頂点捕食者
腹ごなしを済ませ、川で串に使ったボウガンの矢を洗う。
「ちゃんと再利用するんだな。」
「うん、全部で5本しか持ち歩いてないからね。」
「少ないな。それだけで大丈夫なのか?」
「一発装填して撃つのにも時間かかるからあんまりもってても重たいだけなんだー。だから普通の矢5本とロープ付きの矢1本だけしか持ち歩いてないよ。」
そう言って腰に付けてある鞄を叩いてみせる。先程魚を獲る時に使った矢は細いロープが繋がっておりそのロープごと鞄にしまってあるらしい。鞄を開いて矢を番えればそのまま撃てるらしい。うん、カッコいい。
「それじゃあ魔物を探しに行ってみようか。できれば1匹でいるのを狙いたいんだけど」
「うん、任せて! 探せると思うから。」
元気よく返事をしてくれるイオル。
「ちょっと待ってください。」
だがユーンさんから待ったが入る。
「たとえ1匹だとしてもオークやオーガなどの大型の魔物はまず避けるべきです。中型でも魔物によっては毛皮が分厚く、イオルのボウガンでは一発で倒すのは難しいでしょう。多少数がいても良いので確実に仕留められるものを狙うべきかと。」
ユーンさんの言い分は確かだ。魔物にも種類によって強さなどはあるだろう。流石にオーガとかを狙う気はなかったがいくら不意打ちができるとしてもダメージが通らないなら意味がない。
「そうだね、じゃあ目標変更。ボウガンで確実に致命傷を与えられそうな魔物でなるべく数が少ない魔物にしよう。」
「そんなので良いの?」
「うん、今回は別に討伐依頼を受けているわけじゃなくて魔物を倒せるかの実験だからね。無理をする必要はないよ。そうだな、ゴブリンとかが一番良いのかな?」
「はい、ゴブリンは少しすばしっこいですが大した力も無い魔物なので初心者にはおすすめとされています。ただ討伐報酬が安く、使える素材も無いので人気はありませんが。」
だがそれを聞いてイオルは不満げに言う。
「えー、ゴブリンって魔物の中でも最弱って言われてるんでしょ?初めて魔物と戦うんだしせっかくならもっと別のが良いなー」
俺がこの世界で唯一戦った魔物のゴブリンだがやっぱり弱いらしい。
「…イオル、あなたの言うようにゴブリンは最弱の魔物と呼ばれることも多いです。ですがゴブリンは群れでいることが多いので油断はできません。1匹1匹は人の子ども程度の力しかないそうですが数で囲まれてしまえば危険なのは変わりありません。…そして毎年、特にゴブリンを舐めてかかった新人冒険者に少なくない犠牲者が出ています。どんなに弱いと言われていてもゴブリンが人肉を食う魔物であることは間違いないのです。」
背中がゾクリとした。そうだ、魔物が人を襲うのは食糧にするためだ。彼らにとって人間は獲物でしかない。俺たち人間が頂点捕食者ではないのだ。
「そう…よね。ごめん、調子に乗ってたかも…。」
「いえ、わかってくれれば良いんです。冒険者なら魔物と戦うことになるのは避けては通れないでしょう。ですが私はこの2年間、魔物討伐に行ったまま帰って来なかった冒険者の方を何人も見てきました。魔物に全滅させられたパーティは遺体すら帰ってきません。あなたはそんなふうにはなって欲しくありませんから。」
イオルに笑顔を向けるユーンさん。
「うん!心配してくれてありがとう!」
そんなユーンさんにイオルが抱きつくのを微笑ましく思った。




