約束
イオルの父、マラムさんからなんとかイオルと冒険者パーティを組む許可をもらえた。
釣り道具店から外に出て扉を閉めたところで一息つく。
「はぁー、緊張したー。」
少し背中が濡れている。これが冷や汗というやつか。
(盗賊と戦った時より遥かに緊張したわー。アレかな、それっぽいこと言ってみたけど実際に結婚の挨拶に行った時とかこんな気分なんだろうか?)
そんな機会はなかったからわからないがこんなこと考えていても仕方ないしあまり待たせてもいけないからとイオルを探すことにする。
「さて、イオルはどこだろ?待っててくれてるはずだけど漁師さん達のとこかな?」
なんて呟きながら見回すが見える範囲にはいないようだ。
そうしてふと釣り道具店の方に振り返る。
「あっ…。」
「うぉ⁉︎びっくりした。えっ、そんなとこで何してんの?」
何故か釣り道具店の窓の下でしゃがみ込んだイオルがいた。
「あ、あはは、別に何にもしてないよ?」
「いや無理があるって。…盗み聞きなんかしなくても後でちゃんと話すつもりだったのに」
「ごめん。でも心配だったから…。」
「怒ってるわけじゃないから大丈夫。で、どこから聞いてたの?」
「えっと、お父さんが俺を納得させてみろって言ったとこからかな?」
「あー、じゃあ割と最初から聞いてたんだね。」
「うん、ごめんなさい…。」
(よかった、娘さんをください発言は聞かれてないっぽいな。セーフ!)
流石にアレを聞かれてたら恥ずかしい。いやほんとノリと勢いで行動するのやめよう。
「ジンさん?やっぱり怒ってる?」
「いやいや、全然怒ってないよ。それじゃあそろそろギルドに行こうか?」
「うん、ありがと!」
「おーい、兄ちゃん!」
「あ、はい。どうしました?」
漁師さんに呼び止められたので返事をする。
「どうしました?じゃねえよ。魚と釣竿、置いてく気か?」
「あ、そうだ、忘れてた。」
「おいおい、あんな大物と高え竿忘れんなよ。ほら、組合の詰所で預かってるからちゃんと持って帰んなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
伝えてくれた漁師さんにお礼を言って言われた通り組合の詰所に寄ることにする。
「すみませーん、魚と竿を預けてたんですがー」
「お、来たか。置いて帰っちまうのかと思ったぜ。」
「竿はそこに置いてるよ。魚は今から持ってくる。」
建物に入るとゲンさんとカイさんが出迎えてくれた。
「すみません、お手数かけます。」
「なーに、気にすんな。お、そうだ、今から金が返って来た祝いに飲むんだがジンも参加しねえか?」
「あー、お誘いはありがたいんですが先約がありまして。」
「そうか、じゃあまた今度でもいいから飲もうや。酒は飲めんだろ?」
「ええ、もちろんです。ぜひご一緒しましょう。」
「よっしゃ、約束だからな。」
「おいおい、親父。ただでさえ最近飲み過ぎなんだから少しは控えてくれよ。」
カイさんがデカイ木箱のようなものを担いで帰ってきた。
「ほい、ダイヤトラウトはこの中に入れてあるからな。」
「ありがとうございます。木箱はちゃんと返しにきますので。」
「ああ、こっちに来る用がある時のついででいいからな。」
木箱を受け取り開けて中を見てみると綺麗な魚体があった。
「わー、やっぱり大きいね。ジンさん持てる?」
「肩に担げばいけると思うよ。」
「じゃあ釣り道具は私が持つね。あ、その棒も貸して。」
「ありがとう、助かるよ。」
イオルに釣り道具と武器にしてる棒を持ってもらう。イオルは元々自分のボウガンも持っているので両手が塞がってしまった。
「お、帰るか。ジンもイオルも世話になったな。」
「二人とも今回は本当に助かった。ありがとな。」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。」
「二人ともまたねー。」
二人に挨拶をして外に出る。
「ジンさん、荷物どうしよう?さすがにこのままは行けないでしょ?」
「そうだな、一度俺の宿泊してる宿に行っていいかな?」
「いいよー、あ、なんなら私もその宿に移っちゃおうかな、明日からも一緒にパーティ組んでくれるんでしょ?」
そう言って笑顔を向けてくる。
「それはもちろん。お父さんにも許可を貰ったからね。」
「うん、私を守ってくれるんだもんね?」
(あ、そっちは聞かれてたか。)
「マラムさんと約束したからね。あ、そうだ、イオルにたまには顔を見せるようにって言ってたよ。」
そういうとイオルは少しバツが悪そうな顔をする。
「あーうん、…実は二週間くらい前に冒険者になるって言ってお父さんと喧嘩になってそのまま飛び出しちゃったから会うの気まずいんだよね。」
「そうなの?」
「うん、今日会ったのも二週間ぶり。手紙のやり取りはしてたけどね。ちゃんと冒険者になったこととかどんな依頼を受けたとかは報告してたの。その手紙で今回のことを知って帰って来たのよ。」
(衝撃の事実、でもないか。冒険者になるの反対されてるのは聞いてたしマラムさんも言ってたし。でもちゃんと手紙でやりとりして認めてもらおうとしてるあたりイオルもお父さんが好きなんだな。)
「ん?なーに、なんかニヤニヤしてるけど。」
「いや何でもないよ。ほら、行くよー」
「はーい。」
ようやくカルノ湖を出て宿に着いたのはだいぶ辺りが暗くなってからだった。
前話ちょっとだけ修正してます。




