異世界の洗礼
町の場所が分からないためとりあえず適当な方角にまっすぐ進んでみる。
「これ完全に遭難フラグだよなぁ」
ただ、女神様が森のど真ん中に転生させる、なんてことはしないと思うししばらく歩いて森を抜けなければ最初の場所に戻り、今度は反対に歩いてーなどと考えていたら少し遠くの茂みがガサガサと揺れる。
慌てて木の影に隠れて様子を見ていると茂みから何かが出てきた。
(あれは…ゴブリンか?)
大きさは俺の腰ほどで手足は細く、肌の色は薄い緑色、衣服は身につけておらず鋭そうな牙と爪が見える。
そんなゴブリン?が2匹、1匹は素手だがもう1匹は木の棒のようなものを持っている。
(さて、どうするか)
先手必勝、というには問題が多すぎる。
(魔法があるから不意打ちはできるかもしれない、だが相手の数が見える2匹だけとは限らない。俺は武器になりそうなものは何も持っていないから近づかれたら不利だろう)
俺の今の所持品は女神様が用意してくれたこの世界のものであろう布の服と靴だけだ。
じつはこの服にはとんでもスキルが大量に!なんて虫のいいことはないだろう。
(あいつらが友好的な生物って可能性も…無いよなぁ)
やはり初めて見た生物にいきなり敵対行動を取る、ということに踏み切れず甘いことを考えてしまう。
「ギギッ」
「ギィ」
(なんか話してる?)
そして鼻をヒクヒクさせながら辺りを見回し始めた。
(あ、匂いでバレてるやつか⁉︎)
そしてこちらに向かって歩き始めた。
(しょうがない、やるしかないか)
ここで新しい魔法を試すような無謀はしない。
(水入りバケツ【魔法強化】!)
そして魔法のイメージを持ったままゴブリンとは真逆、来た道に向かって走る!
「「ギギィ!!」」
すると俺を視認したゴブリンが追いかけてきた!
(やっぱり追ってくるか)
走りながら後ろを振り返ると小柄で歩幅も小さいだろうゴブリンがしっかりついてくる。
(地の利は向こうにあり、こっちは慣れない異世界の靴、逃げ切るのは厳しいか)
ただ懸念していた3匹目はいないようだ。
(少し速度を落としてー今だ!)
「くらえ!放水!」
振り返り、武器持ちのゴブリン目掛けて全力で水を叩きつける!
「ギャ!?」
攻撃を受けて吹き飛ばされたゴブリンは手にしていた棒を取り落とした。
「ギィギャ!」
しかし、もう1匹のゴブリンは構わずに向かってくる。
「おらぁ!」
俺は反射的に足をくり出し俺の胴体辺りにあるゴブリンの頭を蹴り飛ばした。
「ギャ⁉︎」
体重の軽そうなゴブリンには効いたらしく後頭部から地面に倒れる。
すぐに魔法の準備。
「水バケツー!」
蹴られた衝撃から立ち上がろうとしていたゴブリンに魔法を撃つ。
「ぎぃぃ…」
再度吹き飛ばされたゴブリンは動かなくなった。
そして最初の武器持ちの方を見るとこちらは初撃で昏倒していたらしい。
「はぁ、なんとかなった…」
だがここで気を抜いてはいけない。
ゴブリンたちに注意を払いながら武器持ちが落とした棒を拾う。
「ただの木の棒ってわけでも無いのか?結構しっかりしてるみたいだし」
スキル付きの装備とかが存在するのかは分からないが何かいい武器が手に入るまでの繋ぎになればともらっていくことにする。
「さっきの蹴りはただのまぐれだしなぁ、あんな綺麗に決まるとはなー」
「で、このゴブリンどうしよう?」
おそらくまだ死んではいないだろう。放置するか仕留めるか、仕留めた場合この世界の魔物の扱いがわからない。
「肉が食えるとか素材が使える。部分的に回収、例えば牙や爪が討伐の証になる。魔物が体内に魔石を生成していてそれを集める。死んだら体が消えてそこにドロップアイテムがーってこれはゲームとかの世界に入ったやつか」
今まで読んだ異世界ファンタジーの知識から考えてみるが答えが出ない。
「可能性は薄いがこいつらが保護対象で狩猟が禁止されている可能性もあるか?いや、それよりギルドに登録していない人間は森でのハンター行為が許可されていない可能性のが高いか」
「うん、最初は余計なことはしないでおこう。まずは町に行く、全てはそれからだ。」
何よりまだ森で迷っている途中なのだから。
初戦闘回でした。