カッコいい眼帯 イオル視点
(んーっと、櫛と整髪料は買うでしょ。あ、手鏡! これも買っておかないと!)
とりあえず目についたもので必要そうなのを手に取っていく。
ジンさんとユーンにはちょっと買い足したいものが〜なんて言ったけどそんな余裕はない。
(明日はしっかり朝に起きて身だしなみを整える!)
これに尽きる。
いや、確かに私は朝は弱い。それどころか日中も結構眠い。今日も文字通り半分寝て歩いてた。まぁそれは元々やってたしジンさんに能力のことを教えてもらって長年謎だった私の能力【人魚】がイルカというジンさんの地元にいる動物だと言うこと、そのイルカと言う動物の能力を複数使えるから体への負担が大きいのではないかということ。そのイルカは私がやってるみたいに片目を閉じて半分寝るということができるのだと言うことを教えてくれた。
だがそれは置いておくとしても今日の朝は失敗だった。
知り合ってパーティを組むことになったその次の日にいきなり寝坊をかましたのだ。
おまけに
(寝起きの、しかも目やにとヨダレの跡がついた顔を見られるなんて…。髪もぐしゃぐしゃだったし昨日部屋に戻ったらそのまま寝ちゃってたみたいで着替えてすらなかったしぃ〜…。)
その上食欲に負けてすぐに立ち直り、ご飯のおかわりまでした自分に呆れる。
立ち直りの早さは私の長所だけど短所でもあるのだ。
その失敗を取り戻すってわけじゃないけど今日は頑張った。
エコーロケーションって言うのを何回もやって魔物を探したりゴブリンやオークと戦った時もちゃんと戦力になれたと思う。
(まぁ耳のいい動物や魔物は逃げちゃってたんだけど2人にはちゃんと説明してるし。)
超音波、つまりは人には聞こえないくらい高い音を出してその音の反射とかで生物を探すのだけど耳が良かったり警戒心が強かったりする魔物は逃げるのだ。
(あ、そうだ。ジンさんが言ってたおもいっきり超音波を当てると魚を気絶させられるってやつ。せっかく川に行って魚を獲ったのに試してなかったな。)
まあそれはまた今度ということにして、それよりも今は明日の朝の準備に集中だ。
(いっそのこと今夜は半睡眠にして覚醒状態でいるとか。ってそれなら寝坊はしないけど身体もたないよねー。これは最終手段にしとこう。一応化粧品も見ておこうかな、目の隈とか顔色とか誤魔化す用に。)
後ろ向きな考えで化粧品がある棚を目指す。
化粧品には高価なものも多いけどさっき少し見た時には私でも手の届きそうなものもいくつか置いてあったはずだ。
目当ての棚に向かうと商品を見るでもなく難しい顔をしたユーンが立っていた。
「ユーン? どうしたの?」
「ああ、イオルですか。大したことはありませんよ。化粧品を買おうと思ったのですが何を切らしていたか思い出していただけです。」
私に声をかけられたユーンはなんでもないことのように手を振って答える。
「なーんだ、そんなことかー。あって困るものじゃないんだしとりあえず買っちゃえばいいんだよ。」
「…それもそうですね。余ったらイオルに押し付ければいいですし買ってしまいましょう。」
「押し付けるって言い方悪っ! でもくれるならもらうよー。」
気安いやりとり。うん、別に深刻な悩みとかではないっぽい。
「ふむ? 本当に使うのですか? ではいくつか試しに買ってみましょう。」
「あ、そだ。隈隠し用の化粧品とかってあるのかな? ユーン、化粧品詳しいでしょ?」
そういうとユーンが驚いたような顔をする。
「まさか買うのですか? 今まで私があげたものをたまに付けるくらいだったあなたが?」
「うっ、い、いいじゃん。」
「それはもちろんです、少し驚きましたが。では簡単なものから説明しましょう。」
「お、お願いします。」
「そういうわけなので隈隠しならそれ一本あれば充分だと思われます。」
