ババア
ケイが毎日迎えに来てくれてることに、態度は男友達のようなのに行動は女性扱いで戸惑いを感じていたが、それもケイが就職する4月になったら自然と終わるだろうと、そのままにしておいた。
自分が勘違いしていると思われたくないので、努めて女らしい振る舞いはしないように気を付けていた。食事を誘ったら断られたので、学生でそんなにお金ないし、スキーにお金も掛かるものねと思い、それもしなくなった。
ケイは、送るだけで家に着く僅かな車中の時間に、今日あった私の仕事の話を聞きたがった。友人の中で一番年上だろう私に社会人としての心得に興味があるのかな。お姉さんみたいに慕っているのだろう。それにしても年の離れた姉だなぁ。ひょっとして年の近い叔母!?スキーチームにどんどん若い女の子が入ってきて、その気持ちを強くさせた。
スキーチームに若い女の子のメンバーが増え、それまで男扱いされていた私はババア扱いになっていった。男扱いには慣れていたがババア扱いには慣れず、少なからず傷付いていたが「どーせ、ババアですよー」と開き直っていた。
特にリーダーのダンは私が軽口を言うと「ババアは黙ってろ。」や「今のは女の子へ言ってるのであってババアは該当しません。」「リフトはババアと乗りたくない。」など冗談だろうが、そんなことを言われていた。
私は言われたくないので言われる前に自分から「ババアだから」と発言するようになり、それは口癖になっていた。自分で「ババア」と言うようなると気が楽になり、スキーチーム内での自分の年齢が高いことを自虐的ネタにするようになっていった。
山スキーへ行った昼食に、大テーブルへチームで座った時、ダンが私の年齢ネタが始めた。ダンを中心に新しいメンバーが私を嘲笑した。旧メンバーは私に対する優しさがあるので、年齢のことを言われても痛くはないが、ダンと新メンバーの親しくもないのに蔑むような言葉は痛かった。
それでも笑いながら受け答えをしているとケイの次に親しくしているオカが「俺は全然そうは思わない。リカはチョーカワイイ。」と言ってくれた。私は照れてしまったので「ありがとうオカ君!でも、どうせババアだから。同情ありがとう!」と手を祈るように組み合わせ言った。それを聞いた皆は笑い、オカは「あ、そうすか」と呆れ顔をした。ケイは隣のテーブルに座っていて話には参加していなかった。
私はオカに悪いと思い、オカが他の人と二人乗りリフトへ乗ろうとしたのを「ちょっとオカ君と一緒に乗りたいから」と割り込んだ。リフトに乗ると「オカ君、さっきはありがとうね。嬉しかったよ。それを茶化してしまってゴメンネ。可愛いなんて言われての久しぶりだから照れた。」と謝った。
オカは「あー、いーよ。俺ああいうの嫌なんだよね。スキーするのに年齢とか関係ないじゃん。それにリカは誰よりもスキーが好きじゃん。チャラチャラして男に媚び売ってスキーしてる女と一緒にするな、とムカっときたんだよね。」と答えた。
その日、帰りの高速は渋滞していてドライブインで夕食を食べることになった。ドライブインのレストランは空いていて一角をチームで占領し、ケイは私の隣に座った。食事後、何かの話のきっかけでダンが「リカはメールの返信が悪いよなー。」と言った。
私はチームメンバーが増えると共にメール数が増えて、スキーの約束以外の返信しないことにしていた。友達が欲しくてスキーをしてるわけではないし。そんな説明は面倒臭いので「あーババアだから携帯でのメールは苦手で入力が遅いのよ~。みんなごめんね~。」と答えると、ケイが「自分のことババアって言わないの。」と言った。
私は懲りずに「だって本当のことでしょ。」と戯けて言うと「俺はそう思ってないのにムカつくんだよ!」と凄んで言われた。私も皆も驚き、その場がシーンとなった。するとケイは「みんなゴメンゴメン。」と困り笑いをしながら手を合わせ謝り、私へは「リカ、もう自分のことババアって言っちゃダメだよ~。」と言った。私は体を小さくして口を尖らせながら「はい、ごめんなさい。」と返事した。って私が「はい、ごめんなさい」ですって?どうしてしまったの私?と自分に疑問を感じた。
その日から誰も私の年齢をネタにすることはなくなった。
私はオカとケイにスキー友達から友達への感情を持つようになった。ケイが迎えに来てくれることへ懐疑心はなくなり好意的に受け取り、純粋に感謝するようになった。