心を折るのは何も悪意だけではありません
翌日、目を開けると見慣れた天井が見えた。
ここが自分の部屋だという認識はあれど長い髪となくなってしまった自身の分身が今の状態が現実を伝えてくる。
頭が抱えながら、気が付く。
自分が制服からパジャマに着替えていることに。
誰が?まあ決まっている。
「あら、起きてたの?着替え持ってきたけど、手伝いいる?」
そう言って、見せてきたのは下着である。
ため息ひとつつきながら、両手を上げて降参の一言を伝えた。
こういうときの母に逆らうのは無理だと、十数年の付き合いでわかっているのだ。
無事着替えを終え、朝食を食べ、買い物に行くことになった。
流れるように行われ、正気に戻った時には、すでに車中の人だった。
「そういえば買い物って、なにを「あなたの、着替えよ」いや持ってるし、「ダーメ。女の子になったんだから、可愛らしい格好をしないと。それに制服に体操服に水着に」まって、なんで制服?」
まるで、
「かもしれないけど、用意だけはしないとね」
ショッピングモールにつき、車から降りる直前、何か嫌な予感がしたので
「付与:認識阻害ランクC」
美人に付きまとうのは面倒ごとだ。特に自分のような、無意識に無防備になりやすい存在は。
それをつぶす意味でも、振り返られるような美人から、アニメでよく見るモブ程度に認識を抑えた。
かかるコストは、15秒=МP/時間である。何時間になるかわからんが、とりあえず一日分かけておく。
魔法が起動した直後から、いやな予感が消える。
何かに見られていたのか、それとも何かが起きてしまいそうだったのか。
どちらにしても、魔法少女の洗礼をこんなしょっぱなから浴びせられた気分だ。
「それだけ出来たら十分よ、さあ行きましょう。時間は有限よ」
そういいながら手を引いてくる母に、懐かしさを覚えながらついてゆく。
向かうは、母の知り合いの店だというがどんなお店なのだろうか、聞いておけばよかっただろうか?
いや無駄だろう、母に聞いたところでその微笑みのままにはぐらかされるだけだろうから。
店についたとき理解した、ここにいる全員が母の親戚だと。
見た目が似ているいないではなく、あれよあれよという間にうむを言わさず、下着類計上下合わせて十数枚、私服二十数着、学校関連の服各二種、ついでにプライベートの水着というところで、やっと待ったをかけた。到着してから一時間ほどの事である。この畳み掛けるような一連の行動がそっくりなのだ。
話術と畳みかけで、もはやうなずくだけのマシーンになりかけていた。
可愛いい、キレイがゲシュタルト崩壊しかけるような、そんな状況。
認識阻害効いてないのかと思えば、母含めてほぼ全員看破持ちとか何それ聞いてない。
母が会計を済ませているのを店の外で待っていると、
「大変ですね」
多分親戚のだれかの娘さんが声をかけてきた。
「もう母の行動で驚いても仕方ないとそう納得することにしました」
「あ、大丈夫です私も聞いているので」
「気が付くと山でガチキャンプとか、いつの間にか海に行くことが決まっていたり、友人込みで」
なお、うちの車が七人乗りなのはそれが理由でもある。
「かなりアグレッシブなんですね。私の母も、同じくらいアグレッシブな人ではありますが」
「いや、まああの性格だからこそ、俺は愛されてるんだなって肌で感じるんだ」
「素敵なお母さんですね」
少しためらうようにして、
「魔法少女なんですよね」
「ええ、悪名の多い」
「もし、第十三支部に、行くことがあったら「第十三支部?」いいえ、気にしないでください。ほらお母さんが来ましたよ」
「桜ちゃん行くわよ~」
ちなみに高槻桜は彼女の新しい名前である。
苗字は月に叢雲から、名前は木花咲耶姫からである。
そのまま、引きずられてゆく。
第十三支部、たった一言がいつまでも頭に残り続ける。
なおこの後、親戚ラッシュ二回戦、三回戦が開催される。
帰り際の彼女の目は、死んだ魚の目をしていた、とはとある店員談である。