「なるほどね。じゃあこれ買ってみる。」
最初から色々選んでも仕方ないからとユーンのお化粧説明会は短めだった。
「ええ、しかし隈隠しとはいえやっとイオルが化粧に興味を持ちましたか。さすがに寝起きの顔を父親以外の男性に見せるのは恥ずかしかったと。」
「う、うん。せめて最低限の身だしなみくらいはして部屋を出ようかなーっと思いまして…。」
「良い心掛けです。寝る前に桶に水を入れて部屋に置いておくようにすれば洗面所まで行かずとも整えられるでしょう。」
「あー、そっか。じゃあ女将さんに言って水汲ませてもらうよ。さすがユーン。助かったよー。」
「いえ、そういえば眼帯はあったのですか?」
「んーん、まだ。今から聞きに行くとこ。」
「そうですか。先程話したのですがジンさんももう少し見て回るそうなのでゆっくり聞いてきてください。」
「はーい。じゃあまた後でねー」
「ええ、また後で。」
ユーンと別れると店員さんを探しにいくことにした。
「眼帯、ですか。ありますよ。」
「本当ですか⁉︎」
店員さんを捕まえて質問中。先に話していたお客さんはもう帰った後みたい。
「ええ、医療用の白いが少し。ちょっと持ってきてみましょうか。」
「お願いします。」
「はい、ではお待ちくださいね。」
店員さんが店の奥に向かい、しばらくすると2つの箱を持って帰ってきた。
「お待たせしました。これが医療用の眼帯になります。」
そう言って置かれた箱には少し濁ったような白色の眼帯が入っている。
「あー、これですね。なるほどー」
うん、これは間違いなく眼帯だ。漁師のカイさんが前に片目が真っ赤になったって言ってつけてたことがある。
でもなぁ…
「…あんまりカッコよくない。」
「えっ?」
「あ、いえ、何でもないです。」
つい口に出してしまった。
昔見た時にはちょっとカッコいいと思ったはずの眼帯が現物を見るとなんかくすんで見えるのだ。
記憶が美化されていたと言うことだろうか。
(でもわざわざ探して持ってきてもらったわけだし買わないと悪いよね? そんなに高いこともないだろうけどいらないもの買うのってやだなぁ…。)
仕方なく箱に手を伸ばして適当に一つ選ぼうとしたところで店員さんが持って来たもう一個の箱に目が行った。
「あの、そちらの箱は?」
「あ、これですか? これは医療用の眼帯とは違うんですけどね。」
そう言って箱を開けると中には茶色いものが入っていた。
「これも眼帯なんですけど魔物の皮で作られてるんですよ。」
「えっ、カッコよ…。」
「はい?」
「手に取って見てもいいですか⁉︎」
「え、はい、どうぞ?」
店員さんの許可を得てそれを箱から取り出してみる。
「…手触りもすごくいい。」
「あ、そうでしょう? 何でもかなり高級な革鎧に使った素材のあまりで作ったらしいんですけどその分高級感があるんですよ。貴族の食事会にも着けていけるようになんて言われて私の夫が仕入れたんですけど顔に怪我をした貴族がそうそう人前に出ることはありませんからね。不良在庫になって私のお店の方で売れないかなんて言うんですよ。あ、夫っていうのは隣の武器屋を経営してるんですけどね。」
「これ買います。」
「え? この眼帯をですか?」
やはりブライダさんの奥さんだった店員さんは私のいきなりの購入宣言に驚いたらしい。
「はい、買います。おいくらになりますか?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね。…えっと、大銀貨3枚になりますけどよろしいですか?」
さすが高級革鎧に使う魔物の素材だけあって高い。これだけの面積で大銀貨3枚だと完成した革鎧はどれくらいしたのだろうか。
だが
「はい! 大丈夫です!」
即決即断だった。




