不良在庫と人見知り
引き続き武器屋で商品を物色している。
「すみません、これが欲しいのですがおいくらになりますか?」
「あん? なんだアンタ。買うのか?」
「ええ、はい、そのつもりですが何か問題があるのでしょうか?」
「いや、そういうわけじゃ無いがこのナイフは魔物の解体とかに使う用だぞ? 料理とか細工用ならこの隣に雑貨屋があるからそっち行ったほうが良いぜ?」
「ふむ、お隣は雑貨屋さんですか。では後でそちらも覗きに行って見ましょう。ですがこれはこれで必要ですので購入したいのですが。」
俺が特に目ぼしいものを見つけられないまま店内をうろうろとしている間にユーンさんは買うものを決めていたらしい。
カウンターの上には大ぶりのナイフが置かれている。
「まぁ欲しいってんなら売るけどよ。こいつは解体用としては上物だから銀貨で15枚だ。」
「む、やはりそれくらいはしますか。ですが今後のことを考えるとそう高い買い物でも無いと思いますし…。ジンさん、どうでしょうか?」
ユーンさんたちのやりとりを聞きながら真っ赤な槍を手に取って見ていると意見を求められた。
「解体用のナイフ? そうだなぁ…。」
(今日の依頼の報酬が1人につき銀貨3枚とユキノシタの買取額が銀貨22枚だから合計で銀貨31枚。約半分か。)
「うん、必要なものだししっかりしたものを選ぶのは良いと思うよ。魔物の解体に関しては現状、ユーンさんの経験頼りだからユーンさんが使いやすいと思ったのならそれでいいんじゃないのかな。」
「そうですか。ではこれを買っておくことにします。他にも買うものがあると思うので精算は後でまとめてお願いします。」
「おう、わかった。」
ユーンさんは店主に向き直ってそう伝えるとまた商品を見定めに行く。
俺も自分の武器探しに戻る。
それと入れ替わるようにしてイオルが矢を抱えて持ってきた。
「店主さーん、弓矢ってまとめて買うと割引効くんでしょ? これ、全部で20本だよ。」
「ああ、20本なら大銅貨30枚だが。あー、待て。ずいぶん短いのばっかり持ってきたな?」
「あ、うん、自分で選んだんだけどダメだったかな?」
イオルはちょっと心配そうに聞く。
「いや、選ぶのは良いんだ。それに短い矢以外は曲がってんのばっかだっただろ?」
「あー、そうそう。ちょっと反ってたりしてるのが多くて。私じゃまっすぐ飛ばせそうになかったから省いちゃった。」
曲がった矢か。それ需要あんのかな?
「そりゃそうだろ。あんなもんまともに飛ばせるやついねぇよ。」
やっぱり需要無いのか。
「えー、じゃあなんでそんなの置いてるの?」
「いやな、ウチとしてもわざわざ置いてるわけじゃ無いんだよ。矢は工房で作ったやつをまとめて買い取るんだがその中には長さが不揃いだったりするのが混じってるんだ。まあそれは多少なら見逃すんだが材料の木がまだ乾いて無いまま作って納品しやがるやつもいてよ。そういう矢は木が乾くと曲がっていったりするんだよ。」
「うわ、ひどい。」
「だろ? でもウチとしてはちゃんと作られてる矢と同じ金額で仕入れてるわけよ。で、他の矢と同じとこに置いとくわけだが客側としてもそんなもんは欲しくねぇ。みんなより分けて長さが均一で反りの無いものを買っていく。その結果不良品が残って行くってわけだ。」
店主が不良品って言っちゃったよ。
「アンタが持ってきたのだって基準の矢よりもだいぶ短い売れ残りだ。今度の土曜日にはまた新しく矢を仕入れるからそん時に買いに来た方がいいぜ。そんな短い矢じゃ大して弓も引ききれないぞ。」
「…うん、ありがと。でも私はこれでいいや。」
店主の説明を聞いたイオルはそれを聞いた上でそのまま会計を求める。
「おいおい、そんな急いで矢が必要なのか?」
店主が驚いたように尋ねる。まさか今の説明を聞いてもこれを買うとは思ってなかったようだ。
「んー、まあそれもあるけど、私が使うのって弓じゃなくて漁具のボウガンだからこれくらいの長さがあれば充分撃てるんだー。」
「漁具? なんだアンタら漁師なのか? そうは見えないが。」
店内にいる俺たちを見回して聞いてくる。
「ううん、私はちょっとだけ漁の手伝いしてたこともあるけど今は冒険者。」
「おお、そうか。って、いやどっちにしろ冒険者にも見えねぇよ。3人で組んでるのか?」
「うん、昨日結成して今日も採取任務行って来たとこだよー。」
「おー、新米か。それにしても漁具を武器にする冒険者ってのも珍しいな。魚相手に使う用ならともかく通常の弓とかよりも威力は落ちるんだろ?」
「それはどうしても仕方ないねー。でもその分取り回しはしやすいよ。あとハンドル式じゃないと私の力じゃ弦も引けないんだー。」
「ああ、ハンドル式っつーとあれか、なんかグルグル回して弦を引き上げるんだろ? 確かにあれなら力に自信がなくても使えそうだな。まぁ装填に時間かかるってのはあるだろうが。」
「そうそう! すっごい頑張って巻いても15秒以上はー」
「…なんか盛り上がってるなぁ。」
イオルは店主さんとすごい楽しそうに喋っている。
「ああ、イオルはあれくらい年齢の離れた人の方が話しやすいみたいなんですよ。あれで結構人見知りするので。」
ふらっと横にやってきたユーンさんが俺の独り言に反応して教えてくれる。
「へぇ、そうなのか。ってイオル、人見知りとかするの? すごい意外なんだけど。」
「しますよ? 特に同年代の男性に対しては顕著ですね。人見知りしてる時は大して使えもしない敬語で話そうとするのでよくわかります。」
そう言われて思い出してみる。
…言われてみれば昨日ダイアスたちと行動してる時のイオルってだいぶ口数少なかったっけ?
盗賊との戦闘の報告の時にすごい喋ってたけど、あれ以外だと話しかけられたら答えるくらいであとは相槌打ってるか黙って聞き役に徹するかだったような。
「多分ですが育った環境のせいでしょうね。周りの男性は年上の漁師ばかりだったので同年代の男性から話しかけられるのに慣れていないのでしょう。」
マジかー、じゃあ昨日タイルとロンが一生懸命話しかけてたのってイオルからすると対応に困ってた可能性があったのか。…タイル、ロン、ドンマイ。
…ん?
「でもユーンさん、俺は昨日イオルの方から話しかけられたんだけど? それに最初から敬語じゃなかったよ?」
「おや、そうだったんですか? イオルから話しかけるとは珍しいこともあるんですね。」
「まぁ俺が最初の依頼が無効になったもんだからそのままカルノ湖で釣りをした時にでかい魚の取り込み手伝ってくれただけだけどね。俺が困ってたから声をかけてくれたんだと思うよ。」
「ふむ。それでも珍しいと思いますが。」
「まあ実際、6歳も離れているし話しかけやすそうだったのかも。」
「ジンさんの見た目からそれを予想するのは難しいと思いますけどね。初対面なら私と同い年と言われても信じると思いますよ?」
「ははは、お世辞がうまいなぁ。」
「ふふ、お世辞のつもりではなかったんですけどね。」
2人で談笑しつつ、ガチャガチャと剣や槍などを手に取ってみるのだった。




