空想論
レオナは自分の部屋に戻ると椅子にロードを座らせて自分の考えを整理し始めた。
「大人でもびっくりするような物が良いわよね」
そう言いながらレオナは紙とペンを用意した。
「びっくりって具体的にどういうこと?」
ロードの抱いた疑問に答える事が出来ずレオナは唸っていた。
「すぐに答えは出ないわね。まずはそうねぇ……既にある公園から考えていきましょう」
そう言いながら公園と紙にレオナは書いた。
「小さい子は滑り台とかで滑ってるわよね」
「俺が見た時は砂で何か作ったり高い所に登ったりしていたよ」
ありきたりな光景をレオナは思い浮かべて少しずつ出てきた物を紙に書いていく。ブランコや鉄棒を思い出してドンドン紙を文字が埋めていった。
「お花とかで彩りを飾っている公園もあるわよね。うーん……見た目を豪華にしたらいいのかしら」
「どうだろうな……公園で遊んでいるチビが花を見てるようには思えない。あ、思い出した。仲の良いチビ同士が走っているだけでも楽しそうだったぞ」
「走るだけ……?」
レオナはそもそもハードルの違いに気づいた。自身も活発に体を動かすタイプでは無い。
外を走って楽しいと感じるかを想像すると息が切れて苦しんでいる自分が浮かんだ。
そして、大人が公園で遊ぶのか記憶を掘り起こすと自分の子供と遊んでいる大人の姿を思い出した。決して自分がメインでは無くその子供が公園で遊んでいるのを見守っている。
そう言った点から公園で遊ぶのは子供で大人は遊ばない。
子供は大きくなるにつれて公園を卒業していく。
「大人は公園で遊ばないし……どうしたらいいんだろう」
「レオナは公園でいつまで遊んでいたんだ? 俺は遊んだことがないから参考になれない」
レオナは自身の経験を振り返る。
「姉さま達と……そうね。ミゼリちゃんくらいの時は遊んでいたかな?」
「それでなんで今は遊んでいないんだ?」
ロードの質問にレオナは直ぐ答えきれなかった。なので、暫く考え込んでいる。
「紅茶をお持ちしました」
メアリが扉を開けてレオナ達へお茶菓子と共にカップを用意した。
「ありがとうメアリ」
「お熱いのでお気をつけください。では、失礼します」
そう言ってメアリは居なくなった。
レオナはカップに手を伸ばして香りを嗅いだ。そして、ゆっくりと息を吹きかけて飲んだ。
「ステラ姉さまは……忙しいから遊ぶ事も無くなっていったわね。ルナお姉さまは外の国へ出かける事が多くてあんまり顔を合わせないし」
「みんなやる事があって公園では遊ばなくなるんだな」
国民も仕事に精を出したら公園に立ち寄る事も少なくなるだろう。
「今日の紅茶はいつもと味が違う気がするわね……甘さが強いわ」
ロードもその声を聞いて一口飲んでみた。
しかし、城で紅茶を飲むのも二回目なので違いが分からない。
「俺には違いが分からん。というか前に飲んだ紅茶を覚えていない」
「私は慣れてるから気づけたのかも」
慣れていても少しの変化で驚きは起きる。レオナは紅茶を飲み干しながら考えていた。
「公園にある滑り台を大きくしたら珍しくて子供達も喜んでくれるかな」
「そういう感じで大人も楽しめる公園にするのか……今のサイズは意味があるんだろうか?」
レオナは大きくて長い滑り台にしたらもっと子供達も笑顔になると思ったが違う視点で気づいた。
「危ないんじゃない? あと、怖いかな? ほら、高い所って怖い時もあるわよね?」
「俺は感じたことないな」
「えー、難しいわね……私は高いところで足が竦むわよ」
「そうなんだな」
落ちるかもしれないと考えるだけで恐怖を感じる。そういう危ないところにレオナは行かないから日常で感じる事が無く忘れていた。
レオナはふと小さい頃にキングが肩車してくれた事を思い出す。その時の記憶でレオナは笑っていた。
「ちょっとだけロードにお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「えっとね。ちょっとだけ恥ずかしいんだけど。肩車をさ……してくれない?」
「うん? 肩にレオナを乗せればいいのか?」
「そう、試しにね」
レオナはそう言いながら座っているロードの前に立った。
ロードは人を肩にのせた経験は無いから渋々腰を上げて言った。
「触っても……怒ったりしないか?」
神妙な顔つきのロードにレオナは笑ってしまった。
「そんな事で怒らないわよ。私を何だと思ってるの?」
「そう……か」
ロードはレオナの後ろに回って膝を曲げた。そして、右肩にレオナのお尻を乗せてそのまま立ち上がる。
「わっ。思ってたのと違うけど……高いわね」
ロードは背が高くレオナが腕を上に伸ばせば天井にだって手が届きそうだった。そんなレオナが落ちないように右手で腰を支え左手で足を掴んだロードが質問した。
「高い所は怖いんじゃなかったのか?」
「ふふふ。そうね。でも今は視線が高くて楽しいわ。あと、ロードが支えてくれているんですもの。私は知ってるのよ? 井戸の水を汲む時に私が頑張っても出来なかったのにロードは軽々と引っ張っていたものね。そんなに力持ちなら落ちることもないわ」
「そういうもんか」
高さを堪能したのかレオナはロードに下ろすようにお願いした。そこでロードは左手で掴んでいた足を離して上に少しだけジャンプする。ふわっとレオナは空中に飛び上がり小さく悲鳴をあげた。そして、下への落下が始まる。
視界の中で髪の毛が重力に逆らうのと同時に受け身を取れないと判断して全身を恐怖が襲いかかった。
「どうだった?」
ロードの声が耳に入った時には両手で脇から抱えられゆっくりと床に足が乗った。
そして、涙目になったレオナがロードを睨みつける。
「ばかー! やるならやるって言いなさいよ。本当に落ちちゃうかと思ったじゃない」
「びっくりしたか?」
「当然よ。心臓がきゅってした。次やったら怒るからね?」
「俺は力持ちらしいから安心しろ。それにしてもレオナは簡単にびっくりさせる事が出来るもんだな」
ロードの悪戯心で試した実験は大成功だった。
「急に来たら誰でも驚くわよ……もう」
それから暫く二人は話し合いながら紙にペンを走らせていた。
結局のところやりたい事が思いついても、どうやって実現するのか答えが出ず途方に暮れかけていると入り口が開く。
「お嬢様。ステラさまが呼んでいます」
「ちょうど良かった。私も姉さまにお話があったの。ロードも連れて行って良いのかしら?」
メアリはロードを一度見てレオナの顔を見た。
「はい。大丈夫ですよ」
メアリの独断で許可を出して三人はステラの部屋へと向かった。




