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第6話 「ちょっと見直しました」

「筧さん~! 車両点検で電車が遅延しているので商談に間に合わないです!」


電話口の向こうで筧さんがう~ん、と唸っているのが聞こえてくる。

これから大手取引先との商談があるというのに、このままでは約束の時間になるまでに辿り着けない。

同席する予定の筧さんは別件で外出していたこともあって先に到着しているけれど、肝心の資料は私が持っているのだ。


(ああ、こんなことになるなら直行していればよかった)


少しでも仕事を済ませておこうと欲張ってしまった自分を叱りたくなる。


「とりあえず、俺がトークでつないでおくからタクシーで来い」

「ううっ。すみません」


べそべそと泣きたいところだが、それは商談を終えてからだ。

今はとにかく、先方のオフィスに辿り着かねばならない。


電話を切って配車アプリを押そうとしたその時、目の前に大きなバイクが現れて停車した。


(え?! 何事?!)


突然のことに驚いて茫然としていると、バイクから降りた運転手がヘルメットを外す。

さらり、と金色の髪が揺れてヘルメットから零れた。


「レオンハルト様?! どうしてここに?!」

「マサキから連絡があったから来たんだ。今ならまだ間に合う」

「え?! 筧さんにはさっき電話したばかりなんですけど?!」

「こうなることがわかっていたらしい。まるで魔導士のようだな」


と、雑な纏め方をしたレオンハルト様はヘルメットを座席から取り出してかぶせてくる。


「杏奈、後ろに乗ってくれ。私が目的地まで送り届けよう」


私がレオンハルト様の後ろに乗ると、両手をレオンハルト様の腰に回すよう誘導される。


(い、意外と筋肉がある……!)


腕に当たる筋肉にドギマギしている間に取引先のオフィスに辿り着いた。


「商談が上手くいくよう、遠くから杏奈の事を想っているよ」


私のヘルメットを外すレオンハルト様の手が、髪を優しく梳き流す。

その手の感覚が遠い昔の記憶を呼び覚ました。


それは私が、アンナマリー・エーレンフェストだった時の記憶。

まだまだ幼い子どもの頃に、剣の鍛錬でお父様と勝負をした後にボロボロに負けて惨めな思いをしていた時のこと。


レオンハルト様は私の元にやって来て、ぐしゃぐしゃになった髪を整えてくれた。

ごめんね、ごめんね、と何度も謝りながら。


(思えば幼い頃のレオンハルト様は、気弱だけど優しい性格だった)


私が怪我をすればなぜかレオンハルト様が泣き出してしまっていたのだ。

それほど、他者を思いやる方だったのに……。


『アンナマリー、君が傷つかないように、僕はもっと強くなるよ』


あれはいつのことだったのだろうか、レオンハルト様がそう誓って以来、彼は今の腹黒い性格になったような気がする。


「……ありがとう、ございます」


ぎこちなくお礼を言うと、レオンハルト様は緑色の瞳を細める。

まるで眩しいものを見つめるような、そんな眼差しで。


なぜか、そんなレオンハルト様の姿に、幼い頃の優しいレオンハルト様の姿が重なった。


「……ちょっと見直しました」

「うん?」

「な、なんでもないです。あ! 商談行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


こうして私は無事、商談に間に合って筧さんと一緒に新商品のプレゼンを行った。

幸いにも先方のバイヤーが気に入ってくれて、予想の二倍ある受注数を提示してくれたのだ。


そして夜になり、私はベッドの上に転がってレオンハルト様のチャンネルを覗く。


「アンナマリー、今日も見てくれているか?」


画面の中に映っているのは三角形のぴんと立った耳をつけている王子様のような服装のイケメンのキャラクターのイラスト。

王子様の声に合わせて動く顔は精巧で、本当に彼が話しているように錯覚してしまう。


「……見ているけど、面白くなかったらすぐに止めるから」 


そんな呟きを画面越しに聞いているかのように、目の前の偶像はやわらかに微笑んだ。


杏奈がレオンハルトの筋肉にドギマギしている時、レオンハルトもまた、ドギマギしていました。

(※何にドギマギしていたのかはご想像にお任せします)

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