イオルの能力
宿への帰り道、ランプの明かりを頼りにイオルと二人でテクテク歩く。
「やっぱりギルドの食堂はいいな。ご飯もお酒も美味い。」
「うん、私ギルドの食堂で食べたことって無かったんだけどあんなに美味しいんならまた行きたいなぁ。」
「そうなの?結構有名って聞いてたんだけど。」
「美味しいって話は知ってたんだけど…ほら冒険者って男の人ばっかりじゃない?で、その中に1人で入って食事するのってちょっと勇気がいるのよね…。」
「あーそうか、やっぱり女性で冒険者になる人って少ないのかな」
昨日、今日と冒険者ギルドに行って食堂で食事もしたがイオル以外に女性の冒険者らしき人は見たことがない
。」
「全くいないわけじゃないけどかなり少ないかな。身分証替わりにギルドカードだけ持ってるって人はいるみたいだけど。」
「なるほどなー」
「でも本当に美味しかったからまた行きたいんだけど…。その時はジンさんも一緒に来てくれるとうれしいなー。なんて」
「もちろんいいよ。また食べに行こう。」
「うん!」
「ただいま帰りました。」
「ただいまでーす。」
「ああ、おかえり。もう施錠しちまうけどいいかい?」
「はい、大丈夫です。」
宿に帰って来て女将さんに挨拶した後、交代で洗面所を使い歯を磨く。使い捨ての楊枝のようなもので歯の隙間を掃除した後なんかよく分からない白い粉を水と一緒に口に含み30秒程うがいをして口を濯げば完了だ。
それから女将さんにおやすみなさいと言って二階に上がる。
部屋の前までイオルを送り、自分の部屋に入ろうとしたところでイオルに呼び止められた。
「ジンさん、ちょっとだけお話しできない?」
「うん?いいけど。とりあえず部屋入る?」
「え⁉︎あ、う、うん…。」
「じゃあどうぞー。」
俺が入ったのに続いてイオルもおずおずと部屋に入ってくる。
「イスかベッドか好きな方に座って。」
「イ、イスにします!」
イオルの返事を聞きながらテーブルの上にある蝋燭にランプの火を移そうとしたところでふと思いついたことを試す。
(えっと、ギザギザ歯車を指で回すイメージで、ライター!)
ライターで火をつける時と同じ手の動きをして見るとちゃんと火がついた。
最近ではあのギザギザ歯車が無いものも多いけどこっちの方がイメージしやすいと思ったのだ。
そのまま蝋燭に火をつけてライターの魔法を消す。
「わぁ、すごい…」
「これは便利だね。まあでもあまり外で魔法使うわけにもいかないから自前のランプ買わないといけないな。」
今使っているランプはギルドからの借り物なので早めに返さなければならない。
イオルの正面のベッドに腰掛けて話を始める。
「さて、それじゃあ話そうか。話したいことがあるんだよね?」
「あ、うん、改めてなんだけど今日はありがとう。お陰で漁師のみんなも助かりました。」
「俺は大したことはできてないけどね、まあどういたしましてかな?」
「それでね、私たちはお互いのことをもっとよく話し合うべきだと思うの。」
「そうだね、イオルとはまだ今日知り合ったばかりだから知らないことも多いしね。」
「私はその、今日全然役に立たなかったしジンさんとお父さんとのやりとりを聞いちゃったり、ギルドでユーンと言い合ってる時に余計なこと言っちゃったりして正直信用できないと思うけど…。が、頑張るのでこれからもパーティを組んで貰えたら嬉しいの。」
「それはもちろん。何度も言うけどイオルのおかげで今日は助かったんだよ。それに誰にだって失敗はあるんだしそんなに気にしなくていいよ。あと俺はちょっとこの町の常識とかで分からないこともあると思うから教えてくれると助かります。」
イオルが自信なさげに頭を下げるので俺も本心からお願いする。
「うん!私はこの町で生まれ育ったから大体のことは答えられると思うからなんでも聞いて!」
