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第7話 「其方を自由にするよ、アンナマリー」

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「それでは、おやすみ。よい夢を見てくれ」


マイクの電源を落とし、レオンハルトは小さく溜息をついて目頭を押さえた。

ちょうど配信が終わるのを見計らったかのように、スマートフォンが着信して震える。


発信者は筧将生(まさき)。杏奈の上司だ。


(何用だろうか?)


訝しく思いつつ、スマートフォンの画面に触れて電話に出る。


「よお、今日も配信お疲れさん。それと、喜志を助けてくれてありがとうな」

「こちらこそ、杏奈の危機を教えてくれてありがとう。少しは彼女の役に立てたようだ」

「ああ、あいつが感謝していたよ」

「杏奈が……」


もごもごとお礼の言葉を口にする杏奈を思い出すと、胸の中に温かなものが宿る。


初めてアンナマリーの役に立てた。

ようやく、「守ってもらうばかりの王子」から変われたのだと実感できた。


(積年の夢が叶ったのだな)


――愛する人を守れるようになりたい。


そう願い続けたから与えられた機会なのだろうか、アンナマリーは神官たちが発動させた魔法のせいで生まれた魔力の歪により異界に転生してしまい――、結果として騎士ではなくなった。


アンナマリーが目の前から消えて以来、暗闇の中を歩き続けるような絶望を味わっていた。

大魔道士や他国の大賢者と呼ばれる者たちを集めて調べさせ、国中の書物を読んでアンナマリーの元に行くことができる方法を探し出した。


それは、異界への転生。


レオンハルトは神官たちの暴動を制圧し、王国の平和を維持するための法を見直してから弟を後継者に選んで惜しまれつつ退位した。


そして、イシュヴァンタインの前王は人知れず異界へと旅立ったのだ。


異界にたどり着いた時に彼は赤子になっており、ベッドの上に寝かされている状態から始まった。

アンナマリーがどこにいるのか分からずひどく落ち込んだが、彼女に出会うために必死で勉強して世界中を旅して探し回る準備をしていた。


様々な国を巡り、日本に来てようやくアンナマリーとの再会を果たしたのだ。


(杏奈の幼い頃も見てみたかったな)


アンナマリーは赤子の頃から知っている。

父王の護衛騎士だったエーレンフェスト卿に強請って見せてもらったのだ。

銀色の髪と水色の瞳を持つ赤子のアンナマリーは天使のように可愛く、一目見て虜になった。


そんなレオンハルトの様子を見た父王とエーレンフェスト卿が密かに話を進めて、アンナマリーはレオンハルトの護衛となるべく育てられた。


(私のせいでアンナマリーは不自由な一生を送った)


他の令嬢たちを見て羨むこともあったであろう。

だけどアンナマリーの人生は王子の剣として仕えると決められており、刺繍を嗜む時間さえ与えられていなかった。


そんなアンナマリーは成長して美しい女性となり、縁談がいくつも持ち上がる。

中には彼女を妻にして王子のレオンハルトに取り入ろうとする輩もいた。

いずれにせよ、アンナマリーを求める男どもには強い殺意を覚えていた。


政治的な立場から、レオンハルトはアンナマリーを妻に迎えることはできない。

そのジレンマと苛立ちを、穏やかな笑顔の仮面の下で静かに募らせ続けていたのだった。


(今は煩わしいしがらみは無いが、どうも上手くいかないものだな)


今のレオンハルトは王子という肩書きが無く、杏奈にも騎士という肩書きはない。

身分の壁がなくなったのが嬉しくて子どものようにはしゃいで杏奈に話しかけたが、再会した杏奈は自分から逃れようとしていた。


「……結局のところ、私は煩わしい存在に変わりないのだな」

「王子サマ? どうした?」

「いいや、なんでもない。また連絡しよう」


通話を切り、窓の外を眺める。

眼下には宝石をちりばめたような美しい夜景が広がっている。


その様子が、前世の祖国で行われていた祭りの夜と似ている。

幾度となく女神に祈り続けていた時に見た、あの宵闇なのだ。

果ての無い闇の中に、胸の中に大切にしまい込んでいる願いと想いが引きずり込まれて沈んでしまったような、そんな虚しさが胸の中を支配する。


「私が望めば望むほど、其方を不自由にしていたのだね」


初めて出会った時からずっと心の中に居る、眩くて美しい、最愛のひと。

私の所為で自由を奪われ、普通の幸せを手にすることができなかったのだから憎まれて当然なのかもしれない。


「其方を自由にするよ、アンナマリー」

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