度だけステラはメアリを見たが当の本人は目が合うとそっぽを向いた。


「ちょうど私もお話があるの」


 そう言ってレオナが椅子に座った。


 ロードはメアリと同じように立って眺めている。


「レオナからでいいわよ。何かしら?」


 レオナは東区に大きな公園を作りたいという内容の話をステラにした。


 真っ直ぐとステラはレオナの目を見て真剣に話を聞いて口にした答えは一つ。


「駄目よ」


 先程までキラキラとした目で語っていたレオナからしゅんと笑顔が消える。


「そうね……まずは何から話そうかしら……」


 ステラは見るからに落ち込んでいる様子のレオナへ丁寧に伝える。


「前提として今ある公園は子供向けでレオナが言いたいのは大人向けの公園なのよね?」

「うん」


「ちゃんと土地はあるわ。何倍も大きな公園を作る事は可能よ……でも、それは今じゃなくても良いでしょう? この国が経済的にも栄えて人口が増えた時に大人も一緒に子供と楽しめる施設を作っても良いわよね」

「前と比べてオフィキナリスには色んな人が住んでるよ。あと……公園を作ったら雇用も増えるし」


 人手は増える一方だが仕事の種類が少ない現状を考えると公園を作ることで一時期は経済効果があることをステラも十分理解していた。


 完成したら働き手に必要なのは次の仕事だ。そして、レオナの言う公園を作るには資金が必要になる。


 その資金を国の予算で負担するとしても結局は現状の先延ばしでしかない。


「レオナが私達の為に考えてくれたのは理解出来ているの。でも、今のままじゃ駄目よ。公園が完成した後はどういう想像をしているの?」

「他の国の人達も遊びにこれるような感じにしてオフィキナリスでお買い物して貰えたらいいなって思ってる」


 魔物に襲撃される前例が無いオフィキナリスでは他国と比べて農業と畜産は栄えている。食料面に関しては他国より強みと言える。その結果、飲食店のレベルは十分高いとステラも認識していた。食が強みとはいえ、他国からそれを目当てに訪れる者が現状少なかった。


 そもそも魔物討伐の依頼を出さないオフィキナリスに冒険者が遠征しないという単純な答えが出ている。


「他国って言ってもアリシアに行くのに数時間掛かるのは知ってるでしょう。一番近い国はジェネラルだけど倍以上の時間が掛かるのよ?」

「そこは……冒険者さんに護衛してもらうとか」


 主な移動手段として現状は馬車しか無かった。その馬車にも乗れる人数は限られており一度で数百名を動かすことは出来なかった。何頭も引き連れた大型の馬車でさえ三十人前後が限界で荷物を考えると更に人数は減ってしまう。


「人数が多かったらそれに応じて冒険者にお願いしないと行けないわね」

「……うん」


 レオナは自分の考えが足りない事をステラと話して再認識した。問題だらけで大きな公園を作って観光地とする方法は雲行きが怪しく実現するには深く考えないとスタート地点に立つことさえ出来ない。


「レオナの着眼点は本当に素晴らしいのよ。他国の人々が笑顔で訪れる国はまだこの世界に存在しないわ。もしも、それが実現できればオフィキナリスは安定した国になるけど難しいわ。大きな壁が沢山あるの……何かをやるにも予算をひねり出す必要があって結局のところ足りなかったら税金を上げないと駄目ね。その負担は何処の誰でもなくオフィキナリスの国民が強いられるのよ」


「ごめんなさい」


 レオナは何気なく歩いていた公園も同じように誰かが沢山考えて作られた物だと改めて思い知らされた。今の国が便利になっているのも国王――キングが判断して周りの者を納得させて作り上げている。


 それでもオフィキナリスには足りない。今更アリシアの技術を手放す停滞の道は選べない。


「レオナが色々と考えてくれてるのは嬉しいわ。でも、私に任せてレオナは好きな事をしなさい」


 姉の妹を想う心は簡単に伝わることはない。


「嫌……嫌よ! そうやって私だけ除け者にするの? ステラお姉さまもルナお姉さまも国の為に毎日頑張ってるじゃない! それなのに私だけ何もしてない……」


 レオナは大人気無く子供のように大粒の涙を零しながら声を荒げてしまっていた。


「そうじゃないの。面倒事は私に任せてレオナに悩んで欲しくないだけで……」

「私も……ちからになりたいのに……」


 レオナの声は段々小さくなり俯きながら立ち上がって部屋を飛び出て言った。


「……はぁぁぁ」


 出ていった妹を見てステラは脱力し大きな溜め息を吐いた。


「もー、お姉ちゃん失格ね。メアリ……任せていいかしら」


 メアリは頷いてレオナの後を追いかけて行った。


 一人残されたロードを見てステラが呟く。


「客人に見せられない姿を見せちゃったわね」

「俺は別に気にしない」

「そう……あの子が懐いてるみたいだし助けてあげて」


 メアリから情報を得ていたステラもロードを警戒していない。忙しい自分じゃ出来ない事を素直に頼ろうと思っていた。


「分かった」


 ロードもレオナの元へ姿を消した。


 一人ポツンと取り残されたステラは目を閉じてもう一度大きな溜め息を吐いた。


 ステラは自身の考えが悪いのかもしれない。レオナはステラの姿を見て、自分も力になれないかと考える良い子で全ては頼りない自分の不甲斐なさを痛感する。


「お父様のように上手く立ち回れれば……」


 ステラが深呼吸して頭を切り替えようとしたらノックする音が聞こえた。その音で目を開けるとそこには第二王女のルナが立っていた。ショートカットのプラチナブロンドで冒険者特有のレザー装備を身に纏っている。


 ロードが外に出て扉が開きっぱなしだった。


「やっほー。レオナの声が聞こえたけど喧嘩でもしたの? あと、知らない男の人がいたわ」

「お帰りルナ。そうねぇ……やっちゃったわ」


 傷心状態の姉の隣にルナが座った。


「喧嘩は良くないよー。あ、そうだ。ダンジョン攻略して二千万ペセタ稼いで来たわ。ジェネラルの冒険者は強いね。危なげなく攻略できたよ。次は何処かな? あと、戦闘系の新人くんも居たりしない?」

「それも考えないと行けないわね。後で調べるから……これ失敗したんだけど食べる?」


 そう言ってステラは自作の焼き菓子を机から取り出してルナに披露した。こっそりメアリに作り方を教わり材料を買ってきて貰っていたが日の目を見ることの無かった失敗作。


「焦げてるところもあるんだけど……ふーんお姉ちゃんが作ったんだー」


 口に放り込んでバリバリとルナが平らげて感想を言った。


「見た目通りちゃんと失敗してるね」

「えぇ、見て分かってたけどそう言われると悲しいものね」


 ステラも一つ手に取り食べた。


「あの子が作ったなんて知らなくて同じように感想を言ったの。それで自分でも作って謝ろうとしてたんだけど失敗した」

「なるほどねー。上手く行かないことだらけだ! あ、お姉ちゃんの秘書……そうマリアさんが悲鳴あげてたから助けに行ってあげて」

「そうだった……時間を作るために無理やり仕事任せてたんだ……行ってくるわ。ちなみにレオナの作ったやつが何百倍も美味しかったのよ」

「えー、ずるーい」


 勝ち誇ったような顔をルナに見せてステラは秘書の元へ向かった。


「さてさて、妹のところに行こうかなー」


 ルナも立ち上がりレオナの部屋を目指した。


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