「それは心強いね。イオルも気になることがあったら聞いてね。」
「いいの?じゃあ能力のこと聞いてもいいのかな?ギルドでユーンが昨日見た時と能力が違うって言ってたでしょ?」
「いいけどこれは本当に内緒だからね?俺も貴族に狙われるのやだし。」
「心配しないで、誰にも言わないわ!」
「うーん、大丈夫かな?態度に出てもダメだよ?」
「絶対大丈夫よ!」
自信満々に答えるイオルにギルドで気になったことを聞いてみる。
「イオル、ユーンさんって複数能力持ちだよね?」
「えっ⁉︎なんで知ってるの⁉︎」
「はい、アウト。」
「あっ…。」
「イオルは素直だなー。」
「あ、ち、違うの、ユーンの能力は1つだけよ!」
涙目になって否定してくるが今更言っても怪しくなるだけだ。
「あー、うん、大丈夫。誰にも言わないから安心して。」
「うっ、…どうしてわかったの?」
もう誤魔化せないとわかったのかどうしてバレたのか聞いてくる。
「イオル、複数能力がギルドカードに表示されるはずなのにって俺に聞いてる時にユーンさんの方を見ただろ。それでもしかしたらユーンさんは複数能力持ちでイオルはそれを見せて貰ったことがあったんじゃないかと思ったんだよ。」
俺にカマをかけられたと知って絶望の表情を見せる。
「…ど、どうしよう、ユーンに怒られる…。ユーンの能力のことはご両親とギルドマスターと私にしか教えてないって言ってたのに…。」
「イオル、声に出てるから。そう言うとこ気をつけてね?」
「………、もう私喋んない…。」
イスに座ったまま膝を抱えてしまった。
「ごめん、ごめん。意地悪なこと聞いちゃったね。ほらユーンさんには俺も一緒に謝るから、ね?」
「……。」
「あーそうだ、イオルの能力教えてもらってもいい?仲間の能力は知っておきたいし気になるなー?」
本当に黙り込んでしまいそうなので俺の方から話を振って見る。
「……。私の能力なんか聞いてもしょうがないよ。意味わかんないもん…。」
そうはいいながらも自分のギルドカードを取り出して俺に渡してくれた。
イオル 17歳
登録ギルド サルコス
冒険者ランク G
能力 【人魚】
「人魚?」
「ね?意味わかんないでしょ。魚なんて書いてるけど水の中で息ができるわけじゃないし【獣化】持ちの人たちみたいな変身もできないし。教会やギルドで聞いても誰も知らない、聞いたことないって言われたわ。」
(水の中で息ができないってのはエラ呼吸じゃないから当然だよな。【獣化】ってのは動物になれる能力か?)
「珍しい能力だからって子供の頃に貴族の人が見に来たらしいけど特に何ができるわけでもないってわかって暴言吐いて帰ったらしいわ。それでお父さんの貴族嫌いが加速したんだって。…別に貴族の人に好かれたいわけじゃないからいいけどね。」
(足も人間のもので鱗も無い。…あんまりジロジロ見るもんじゃないな。ほかに人魚の特徴ってなんだっけ?船乗りを惑わすとか。すごい美女とか、これは合ってるな。)
「ふふっ、あまりのしょうもなさにジンさんも言葉を失ったようね、自分の能力が恐ろしいわ。」
俺が黙って考えている間にイオルがダークサイドに堕ちようとしている。
「ああ、ごめん、考え込んでた。ちなみにイオル、人魚って何か知ってる?」
「知らない、聞いたことないもん。ジンさんは何か知ってるの?」
「えっと、上半身は人間で下半身は魚の生物?」
「…完全に魔物じゃない。…聞かなきゃよかった。」
あ、この世界だとそうなるか。イオルがさらに落ち込んでしまった。
ついに明かされるイオルの能力。詳細は次回ですが。
そしてこのお話を投稿し始めて二ヶ月ですがまだ異世界に来て2日目が終わってないと言うね。
今後ものんびりペースで進んで行くのでよろしくお願いします。




