弁明は聞きますが、それとこれとは話が別です
荒い呼吸だけが、静寂の中に響く。
「おい、どうしたよ。まだたった五分だぞ」
勢い任せの攻撃は見る影もなく、すでに相手からカウンターに切り替えている。
息を整えようとしてはいるが目の前の圧がそれを許してくれない。
自分は成功者であると妄想し続けている男は、勝つための方法しか考えていない。
しかし男の硬直しきった脳が、勝つための方法などという柔軟な発想をできるはずもなく。
勝ち筋も、勝利のための方程式も見いだせずいたずらに時間を消費し続けるだけだった。
[なんで勝てないか、まったくわからないのか。お前は俺が持ってないものを持っているっていうのに]
「なん、だと?」
事実リーダ-はオリジナルスキルを持っている。
それを使えるからこその一撃必殺パーティーに成り下がってしまったのだが。
スキルの効果は単純、チャージ後のダメージを初撃に限り四倍に上げるというものだ。
それ以外育てなかったのが、リーダーのミスである。
一枚しかない手札の頼りなさを実感したことがなかったのだ。
そして今この時、やっと痛感したのだ。
だがもう遅い、結果は見えた。
上しか見ずに来た男は自分が堕ちる瞬間を自覚した。
だが、不幸はここで終わらない。
「どきなさい!!」
後衛だったっ治癒術師が杖を下段に構えて、駆けてきたのだ。
「『神聖なる致命打』」
地面をすり抜け、男の股間を強打した。
疲労困憊の男は防御もへったくれもなかった。
そしてじわじわとく痛み、声にもならない絶叫が体育館中に響いた。
扉を開くと男が正座させられていた。
「えっと、なにが?」
「しつけですが」
杖が軽く床をつく音がする。
たったそれだけで、この中にいる男性のすべてが内股になる。
それだけで察した。
「ひどいことしますね」
「しつけは、獣と一緒に暮らすためには必要なことですから」
「暮らすんですか?」
「少なくともご近所さんには、食って掛からない程度にはしつけないと私たちの評価がこの男と同列に扱われてしまうではないですか」
「あ、そうですね」
「東雲の方には悪いと思いますが、獣から人に戻すのは並大抵の努力ではないのです」
なので、といいながら杖を男に向ける。
「なぜあんなことをしたのか、聞かせてくれます?」
杖を向けられて、慌てたように繰り出される言い訳は聞くに堪えないものであり、
「もういいです、あとは彼らに」
開いた扉の向こう側に、いる黒服の方々にひぃとこぼしたのは誰だっただろう。
「た、助けてくれぇ!」
黒服に、引きずられるように連れていかれる男に向かって、
「お前のせいで苦境に立たされた子たちがいるんだよ。お前にはその百分の一でも理解してもらわないと、割に合わないだろ」
無慈悲に突き放した。
男には誰だよそいつら?!とのたまっていたが、男のパーティーには彼女たちの事が耳に入っていたようだ。でなければそんな青い顔はできないだろう。
「伝えなかったのですか?」
「つ、伝えたって俺たちを殴るだけだ」
「じゃあ、あなたたちは自分の保身しかしなかったと」
「ほかにどんな方法がった?!」
「真実を協会に伝えていればよかったんですよ」
「俺たちは、あいつに何一つ勝てなかった!!あれでもリーダーで俺たちはあいつのサンドバックでもご機嫌取りの機械でもない。でも」
「殴られてでも、正すべきだったんですよ。彼を何一つできない無能にしたのは、あなたたちの恐怖心そのものです。だから」
謝罪くらいしてくれますよね、と言っただけなのにそんなにおびえる必要ありますかね?
弁明は聞きますでも謝罪をしないことにはなりませんよね。
あなたたちのパーティーは、しばらく活動できないんですから。